第66話 生きて償い、そして
ユドリシアへ向かう為に、一度スービニアへと俺達は帰還した。
「アーニス様が……?」
「嘘でしょ」
ただその帰還の際に、俺はラーヤ達にアーニスさんの事を伝えざるおえなかった。隠していたって意味がないし、黙っていたら逆に罪悪感が湧いて辛くなる。
「サラスティアも今、元王国騎士団長に支配されていて、簡単には足を踏み入れられない状態なの。私達もそこから命からがら脱出してきたから」
「私達が知らない間にそんな事が」
「本当にごめんなさい! 私が何もできなかったから……」
自分の不甲斐なさから頭を下げる俺。それに対して皆が重苦しい反応を見せながら、ラーヤ一人だけが、違った
「なら責任取ってよ、ユウ」
「せ、責任?」
「王女を守れなかった責任、取ってよ」
「ラーヤ、何を言って」
ラーヤはどこから取り出したのか、ナイフを俺に突きつける。
「ラーヤ、それはやりすぎ」
「サシャルは分からないの? アーニス様がこの子を守った本当の理由を」
「それは……」
「なら分かるでしょ?私が何をしたいのか」
ラーヤがしたい事、俺を殺す事なのか?
それとも別の理由があるのか?
それはユウとしてではなく、ユウと夏目龍之介として、何かの理由が。
(アーニスさんが、俺とユウニを身を呈して守ってくれた理由は……)
「ごめんねユウ、ううん、リュウノスケ。これはあなたが嫌いだからする事じゃないの。私は……私達はあなたを助けるために、あなたを殺すの。ユウの姉がそうしたように」
「私を助けるって、それはどういうことなの? 確かに夏目龍之介は何度模試を繰り返しているかもしれない。でも私は、この命を大切にして」
「もう生きなくていいよ。そうすれば誰も苦しまなくていいし、誰も悲しくならないから」
ラーヤは喉元に突きつけたナイフを刺そうとする。けど不意にもそれを止めたのは、ユウニだった。ナイフの部分を掴んで止めたからか、彼女の手からは血が流れている。
「ラーヤ、駄目」
「何で止めるの! 未来を変えたいのか知らないけど、私はこの世界が滅ぶというならそれでもいい! 最後のその時まで、この国を私が支えるから!」
「ラーヤがしている事がどんな未来になるかは分からない。でも、私は止める」
「ちょっ、ちょっと、手を離さないとあなた手が」
「ユウを守るためなら、これくらいはする」
「ユウニ……」
俺の目の前で繰り広げられている攻防。俺はそれを呆然と見ている事しかできない。
今すぐユウニの手を治療をしてやりたい。
今すぐサシャルを止めたい。
頭の中で色々な事が回り、巡る。どちらも必要な事だし、俺はやはり死ぬ事はできない。
「ごめんラーヤ、苦しませてばかりで」
「私だけじゃない! 皆が何度も苦しんでいるの。それでも受け入れて、ユウちゃんはあなたに全てを託した。苦しみ続けるくらいなら、もう終わらせよう」
「でも俺は簡単に死なない」
アーニスさんを救えなかった事は、確かに俺に責任がある。でもその責任の取り方は、決して死だけとは限らない。その意味をユウニは俺に教えてくれた。
「それはリュウノスケとしての言葉なの?」
「こんな声で言うのもアレだけど、これは間違いなく俺の意思だ。償わなければいけない事が沢山あるのだって知っている。でもそれは、生きて償う」
「もしかした記憶が……」
「取り戻したよ、全部。だからこれから自分がしなければならない事を、生きてしていく」
「ユウ……」
「苦しませているのは分かっている。それを私がどうにかできるわけでもない。だけど、それでも私は」
彼女の為に、生きたい。
そう言葉を発しようとしたその時だった。突然何も見えなくなったのは。
(あれ?)
手と足の感覚も何もかもがなくなった。本当に突然。まるで魂が抜けたかのように、俺は暗闇の中にいる。
声も出せない、何も触らない。何も聞こえない。
それは本当に突然、何の前触れもなく俺を襲った。
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「ユウ、目を覚ました?」
「ううん、全く動かない。心臓は確かに動いているんだけど、目を覚ます気配がないの」
ユウが突然倒れてから三日が経った。私がラーヤを止めているほんの一瞬の間に、彼女は倒れてそれから目を覚ましていない。
今フリスが言ったように、心臓は確かに動いている。けど、それだけだった。
(こんな未来も私の知らない部分で預言されてたの? それならどうして……)
世界を救う未来に彼の姿があったのだろうか。
「フリス、少し休んだほうがいい。まだ回復してない」
「そういうユウニだって、休んでないでしょ? お互い様」
「……」
ユウの看病はほぼ付きっ切りで彼女が行なっていた。時々交代はしているものの、ほとんどがフリスが行なっている。
それと同じくらい私もやっているから、人の事は言えないんだけど。
「どうしてこうなっちゃったんだろ、ユウ」
「分からない。少なくともこんな未来にならないはずだった」
「それは預言書に書いてなかったって事?」
「分からない。私はもう、役目を終えたから」
「役目を終えた?」
「私はもう預言書ではない。ただの少女。名前は……これからはユニと名乗る」




