第九話【入学試験Ⅲ】
これが、当たり前だった。
どうして、と運命を呪うことはない。
ただ一つ。この運命の先が報われることを、心の片隅で祈っている。
それを為すためにすべきことを、私は毎夜夢に見る。
✤✤
「分かれ道……か、どっちへ進む?」
硬直する俺に対し、意見を求めてきたのはクオールだ。その瞳は、判断を俺に委ねると言っているようで、なおさら俺は言葉に詰まる。
「——じゃあ、僕が右側に行くから二人は左側へ行きなよ」
意外だった。ここは、真っ先に俺を外してクオールと二人になろうとするんじゃないかと思ったから。
そんな考えが顔に出ていたのか、俺を見たリレールは困ったように笑った。
「何だいその顔は。君は僕のことを何だと思ってるのさ。これは試験、二人がペアなんだしこうなるのは当然だろ?」
「いや、でもよ……」
「お前から提案してくれて手間が省けた。さっさと行くぞ、ソル」
「え、あっ、おい!」
リレールに一瞥をくれる事なく、クオールはさっさと左の抜け道へと進んでしまう。
その背を追う俺だったが、にこやかに手を振るリレールの姿がなぜか印象に残った。
「……な、なあ。おいって!」
なぜか早足で進むクオールの右肩を、半ば強引に引き留めた。
足を止めて振り返ったクオールは、なぜか不貞腐れたような顔で俺を見ていた。
「何ださっきから。先を急ぐんじゃなかったのか」
「いいのかよ、あいつ一人で行かせて」
「そう申し出たのはあいつだ」
「でもよ……」
彼女が何に苛立っているのかは分からない。ただ、そんな表情をするくらいなら——という懸念は、口早に捲し立てたクオールの言葉によってかき消された。
「——それに、実力的に見ても俺とお前があいつの足手纏いになるのは目に見えてる」
「は……?」
クオールは瞬きをした。そしていつもの冷静な表情へ戻すと、一呼吸置いて言った。
「名前を聞いて分かっただろうが、あいつは【木の街】で司祭を務めるイオ家の次男で、司祭の弟だ。その才能は歴代当主の中でも群を抜く。おかげであいつは”神童”と呼ばれるほどだ。ま、本人は嫌がっているが」
思い返せば、あいつはサラッと言っていたが”星神力の感知”や”星神力の具象化”なんてものを手慣れているようだった。
(俺だって、ミルキールやメルディーから色々教わっていたとはいえ……そんな単語、口にすらしなかった)
ということは、それらは今の俺が習得できる段階にないか——もしくは、学園に入ってから習うということ。
——格が違う。その言葉がピッタリと当てはまった。
(じゃああいつがわざと一人になったのは、クオールの言う通り足手纏いを減らすため……)
裏切られたとまではいかないが、少しショックを感じないといえば嘘になる。
だが、それにしては違和感がある。その突っかかりの正体が何なのか、今の俺には分からなかった。ただ、それを無視してはいけない予感だけは、確信できた。
「……昔っから、私はあいつのそういうところが嫌なんだ」
か細い声だった。思わず漏れてしまったかのような、小さな声。忌々しげにつぶやいた彼女も、きっとその気はなかったのだろう。暗闇の先を見つめたままだ。
「何をぼさっとしている。さっさと進むぞ」
「あ、おう」
いつの間にか、クオールは数歩先を歩いていた。その背に習うように、俺も歩き始めた。
土の匂いが鼻の奥を刺激し続ける。いつまで続くか分からない暗闇を、二つの松明だけが照らしている。
「そういや、さ。お前もできるのか? その、星神力の具象化? ってやつ」
「……できなくはない。ただ、あいつと違って俺は一つの属性しか具象化できない」
暇つぶしになればと思って持ち出した話題だったが、俺は頬を引き攣る結果となった。
(クオールまで出来んのかよ……まさか、ミルキールのやつが言ってなかったってだけで、ほんとはできてなきゃいけねえもんなのか?)
