第69話 再スタート
あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか。俺がようやく目を開く事ができたのは、あの別れからかなり時間が経った後だった。
「……」
周囲を見回すが、誰かが居る気配はしない。恐らく俺が目を覚ますまでは、そっとしておく事にしたのだろう。そして起こした体の隣には、ユウニの体が……。
「あれ?」
俺は自分の手を見る。そこにはいつも見慣れた体がそこにはあった。
「どうして?」
もうユウの体は限界がきたから、儀式を行ってユウの体に俺の魂が入るはずだったのに、これではまるで意味がない。おまけにこれだと、ユウニは何のために命をかけて……。
「あ、ユウ、よかった、無事に儀式は成功したんだな」
そんな事を考えている間に、フリスが中に入ってきた。
「成功って、私の魂はユウニの体に移動するんじゃなかったの? だったら失敗じゃあ」
「本来そうなるはずだった。けど、違ったみたい」
その疑問に答えるように、何事もなく体を起き上がらせるユウニ。しかもこの口調は、いつものユウニだ。
「違ったって、じゃあ私の体はやっぱり」
「アーニスが少しでも延命できるように魔法はかけたから、少しは問題解決した。ただ、そこには私の魂が入るはずだった」
「だからあの時、戻ってくるって言ったんだ……」
俺の魂がこの世界に戻ってくるという意味では、成功。
けど、延命措置という意味では意味では失敗。
ただ、ユウニが言ったようにアーニスさんが何かの施しをしてくれたらしく、すぐに死ぬという事はなくなったらしい。
(じゃあ俺の魂が抜けたのって、ある意味では……)
ユウと再会して、俺がこれから先どう生きていくかを教えてもらうためだったのかもしれない。それはあくまで偶然ではあるのだけれど。
「とりあえず良かった、もう会えないと思ったから。まさかアーニス様が転生してくるとは思わなかったけど、おかげで最後のお別れができたよ」
「最後のお別れ……」
そうだ、俺がこうしてユウとして戻ってきたという事は、もうアーニスさんに会う事は二度と無くなってしまった。ユウニに気を取られて言い忘れていたけど、最後にちゃんとお別れを言うべきだったのかもしれない。
(すいませんでした、アーニスさん。でも俺の為に、最後に頑張ってくれてありがとうございます。おかげで俺は……)
「そうだユウ。一つ忘れていたけど、私名前を変えた」
「え? 名前を?」
「私は最初あなたにユウと名乗ったからユウニになった。でも今度から私は一人の人間として、ユニとして生きていく」
「それはやっぱり、預言者としての役目を終えたから?」
「うん。そして今度からその役目を、ユウが受け継ぐ」
「私が? ユニの?」
「預言書の内容を覚えているのはユウだけ。だからユウはこれから、誰も知らない未来をつくる預言の少女となる」
「私が預言の少女……」
それは本物のユウも同じ事を言っていた。けど今改めて考えると、その役目の重さは言葉じゃ表せないくらい重いのではないのか?
そんな重い役目を俺が担うのなんて……。
「ユウならやれると思うよ私」
不安になっていく俺に対して、そう言葉をかけてくれたのはフリスだった。彼女には俺が今考えた事も伝わっているのだろう。
「フリスは私にやれると思うの? これまで沢山罪を犯してきた私に」
「え? 罪? 私はそこまでは知らないけど」
「ユウ、未来を救うのと罪を犯してきたのとは関係ない。それに何度も言っている。未来を救えば罪の償いだってできる」
「そこまで言うなら、頑張ってはみるよ」
未来を救う事で罪を償う
それってとても簡単には思えない話ではあるけれど、この前ユニと約束もした。俺はその役目を最後までやり通すって。
だからその過程で、俺が預言の少女になるのも、必要ならなるしかない。
「ただ、まだ預言者の情報は完璧じゃない。二冊目の預言書、そして三冊目の預言書を解読しないと」
「そういえば三冊目は見つけたの?」
「見つけたよ。ただ、協力を得るのは難しいかも」
「それはユウニの言葉が悪い。ちゃんとした意思を伝えないと」
「でも犠牲になりたくないって気持ちは理解できるし」
「犠牲という言葉が悪い。これから私達がする事は、何かの犠牲を払ってするものではない。その為にも、再出発しないと」
「うん、そうだね」
そもそもスービニアに戻ってきたのは、ユドリシアの場所を教えてもらう為だった。だからその場所が分かれば、すぐにでも動かなければならない。
「ねえユウ、今度は私も付いて行っていい?」
儀式を行った部屋から出る際、フリスが俺に聞いてきた。
「ユニに協力してくれるの?」
「まだ分からない。でも私も、ユウ達と一緒に行動して、もっとこの世界の事を知りたい。それが私が今するべき役目だから」
「役目?」
「あ、えっと、とにかく私も付いて行っていいよね?」
「勿論。ユニも元からそのつもりだったんだし」
「ありがとう、ユウ」
こうして二度目の旅立ちにはフリスも付いて行く事になった。ただ、まだ目を覚ましたばかりの事もあり、出発は少し時間を開けて三日後。
それまで俺は、改めて二冊目の少女と触れ合う事になるのだが……。
「わ、わ、私に触らないで! 恥ずかしいから」
しばらく触れ合っていなかった彼女は、とても難読な少女へと変わり果ててしまっていた。




