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異世界創星記[another mythology]  作者: 亜真
第3章【サマースクール】
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第三十六話【調子に乗るなという戒め】


「——うぉぉおおお!!」


 怒りのまま、感情のまま、ケートスへと星神力を放つ。

 今度は具象化した土をドリルのようにして。

 この一瞬で具象化できたのは、わずか6つ。

 一斉に放つが、奴は——いや、奴を守るように立ちはだかった人造人間の少女一人に、呆気なく防がれてしまう。


「くそっ……!」


 あの後——ケートスが高らかに宣言をした直後、俺は痛む体を押して立ち上がった。

 理由なんて大したものはない。

 ただこれ以上、この男の声を聞きたくなかったというだけで。


「……っ、どいてくれ、つっても聞かねえよな」


 残り3人。

 一人はケートスを守るように、俺の前方へ。

 もう二人は、右側へ一人の少年が、左へ一人の少女が。

 完全に囲まれている。

 その誰もが、赤い瞳を有していた。


「おいテメェ! まだ俺の質問に答えてなかったよなあ! なんでこいつらの目が赤い!? リィリスとは違う……コラプスとやらの特徴だってのか!?」


 しかしながら、やはり未だ背中の傷は癒えていない。

 いつもならとっくに治っているはずなのに。

 天の声は言っていた。『完治するまで治療し続けられる膨大な星神力が必要』だと。

 先ほどよりも息があがるペースが早いことを鑑みても、余裕は刻々と減っている。

 少しでも時間稼ぎをしなければ。


「ふふふ……やはり君は勘がいいようで。ええそうです、コラプスの適応者が星神力を使えば、その瞳は赤くなります。その点で言えば、あなたはとても異質なのですよ」


 確かに。俺の瞳は常時赤い。

 色々な髪色があるこの世界でもそれは異端であるらしく、この赤い髪と共に人の目を引いてきた。

 しかし、だ。俺はそんなコラプスなどというものを埋め込まれた覚えはない。

 いや、埋め込み式かも分からないが……とにかく。

 俺は生まれた時からこの髪と瞳の色。

 もしそこに理由があるとすれば、それは——。


(まさか、母さんたちはこいつらと……?)


 いやいや。そんなバカな話があってたまるものか。

 俺は必死に頭を振る。

 落ち着け、今は目の前のことに集中しろ。

 メルディーを助けるんだろ?

 そのために、ここにいるはずだろ。


 俺は改めて戦況を見渡した。

 目の前には、少女とケートス。

 そしてその隣に変わらぬ表情で立つリィリスは、先ほどから一向に動く気配はない。

 主人であるケートスに攻撃が仕掛けられようとしても、だ。

 それを咎めないケートスへの疑念もある。

 だが今は置いておこう。リィリスに関しても、警戒はしとくべきだろうが優先順位は低い。


 次に、右側方にいる少年。

 いつでも攻撃できるような臨戦体勢。

 それは左側方にいる少女にも言えることか。


「さっきの爆発……あれもコラプスってやつの仕業か」

 

「半分正解、半分不正解と言ったところですね。あれは僕が改良を施したものです。いえ……改良というより、劣化版ですね。故に数発が限界……許容量を超えれば、体内を循環する破壊エネルギーはその身を蝕み、体外へと居場所を求めます。暴発、という形でね」


「チッ……物はいいようだな。テメェはそれを見越して攻撃させたんだろうが。責任転嫁してんじゃねえ。つーか破壊エネルギー? 星神力は神から与えられた恩恵……なんだろ? 真反対じゃねえか」