あり得ない話ではない。叡智だ完璧だなどと豪語するが、その実ミルキールは所々抜けている時がある。それはメルディーにも言えることだが、この親にしてこの子ありというやつだろう。
(具象化、か……どうやるかは知らねえが事によっちゃまずいな)
今の俺には、二つの枷がある。具象化のやり方次第では、その枷に抵触してしまう危険があった。
ミルキールに言われたのはざっくり二つ。一つは、あの力を使わないこと。それはミルキールが封じている”神の力”。だが、それは3年間の訓練で絶えず行ってきたことだ。今更気にかけることでもない。
問題なのはもう一つ。それは——。
「——おい!」
突然肩を引かれる。緊迫したクオールの声に我へ返ると、そこには切羽詰まった横顔を見せる彼女がいた。
何事かと、その視線の先を辿った——だが。
「……なん、だ。これ」
目を見開いた。瞬きさえも許されないほど、その光景は鮮烈だった。
——根が張っていた。土の天井から生えるように。何本も、何十本も。
それらの先端に、何かが——いや。人が、巻かれていた。
「——助けねえと!!」
「待て!」
ハッとした瞬間に動いた体は、目の前に伸ばされた彼女の腕によって遮られた。
「な、何すんだよ!」
「落ち着け! あいつらは気絶しているだけだ! 問題なのは——ソル!」
クオールが言葉を言い切る直前——目の前に、影が落ちた。
「——がっ!?」
衝撃。腹部を殴られたかと思いきや、次に来たのは背中への衝撃。
どうやら俺は、木の根に吹っ飛ばされたのだと悟る。
「ソル! 生きてるか!?」
「……な、んとか。な」
小さく咳き込みつつ、痛む体を押して立ち上がる。
駆け寄ってきたクオールの姿を見るに、どうやら彼女に怪我はないらしい。
なるほど、こうやってこの場所に踏み入った人間を襲っていたのか。
「何だ、あの根は……」
「分からん。ただ、俺にも分かるほど強烈な星神力を感じる。多分、試験官に操作されてるんだろう」
「じゃあ、これも試験の一環ってことか。正規ルートに行けてることを願うっきゃねえな……」
「動けるか?」
「おう、これくらい慣れっこだ」
ミルキールの修行と比べれば痛みとも呼べない。それが強がりではないとクオールも分かったのだろう、俺の様子を伺っていた彼女の瞳はまっすぐ木の根を見つめた。
「……なら、お前はできるだけ木の根を引きつけてくれ。その隙に俺が捕まってるやつを助ける」
「いいのか?」
「それを聞くのは俺の方だと思っていたんだが……たまには、恩を売るのも悪くはないさ」
珍しく微笑んだクオールと視線が合う。態度や口調こそ乱暴なものはあるが、やはりこいつは悪いやつじゃないのだと確信を持てた。
その信頼のままに、俺は走り出す。天井の中心から伸びる根の下をあからさまに横断する。すると、根は触手のように寄ってたかって俺を拘束しにかかる。
「——っと!」
こんなもの、ミルキールの高速弾幕に比べれば練習台にもなりはしない。四方八方から押し寄せる根を避けながら、それとなくクオールの様子をそれとなく見上げた。
✤✤
——別に、誰かを助けたいわけじゃない。
自分のことさえままならない人間が、誰かのことをどうにかする余裕はないのだから。
(……それでも)
ソルを捉えることへ意識を割いているのだろう、拘束されている根が緩んでいる。
太い木の根を登り、緩んだ拘束を力づくでさらに緩める。根と人の隙間に手を入れ、その体を抱えるように引きずり出す。
「……よ、っと」
これでもう何度目だろう。足を踏み外さないよう気をつけながら、同じ背丈の少女を背負う。自分と同じ歳の人間を背負う事にすっかり慣れてしまった。
足元を覗けば、今も尚懸命に木の根を避け続けているソルの姿が見える。
気絶レベルの攻撃を受けて動き回れていることに驚きつつも、木の根がこちらに意識を割く前に地上へと降りる。
(いくらか助け出せたか……)
背負っていた少女を壁際で寝かせる。あと何人だろうと顔を上げた——その時。
「——クオール!!」
ソルの声だ。何事かと思うより先に、目の前へ迫る木の根があった。スローモーションになる視界の中で、俺は反射的に体を捻った。
「はぁッ!!」
蹴り上げた木の根は、音を立てて弾かれる。ミシッという鈍い音の通り、根の先端には亀裂が入っていた。
