第68話 禁忌の力をもう一度
今ユウの体を動かしているのは、俺でもユウでもない、別の誰か。そんな事あり得ないはずなのに、今目の前で起きていることは確かな事だった。
「だ、誰なんだよ、今ユウとして転生したのって」
「それは多分だけど、お兄ちゃんも分かっているんじゃないかな」
「え?」
「だって、最近一人亡くなった人がいるでしょ?」
「いや、なんでそんな事が」
「あり得るのがこの世界なんだよ、お兄ちゃん」
もし本当に、ユウが言っている人物が今ユウとして体を動かしているなら、彼女は果たしてそれを認識していたのだろうか。
「本当はこんな事になるはずではなかったんだよ、お兄ちゃん。多分……アーニス様も驚いていると思う」
「もしかして俺のせいだって言いたいのか?」
「もっと警戒すべきだったという点ではそうかもしれない。サラスティアがああなってしまった以上、常にアーニス様は命を狙われていると考えてもおかしくなかったんだし」
「それは……確かにそうだけど」
あの時俺は倒れて体が弱っていたと言えば、それは言い訳になるのかもしれない。けどもしあの時あの場所で、俺は正常な体でも守る事ができたのだろうか?
「俺には守れる力があったのかな」
「あったよ。ただ、それにお兄ちゃんは気づいていないだけ」
「俺が使えた力って、あの時間を僅かに止められる事くらいだろ。それだけじゃ戦力には」
「ねえ、どうして預言書のあの子はお兄ちゃんに未来を託せる力があるって言ったと思う?」
「分からないな」
「私の体、ううん、お兄ちゃんにはまだ気づいていない力があるからだよ。預言をも越える力が。だから私も、お兄ちゃんに未来とこの体を託したんだもん」
預言を越える力
それはユウニも同じ事を言っていた。けどそう言われても俺の中では、イマイチピンとこなくて、あやふやになっていた。
でもそれは俺が気づこうとしなかっただけで、本当に存在するのではないか? 未来を越える力が。
「お兄ちゃんは神様に頼まれて、この世界にやって来たんだよね?」
「ああ。もうおぼろげだけど、覚えているよ」
「その時に何か託されたりしなかったの? この世界を救う力が」
「あの時に……?」
俺は蘇った記憶を頼りに、この物語の始まりの記憶を辿る。あの時に託されたのは、本を解読する力だ。その力のおかげで、預言書を読み解くこともでできた。
「確か本を解読する力だよな。どんな本でも読み解く事ができる。そのおかげで、預言書も読む事ができたわけだし」
「それってどれくらいの量を覚えていられるの?」
「だいたい一度目を通した本は全部覚えているよ。まあこれは、俺自身が元からある力なんだけど」
これまで読んできた本なら、もう大体のことは覚えている。預言書に載っていた未来も、一冊目と二冊目の内容は大体わかる。
(でもこの前の事はどこにも記されていなかった。ユウニが預言を終える事も、アーニスさんが殺されてしまう事も)
書いてあるはずの未来は、俺が覚えている範囲ではどこにも記されておらず、ユウニも言っていたように預言書の情報も不確かなものが多くなっていた。
現に俺が今こうなってしまった事も、アーニスさんの死がなければ起きなかった事で、確実に預言書というレールは外れている。
「読んだ本を記憶しているなら、それを別のことに活用できないかな。例えば、そのレールが外れているなら、お兄ちゃんの力で修正するとか」
「でもそれだと、預言書がない未来を作る事ができないだろ?」
「だからそこもお兄ちゃん次第なんだってば。レールの上を走らせた上で、そこから未来を作るんだよ。全部覚えているなら、それも可能でしょ?」
「それはそうだけど、もうそれは出来ないんじゃないのか? 俺の魂もユウの体も限界だって」
それに今ユウの体にはアーニスさんの魂が入っている。もう俺にはあの体に戻る事もできない。
「ならその不可能なことも越えて見せてよ。未来話変える一歩として」
「越えるって言ってもどうやって」
「ユウさん、いえこの場所ではリュウノスケさんと呼ぶべきでしょうか」
俺の言葉を遮るように、アーニスさんの声がする。
「やっぱり今ユウの中にいるのはアーニスさんなんですね」
「はい。まさかこんな事になるとは思いませんでしたが、どうやら私の出番はここまでですね」
「え?」
よく見るとユウとして見ていた視界が、いつの間にか再び真っ暗になっていた。アーニスさんの声がしたのも、その為なのだろう。
「アーニスさん、これは一体どういう」
「ユウニさんに託したんですよ。リュウノスケさんの魂がもう一度私達の世界に戻す方法を」
「そんな方法があるんですか?」
「ほぼ禁忌に近い力ではありますが、リュウノスケさんの為に使う事にしました」
「禁忌……まさか」
俺はその方法について、今まで読んできた本の中で一度だけ思い当たるものがあった。ただその代償は、
「リュウノスケ、迎えにきた」
「その声はユウニ? 迎えにきたってやっぱり」
「リュウノスケに全てを託す。私の記憶も全て」
「駄目だユウニ、お前は何の為にあの姿になったんだよ」
「これしかない。だから……」
器となる術者の魂。つまりこの方法は、俺がユウとして転生した時と同じ方法。禁忌と呼ばれるのはその代償の大きさ。
「ユウニ!」
「大丈夫、私は体を託しただけ。また会えるから」
俺はその禁忌を二度犯し、再びあの場所へと戻るのだった。大きな代償を払って。