 名は体を表す。

 陳腐な名称はさておいても、言葉の意味やさっきの爆発の説明を聞くに——世界に恵みをもたらす存在とは考えられない。

 口ぶりからして、こいつらが新たに生み出したエネルギー物質……のようなものだろうか。


「ま、なんでもいいさ——俺にとって重要なのは、テメェを倒せるかどうかだ!」


 俺は両手を頭上に伸ばし、巨大な岩石を具象化する。

 直径5メートルといったところか。これが当たればひとたまりもない。


 目の前の少女はケートスたちを庇うように一歩前へ踏み出す。

 俺はそれを見据えると、両腕を前へ倒した。

 しかし——少女が想定していた衝撃は来なかったのだろう。

 目を見開く少女は、呆気に取られた表情をしている。


「……!?」


 代わりに、左右の少年少女が無数の瓦礫に埋もれていた。

 勢いも十分だっただろう、満足に四肢を動かせないはずだ。


 簡単な話だ。

 巨大な大岩を前方へ放つ——と見せかけ、瞬きの間に大岩を瓦礫の大きさに分割した。

 そしてそれらを、警戒の甘かった左右に放つ。

 左右に分断していた少年と少女は、前方への警戒ばかりを注視し、自身の防御が疎かになっていた。

 加えて、ギリギリまで前方に岩石を向けていたことも幸いしたのだろう。

 おかげで、左右にいた少年と少女は瓦礫に埋もれている。


 以前、ミルキールが言っていた。

 回路には星神力を放出するための気孔があり、それらは主に手のひらへ集中していると。

 腕や全身の回路はそこへの道筋。

 骨折や怪我は、その回路をひん曲げると。


「戦闘の基本、まずは数の少ない方を叩け——って、ミルキールに口酸っぱく教えられたからな」


 こういう戦闘ごとになると、思い出すのはやはりミルキールとの猛特訓。

 冷静に、冷静にと心を落ち着ける内、そんなくだらなくも大切なことを思い出した。

 それがいい冷却装置となったのだろう。

 俺の思考は柔軟になった。


 ケートスは言っていた。

 コラプスを使うには許容量があると。

 たぶんそれは、あいつらが重視していた星神力量と比例しているのだろう。

 俺を見る度に、星神力量がどうたらと言っていたし。

 

 だから俺は考えた。

 あいつらがどんな理由で生み出されようとも、あんな結末を肯定する理由があってたまるか。

 コラプスを使わせないためには、そもそも星神力を使わせなければいい。

 どれだけの時間が稼げるかは分からないが——少なくとも、このクソ野郎を倒さなければ解決しない。


 目の前を見据える。

 さっきの一手で数は削れたが、警戒心を高めてしまった。

 同じ手は通用しないと考えていいだろう。


「んじゃ、今度は……!」


 再びの鉄パイプ。

 先ほどの会話で、やっと背中の傷が癒えた。

 使い物にならなくなったローブを背中から翻し、片方の拳へ巻きつける。


 そして俺はそのまま地面を蹴り——振りかぶった。


「っ……!」


 すかさず、少女はケートスを庇う。

 いや、俺の攻撃を防ぐ。

 腕の一部を具象化した金属で覆っていたのだ。


「肉弾戦……ですか」


「技術は我流だが、タフネスは仕込まれてんでな!」


 基本的に、星神術者は遠距離を好む。

 俺だってさっきまで距離をとっていたし。

 それは単純に、星神術者の戦闘における鉄則だから。


「お、ラァ——!!」


 腹部への蹴り。

 少女はケートスとリィリスを下がらせ、俺との一騎打ちを受けた。

 だが、少女はノーダメージとでもいうような表情で、軽々と受け止めた。


「っち……だったら——!」


「何度やろうと、——っ!?」


 再び俺の攻撃を防いだ少女だったが、その腕はだらりと項垂れている。

 一部には赤紫のアザがあった。

 驚いたと言ったふうに、少女は顔を顰めた。


「知ってんだろ? 属性の具象化は、物体として生み出すだけじゃないって。【水】の具象化が”液体を操ること”であるように、【火】の属性は温度を上昇させる……ってな」


「……自身の体温の上昇、ですか」


 これは俺が引きこもる前——学園でクオールに教わったもの。

 【火】の属性を得意とする彼女らマーズの民は、体温の上昇による身体活動の活性化——つまるところ身体強化を得意とする。

 入学試験の時も、クオールは木の根を蹴りや拳で破壊していたし。

 ミルキール仕込みのサンドバック耐性を活かすには、その戦い方は合っているのでは? と考えた結果だが……

 想像以上だ。


 俺は確かな手応えに、拳を握った。


 しかし——、


「それは、こちらとしても好都合」


 気づけば目の前に少女がいた。

 姿勢を低くし、引いた拳は——俺の腹部を殴りつけ、全身を吹き飛ばした。


「ぶッ……!!」


 臓器が押し潰された。

 居場所を失った血液は、逆流したまま俺の口からダラダラと流れ出る。

 

