第72話 妖精女王
「つまりスービニアに住んでいる人達の本音を聞いて、それをカナデに伝えるって事?」
「そういう事。私だけの言葉で足りないなら、沢山の人の言葉を伝える。それでフリスに協力してほしいのが」
「その人が心ではどう思っているのか、でしょ?」
今の時点で言える確定的な未来は一つもない。なら、今世界に住んでいる人達が預言書についてどう思っているかを聞く。
それが未来に直接繋がるかは分からないけど、彼女達の存在意義を証明するのには充分だと思ったからだ。
「不本意なのは分かっているけど、お願いできないかな」
「分かった。でも一つだけ条件があるんだけど」
「条件?」
その為にはフリスの協力が必須になるわけだが、人の心を読む事自体そこまで好んでいないので断れるかと思いきやアッサリと了承してくれた。その代わりに条件を出されたのだが、それはまた後での話として。
話はカナデの説得に戻る。
「こ、こんなの聞いたからってどうなるのよ。私達が世界から必要なくなるのは事実じゃない」
「預言書は必要なくなるかもしれないけど、カナデ達がこの世界から必要なくなるわけではないでしょ? ほら、ユニだって預言者の役目は終えたけど、こうやって私達に協力してくれている」
「だから私もユニと同じように協力しろって言うの?
私は預言書として存在している事を誇りに思っているの! だから役目を捨てるなんてそんな事はできない」
「なら私が作る。預言書の少女達が、別の方法でその役目を生かせる方法を」
「未来を見る以外に預言書の役目なんて何があるのよ」
「それはこれから見つけるよ」
「そんな約束誰が信じるわけ」
「私は信じる。ユウにはその力があるから」
そう言い出したのはユニだった。彼女はいつの間にか渡した紙を全て読み終えていて、どこか納得したような顔をしていた。
「あなたは預言書の役目を終えたからそんな事を言えるんでしょ?」
「違う。まだ預言者としての役目があったとしても、同じ事を私は言う」
「どうしてそんな事を」
「私は私として生きたいから。そしてその場所を作ってくれるのは、ユウしかいないから」
「生きたいって何を当たり前の事を」
「当たり前の事だから私達には必要。預言書としても、普通の人間としても私は生きたい」
「生きたいなら、こんな中身のないものに賛成しないで、私達は私達で生きれば」
「カナデ、それは矛盾してる。必要とされたいのに、どうして私達だけで生きるの?」
「そ、それは」
今まで強気だったカナデが初めて言い淀む。もしかしたらカナデは、必要とされたいとかそういうことを考えているのではなくて、ユニと同じように生きたいだけなのでは?
預言書として忘れ去られても、彼女は純粋に生きたいのかもしれない。それも、一人ではなく今ここにある輪の中で。
「ごめんカナデ、私勘違いしていた。カナデは忘れ去られるのが嫌なんじゃなくて、生きたいだけだったんだね」
「な、何よいきなり、分かったような事を」
「よし、決めた」
俺はそれが分かっただけで充分だった。
居なくならない未来=生き続けられる未来
それを彼女が求めているなら、俺がそれを作る。
「この世界から預言者はなくす。でも、ちゃんとユニやカナデ達がずっと生き続けられる場所を作ろう。その上で、この世界の未来を作ろう」
滅茶苦茶な考えかもしれない。けど何故か分からないけど、俺にはそれができるような気がした。
「カナデ、約束する。まだ確かなものはないけど、必ずカナデ達も一緒に生きれる未来を作る」
「そんな事できるとでも言うの?」
「カナデが望んでいるなら叶える。自分の未来の為なら協力してくれる?」
「結局そこに至るんだ……。でも本当に約束できる?」
「するよ、約束。絶対に」
「分かった、協力する。でももし一度でも破るような事があったら、絶対に許さないから」
カナデはそう言うと俺に触れた。すると僅か数秒の間に、様々な情報が俺の中に流れ込んできた。
「これが私が持っている預言の一部。全部はまだ教えられない。教えて欲しければ私に見せて、可能性のある未来を」
■□■□■□
「フリス」
カナデの一件が落着して、皆がそれぞれの場所に戻る中、私は一つだけ気になった事があったのでフリスに声をかけた。
「どうしたのユニ」
「あの紙に書いてあった事は全部今日聞いてきた内容よね」
「そうだけど」
「なら一つだけおかしい。どうして存在しないはずの人間の声がここに入っているの?」
「……どう言う意味?」
私が気になっていたのは、渡された紙の中で一人だけ妖精族の声が入っていた。しかもそこにはご丁寧に名前まで書いてあって、そこに書いてあったのは、
「妖精女王」
「っ!?」
「どうして今行方知らずと言われている妖精女王の声が入っているの?」
「そ、それは別に私の遊び心で書いただけで」
「ユウは本気であなたに頼んだのに、そんな事をするの?」
「ち、違う。そういうわけじゃ」
「なら正直に聞くけど、これ、あなたの名前でしょ? 前編妖精族を統治する妖精女王、フリス、いえ」
目の前にいる彼女の名前。そしてその真の名前こそ、
「アティーニ」
ただの妖精族の少女と思われていた彼女の正体。