(気づかれたか……)
これだけの人数を助けていれば当然か、と思いつつも申し訳なさそうにこちらの様子を伺うソルの姿があった。
「平気だ! お前はそのまま避けを徹底してろ!!」
あいつに落ち度はない。逆に、あんな攻撃を喰らってここまでの仕事をしてくれているのだ。賞賛ものだろう。
再び向かってくる木の根を蹴り上げる。倒れている奴らを再び拘束しようとしているのだろうが——させる訳がない。
「……ふぅ」
ソルが引きつけているおかげで、こっちの相手はたったの2本。
(こいつらも気絶してる事だし、今なら——)
足や拳に熱が籠る。その熱は全身をめぐり、鼓動を早める。視界が広がり、根の動きが鮮明に見えた。
「——はァッ!!」
カウンター形式で、根を弾き飛ばす。二度、三度と繰り返していると、やがて根は動きを止めた。
いや——先端が焼けるように抉られた根は、もはやその剣を折られたに等しかった。
「……ぅ」
背後から微かな声がした。ハッとして横目で見ると、先ほど助けた少女のまぶたが僅かに動いた。
「……う、うぅ。ここは……?」
意識が朦朧とするのか、頭を押さえながら起き上がった少女へ駆け寄る。
「起きたか! よかった。寝起きですまないが、動けるなら自力で——」
「——ひぃッ!!」
反射的に、伸ばした手が止まる。よく知った表情に、大丈夫だと言い聞かせてきた心が揺れる。
(……違う。きっと木の根に怖がってるんだ。そうだ、そのはずだ)
私を見ている訳じゃない。その青白い顔も、怯えた瞳も、全てあの根に向けられたものだ。
そう思いたかった。そうであって欲しかった。
だが、その言葉をつぶやいた少女の瞳には……赤い瞳の私が、写っていた。
「——狼人族」
怯え切った少女は、何もできなくなった俺から逃げ出すように駆け出していった。その背を追うことが、今の俺にはできなかった。
ただ、あいつには——ソルには、この瞳が見えていないことを祈るばかりだった。
✤✤
根の攻撃をかわし続けていると、その攻撃が怯んだのが分かった。
何事かと周囲を見渡すと、救助した奴らを庇うように根へと応戦するクオールの姿が見えた。
大丈夫だと言ったあいつは、その言葉通り応戦を続けていた。するとその途中で、気絶していた一人が目を覚ました姿が目に入った。良かった、という思いと同時に——その少女が、なぜか駆け寄ったクオールを見て怯えている様があった。
(何かあったのか?)
きっと混乱しているんだと思い、隙を見て思わず二人の元へ駆け寄った。
だが、聞こえてきたのは怯えた悲鳴と——とある一言だった。
「……狼人族」
青ざめた表情で、震わせた肩で言った少女は、逃げるように俺たちが入ってきた入り口へと走り去っていった。
俺の脳にはただ、少女が発した言葉があの日の記憶と共に反芻していた。
『……狼人族? なんだよそれ』
『ある、特定の一族を指す蔑称だ』
いつも通りの座学の授業でミルキールは言った。その日は各街のとその民の特徴について習っていた。
『【火の街】に住むマーズの民は、約75年前に起きた”火神戦争”でその数を半分まで減らしたのだ。現在残っているのは、その生き残りと……事態を鎮静化させたダイモス家の人々だけ』
『火神、戦争……』
『ああ。当時の【火の街】で司祭の立場を争っていたのはフォボス家とダイモス家。火神戦争とは、そのフォボス家……引いてはそれに連なる者たちがこの国に反乱を起こしたものだ。当時、彼らは青いその瞳を炎のように赤くし、まるで獣のように人々を襲ったとされている。そこから、彼らの血を引く者たちを”狼人族”と呼ぶようになった』
国を裏切った涜神者——その一件以降、彼らはそう呼ばれ蔑まれている。
星神力を使うと変わる赤い瞳。それが唯一、彼らを見分ける方法であり、彼らが彼らたる証。
だが、その時の俺には何ら実感はなかった。関わることのない話だと一蹴し、メルディーにもミルキールにも詳しい話を聞かなかった。
そんな俺が。きっと今、彼女にとって大切な何かに触れようとしている。
その資格があるのか、その相手が俺でいいのか。危惧すればキリがない。だが、それでも。彼女はその場に座り込んでいた。
(放っておけるかってんだ……!)
