第67話 魂の行方
元々私がユウと名乗ったのは、彼女と私が直接的な関係がある事を伝える為だった。そもそも私達には正式な名前などない。
では他の二人もどうして名乗ったのか、そこにも理由がある。そしてその理由こそが、この世界を動かす本当の理由になる。
「そんなに簡単に名前を変えていいの?」
「いつかは名前を自分で決めようと思ってたから。もう、ユウニとしてもユウとしても、役割は終わったから」
形はどうあれ彼は記憶を取り戻した。となれば、私はもうユウとしてある必要はない。今度は私は私として生きる。
これはその為の一歩。
「でも今は私より、ユウの方を心配しないと」
「ユニは思い当たる事はないの? どうして目を覚まさないのか」
「思い当たる節は、一つだけある。でもそれは、あってはいけない事」
「あってはいけない事?」
「ユウの体から魂が消えたという事。一番あり得ないような話にみえて、実は一番あり得てしまうの」
「魂が消えた……?」
難しい表現かもしれないけど、そう説明するしかなかった。何の前触れもなくいきなり倒れて、それから一度も目を覚まさない。そして彼女の体は特殊な状況下にある。
そこから考えられる結論は、たった一つで、最悪な可能性だった。
「フリスはユウのことは聞いている?」
「うん。今はナツメリュウノスケが転生した姿なんでしょ?」
「そう。もしそのリュウノスケの魂が、器の体から抜けたらどうなる?」
「もしかして今起きている事が、そういう事だって言うの?」
「それが一番近い結論になる」
「じゃあもうユウは目を覚まさないの?」
「それはこれからの私達がどうするかによって変わる」
「それは方法があるってこと?」
「ただそれ簡単な話ではない。だから急がなければならない。早く取り戻さないと」
魂を体に戻すなんて、普通ではあり得ない話。でも普通ではない事があり得るのが、この世界であり、私である。
「こんなところで終わらせたりしない。ユウの人生はこんなところで終わらせない」
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何もない空間でい続けて、どれくらいの時間が経ったのかは分からない。音もなく匂いもなく、俺を取り巻くのは無の空間。
(俺は今どうなっているんだ? ユウニは? ラーヤはどうなっているんだ)
暗闇の中で考え続ける事もずっとその事ばかりだった。あの場がどう収束して、二人はどうなったのか俺は知らない。だから今すぐ可能区間から抜け出して、
「もう戻れないよ」
「え?」
突然今まで何もなかった空間に声が与えられる。しかもその声は今まで聞いた声の誰の声でもないもの。つまり全く知らない人物の声が、前触れもなく聞こえてきたのだ。
「誰だ」
「あー、やっぱり覚えてないんだね。記憶を取り戻しても、流石に声までは分からないよね。リュウノスケお兄ちゃん」
「俺を知っているのか?」
ユウとしてではなく、夏目龍之介として俺の事を知っている人物なんて、この世界では指で数えられるくらいだ。
そしてそれを踏まえた上で、今俺が置かれている状況から察するに、この声の主は……。
「もしかして、ユウなのか?」
「うん、そうだよ。やっと、私の事わ思い出してくれたんだね、お兄ちゃん」
嬉しそうに言うユウ。
「でもどうしてユウが、今ここにいるんだ?」
「どうしても何も、私はずっといたんだよ? ずっとお兄ちゃんと私は一緒だったの」
「どういう事だよそれ」
「見てみれば分かるよ」
「分かるって何が、うわっ!」
暗闇が晴れ、見えたのはユウニの顔。目を覚ましたのかと思い、声を出してみたもののそれは届かない。それなのに、ユウニは俺が……いや、ユウが目を覚ましたことに反応して、話しかけている。
「そういう事か」
「そう、そういう事。ここは私という体の中なの。でも今お兄ちゃんの魂は、私から切り離されているの」
「何でそんな事が」
「もう限界が来ているからだよ。私の体も、お兄ちゃんの魂も」
「限界?」
理解ができなかった。だって今までそんな事なんて一度も起きた事がなかったし、俺は何度もこの世界で転生を繰り返している。だから限界なんて事はないはずだ。
「たとえ転生が続いても、それが永久なわけないでしょ? そもそもどうしてお兄ちゃんが転生を繰り返しているのか、考えた事がある?」
「え? それは……呪いか何かかと」
「違うよ、お兄ちゃん自身に原因があるからなんだよ」
「俺自身?」
「それが分からないから、皆どんな手を施してもその輪から抜け出させる事ができないの。でもお兄ちゃん、つい最近記憶を取り戻して、その原因が本当は分かっているんじゃないの?」
「それは……何となくだけど……」
ユウは全てを見通しているかのように言う。でもそれは彼女の言う通りで、俺は少しずつ何故自分がこうなってしまったのか、そしてどうすればこの繰り返される輪から抜け出せるかを理解し始めてしまっていた。
「でも俺は今やる事があるから、ここでこのまま終わる事は出来ない」
「だからもう戻れないんだって」
「だからどうしてだって」
だがその答えを聞く前に俺は気づいた。さっきも言ったが、ユウニがユウが目を覚ましたかのように話しかけている。いや、目を覚ましたのだろう。
だったら、
「今誰がユウになっているんだ?」




