【15】 新人レーサーの壁
由利「6番から流しか」
丹沢「『流し』って、ここは台所か?」
由利「ボケるにしては面白くない!」
丹沢「確かに」
丹沢がうなだれた。
丹沢(う~ん、まだまだボケが未熟だな。そう考えると吉本の連中はすごいな)
由利「うん。それにしても丹沢さん、すごい舟券を買ったね」
丹沢「何が凄いの?」
由利「頭が(1着が) 6番なら、配当が相当つくよ」
丹沢「へぇーそうなんだ。オッズ(配当金の倍率)を見ないで買ったからさっぱりわからないや」
由利「速水爽香の今までのレース成績を見た?」
丹沢「いや見てない。とにかく6番が、私の探している速水爽香だと信じて買ってみた」
由利「速水爽香が1着だと当てるのでは無く『速水爽香が転入者本人だ』と当てたいのね?」
丹沢「そうなるかな」
由利「そうだと思った。それじゃ、舟券予想になってないよ」
丹沢「『速水爽香が本人である』と信じて、私の夢を託してみた」
由利「丹沢さんらしいな。でも、速水爽香が1着になるのは相当難しいよ」
丹沢「どうして?」
由利「木曜日から昨日の土曜日まで5回すべて6着だよ」
速水爽香にとって、デビューから2節目。
1節目では周回展示で転覆。
この2節目もオール6着と良い所が無かった。
丹沢「それって良くないの?」
由利「私の知る限りでは、ボートレーサーの中で最下位のクラスだな」
丹沢「でもまぐれで1回ぐらい1着になることは?」
由利「ないね。そんなにボートレースの世界は甘くないから」
丹沢「甘くない?」
由利「ボートレーサーは、みんな生活がかかっている。レースの賞金で家族を養っている訳でしょ」
丹沢「ふーん」
由利「みんな1着になるため、そして優勝するために必死に練習して、何百レース何千レースを経験してきているから」
丹沢「ふむ、ふむ」
由利「速水爽香は、ボートレースの学校を卒業して、まだ間もない。レース経験もほとんどない。このメンバーでは1着どころか3着以内も無理だろうね」
丹沢「ふーん。ボートレースの学校と言うのがあるんだ?」
由利「あるよ」
丹沢「3年間の通学が大変だな。今、電車も混むし、痴漢も多いからな」
由利「ないない。正式には『ボートレーサー養成所』だけれど。全寮制で1年間だ」
丹沢「でも、学校を卒業しているんだから一人前のレーサーじゃないの?」
由利「自動車の運転でも、自動車学校を卒業したばかりの者と十年運転している者と運転技術は格段の差だよね」
丹沢「それはそうだ。駐車場のます目の中に車を停める時、かかる時間が全然違うしね、上手い人は一回でマスの真ん中に駐車するもんね」
由利「それと同じようにボートレースでも、直線を走るのはともかく、ターンをする時には経験がものを言うんだ」
丹沢「そうかぁ、そうなんだ。でも、私は彼女に賭けてみるよ」
由利「絶対に無理ですよ」
丹沢「絶対に?」
丹沢は、けげんな顔をした。