フードで隠れ、その顔は見えない。しかしそれでも良かった。たとえそこに何があったとしても。
「立てるか、クオール」
座り込んでいた腕を掴んだ。突然のことで、彼女は慌てて顔を上げた。その瞳は——いや。
「……何を」
「俺たちも行こう。時間、急がないとまずいだろ」
「でも……いや、そうだな」
何かを言いかけた彼女は、首を振って立ち上がった。
大丈夫か、なんて野暮なことは言えなかった。ただ、自力で立ち上がった彼女を今は信じることだけだった。
「つっても……こいつらが易々行かせてくれるかって話だよな……」
見据えた眼前には、仕切り直しと言わんばかりに無数の根が入り口を塞いでいた。
「どうやって抜ける? 同じ手に引っかかる可能性に賭けてみるか?」
「バカ言うな。お前だってあの大活劇で相当な体力を持ってかれてるはずだ。それに、何度かやって分かった——俺なら、いける」
——炎だった。
気づいた瞬間には、その場に彼女はおらず。数歩、いや数十歩先をたった一度の跳躍でたどり着いていた。
その光景に息を呑む暇もなく、彼女の拳や足は木々の根を燃やすように破壊していった。
「——ぼさっとするな! 今のうちだぞ!」
ハッとする。その光景に見惚れていなかったと言えば、嘘になるだろうか。
そのほとんどを彼女が破壊したとはいえ、残った幾らかはめげずに襲ってくる。
その瞬間——数分前の体験が、恐怖となって襲ってきた。
「——ソル!」
再び、衝撃が体を襲った。壁に吹き飛ばされて、ずるずると背中から地面へ落ちる。
(ああ、何やってんだ俺。どうして体がすくんだんだ。どうした躊躇ったんだ。こんなの、ミルキールとの戦闘でいくらでも受けてきたはずなのに)
あの時、あの場所にはなかった、明確な何か——俺を確実に倒そうとする、確かな敵対心。それを俺の脳は感じ取ってしまった。
死ぬわけではないと分かっている。生死をかけた試験など行われるはずがないと。
——でも、体は正直だった。
(……怖い。体が、痛い)
離れた位置で、木の根と応戦するクオールの姿があった。必死に何かを叫んでいる。戦いながら、その瞳は俺を見ていた。
(——見ないでくれ)
こんな情けない姿で、こんな情けない俺を。
ああ、こんな体たらく、ミルキールたちが知ったらきっと幻滅される。そう思うと、ますます体が震えそうになった。
(ここで気ぃ失ったら、メルディーが運んでくれっかな……)
俺が稽古で気絶するたび、やれやれと言って部屋に運んでくれたのを覚えている。うっすらとぼやける視界で、そんな光景を何度も見た。
そうだった。二人はこんな俺の無様を、何度も——何百回と見ていたんだ。
『——これは私と母様からの祝福の証。困難の一部を払い除ける、一つの盾』
かつての言葉が蘇る。あの温もりが強張った指先をほぐし始めた。
(そうだ。二人は一度だって、俺を見捨てたことはない)
何度無様を晒そうと、翌日には再び相手をしてくれた。どうして、痛みや苦しさに打ちひしがれても立ち上がれたのか——その意味を、やっと理解する。
(嬉しかったんだ。こんな俺に、期待をしてくれたことが)
俺は、その期待に応えたくてこの場所に来たんじゃなかったのか。
前を見据えた。体の痛みは、呼吸の苦しさは、もう足枷にはならない。
「大丈夫か!? ソル!!」
