【11】 丹沢、水面へ飛び込む!
そう言うと丹沢は上着を脱いで、
観客席から第2ターンマークで転覆した舟の方に走って行った。
それを由利が追いかける。
丹沢「私が助けてやる!!」
由利「ちょっと待って!」
丹沢「レーサーの命がかかっているんだぞ!」
由利「丹沢さん、待って! 待って!」
丹沢がズボンを下ろしながら
水面淵のフェンスに登り始めた。
由利がその下げたズボンを捕まえた!
丹沢は、ズボンを脱ぎ捨てようと、
ズボンを蹴飛ばした。
由利はズボンと一緒に蹴飛ばされた。
丹沢は、フェンスを越えたが、
バランスを失った。
丹沢「ああっ、落ちる!」
ボートレース場の水面には、
『消波装置』という波を消すオレンジ色のボードが浮いている。
消波装置は、両岸から1mほど離して
コース一面に張り巡らされている。
丹沢は消波装置とスタンドの間の水面に落ちた。
「ドボン!!」
その時だった。
1マークのブイ付近からレーサーが、
ひょっこり浮き上がって来た。
続いて丹沢も水面に浮き上がって来た。
丹沢「あれっ? あいつ浮いて来たぞ」
丹沢が沈んだはずのレーサーを
横目で見ながら言った。
由利「丹沢さん、レーサーが浮き上がって来た。大丈夫みたいだよ」
丹沢「えっ!」
丹沢が水面から答えた。
丹沢は急に力が抜け、
脱力感が全身に伝わっていった。
「ブクブクブク……」
丹沢が一旦沈んで、また浮き上がった。
由利「転覆したレーサーだけれど、溺れて沈んだ訳じゃないんだ」
由利がフェンス越しに言った。
丹沢「えっ! なんだって? それ、早く言ってよ~」
由利「だから『丹沢さん、待って! 待って!』って、叫んだじゃない」
丹沢「そうだっけ?」
由利「そうだよ。言っても聞かなかっただろ。レーサーは、転覆したボートの下に隠れていたんだよ」
丹沢「なに言ってるの? 6人で、かくれんぼしてたの?」
由利「ひっくり返ったボートの下で、ハンドルを握っていたんだよ。『ハンドルだけはどんなことがあっても絶対に離すな』って養成所で教わるらしいよ」
丹沢「なんのために?」
由利「そこが一番安全だから」
丹沢「どういうこと?」
由利「ボートのプロペラってとても危険なんだ。腕や足が切れてしまうくらいに。だから他のボートに轢かれないようにボートを盾にして身を守るんだ」
丹沢「それで身を隠していたのか?」
由利「うん。選手の中には、ハンドルを放さないように、握力を付けているものも居るんだ」
丹沢「それ、早く言ってくれる?」
由利「それ、早く聞いてくれる?」
丹沢「この水の中に居る私の立場は、どうなるんだ?」
丹沢が水面に顔を出しながら言った。
由利「潜ってタニシでも取って来る?」