「——ああ、もう平気だ。悪いな、みっともないとこ見せちまって」
立ち上がる。眼前でうごめく木の根を視界に捉え、自身のすべきことを理解した。
——この場所でなら、うまくいくかもしれない。
(俺に課せられた、二つ目の枷。それは……)
内から湧き出るそれを、必死に抑える。地面に手を触れ、体内を駆け巡るその熱を流し込む。
属性がない——それはつまり、この世界の異物。聡明な者が見れば、この事実は俺の全てを暴いてしまう。
だから俺には、もう一つの属性が与えられた。
「——はああっ!!」
根が張っていた土の天井が開かれていく。地響きを轟かせ、天井の土が崩れ落ちる。そこに張っていた根は、地上にある大木とともにこの地下へと落下する。
「……っ!」
土煙と風圧が俺たちを襲う。だが、そこに痛みや衝撃はなかった。
俺たちのつま先に付くかつかないかの寸前で、土の波が止まる。
「平気か? クオール」
「あ、ああ……すごいな。これは、お前が?」
「ああ。俺は土の属性が得意でさ、具象化? ってやつはできないけど、俺の星神力を流し込んだものなら操れるんだ」
そう、俺が課せられたのはこの力。他の属性は使えない、使ってはいけない。それが後の俺を守るのだと、ミルキールは言った。だからこそ、祝福を受け取ってからの二年——俺はその力を自身のそれと思えるほどに使い込んだ。
(つっても、今回のはだいぶ無茶だったな……おかげですっからかんだ)
土煙が止むと、倒れた大木の上に大きな穴が空いていた。——出口だ。
「よし。ならあそこから……うおっと」
「——ソル!?」
支えがなくなったように、俺は地面に座り込んだ。ずるずると足を地面に擦るばかりで、立ち上がることができなかった。
「ははっ、流石に無茶しすぎたかな」
「……全くだ、バカ」
見上げた彼女は、笑っていた。澄んだ晴天の海のような青い瞳を輝かせて。
先ほどの戦闘でフードが外れ、隠されていた黒髪が僅かな光に照らされる。毛先がところどころ跳ねてはいるが、肩の先まで伸びたさらりとした黒い髪。
安堵か疲労か。息を吐いて座り込んでしまった俺は、これからどうしようかと周囲を見渡した時——入り口から、一つの声が聞こえた。
「——おっ。二人とも無事だね? よかったよかった」
頭上からのわずかな光に照らされ見えたのは、見慣れた白髪だった。
「リレール!?」
「お前……今までどこ行ってたんだ!」
その見計らったかのような登場に、クオールは思わずリレールの元へ駆け寄って襟首を掴み上げていた。
「ごめんごめん。二人ならで大丈夫かなーって。それに実際大丈夫だったし!」
「これをどう見たらそうなるんだ!!」
二人の変わらない応酬に、思わず笑みが漏れた。
「っていうかリレール、お前のペアは結局どうしたんだ?」
「もうゴールのところにいてもらってる。僕はクオールを迎えに来ただけ……って言いたいとこだけど、今回はその活躍に免じて君のことも出血大サービスで運んであげよう」
「おお、そりゃどうも……って、お前。まさかどっかで見てたんじゃねえだろうな……」
「いやー、まさかー。ソンナワケナイヨー」
絵に描いたような棒読み。これは後で一発殴っても許されるやつではないか?
とはいえ、情けなくも立ち上がれない俺はその背に預かられたわけだ。仕方ない、今回ばかりはチャラにしてやろうと俺はひっそり思うのだった。