 背中を壁に打ちつけた衝撃が、電流のようにビリビリとあった。

 視界が霞んだ。

 ゆっくりとした瞬きの末、誰かの足元が見えた。


「お忘れのようですので、今一度。我々人造人間の本懐は、コラプスに適応する肉体と星神力を持つこと。そのため、人の並以上の筋力を持ちます。あなたは選択を間違えた。あのまま星神力の戦いでしたら、やがてこちらはコラプスの使用に際した許容量オーバーで自滅していたことでしょう」


「……ぁ、ぐ……ごふっ——」


 何か発しようとしても、逆流する血によって遮られる。


「り……ぃ、す」


 意識が曖昧だ。

 このまま意識が落ちる前に、せめてあいつの言い分を聞きたかった。

 だが、やっとの思いで見上げた視界には——、


 …………え?


 そこにあったのは、

 赤い瞳をした長い金髪の少女に腹部を貫かれるケートスの姿だった。



 ✤✤



 もう何度、眠っては覚めてを繰り返したか分からない。

 意識は鮮明で、視界が開けたようによく見える。


「ああ……よかった。まだ、間に合うのですね」


 真っ先に、彼の存在を確認する。

 彼以外の探知反応がいくつかあるけれど……どうでもいい。


「この拘束も、私と彼を阻むもの……ああ、鬱陶しい。煩わしい。

 ですが、ふふふ……何を躊躇うことがあるのです、メルディアン。

 邪魔ならば、憎らしいのならば——彼以外の全てを壊せばいい」

 

 それはなんと香ばしいものでしょう。

 思わず夢見心地になる。

 初めからこうしておけば良かったと思えるほどの。


 腰や肩を縛る拘束を、四肢の断面から具象化した刃物を向ける。

 弧を描いて自身の方へ半円型に曲がった刃先は、そのまま肩の拘束に触れる。

 黒い革を材質とした拘束は、刃先が抜けていく先にぐいっと伸びたが、伸縮の限界が訪れ——綺麗な断面を見せる。


 そうやって、面倒なほど、煩わしいほど、辟易するほど、鬱陶しいほどの時間をかけ、拘束を破った。


「……あぅ」


 しかし、私と彼の間を阻む障害がまだあった。

 立ちあがろうとして、それが不可能と思い至る。

 どうやら事を急ぎすぎたらしい。

 

 再び、断面に星神力を込める。

 先ほど具象化した刃では、彼の手を握る事なく傷つけてしまうから。


「……ふぅ。これでようやく、あなたに会いに行ける。待っていてくださいね、ソル」


 やっと立ち上がれた。

 前を向くと、ちょうど目の前に大きな鏡が立てかけられていた。

 改めて観察すると、以前とは全く違う。


 鋼色の金属を材質に足と腕を型どった。

 関節から関節の間は一本の金属を通した。

 それを固定する二本の金属が巻き付く様は見てくれが悪く、黒い革質の布で覆った。

 まるで二の腕まで革製の手袋やブーツをまとっているみたいに。


 母様から頂いた、この白いワンピースがよく映える。

 どれだけ見てくれが変わろうと、これなら彼はきっと気づいてくれる。

 

 ああでも——この赤い瞳には、驚かれてしまうかな。



 そんなことを考えながら、部屋を後にする。

 先ほどから聞こえる、足元からの戦闘音。

 その中心部に、ちょうど彼の反応もある。


「私を迎えに、ここまで来てくれたのですか? 本当に……なんて愛おしい」


 何度も焦がれたあの赤い瞳。

 空を染める夕焼けのような、暖かい瞳。

 会いたい。会いたい。会いたい——。


 自然と歩くテンポが速くなる。

 重いはずの義足がとても軽々しいものに思えて、コツコツと愉快な足音を鳴らす。


「——対象の脱走を確認、拘束を……」


 だから。これも邪魔。


 思った時には、すでに事は成されていた。

 新鮮な果実を誤って落としてしまったかのように、赤い赤い果汁は床に散らばった。

 グジュリ——と音を立て、私は果実の芯を抜き取ったのだ。

 柔らかすぎず、硬すぎないそれは、意図も簡単に握りつぶせた。

 ドサッという音を立てて、同じ顔の少女が倒れていた。

 

 そこで思い至る——しまった、と。


 白いワンピースの一部が果実の色に染まってしまった。

 今の私と同じ、赤い色に。

 これでは彼に余計な心配をかけてしまう。

 けど、それもそれで素敵かもしれない。

 私の姿や行動で、彼の感情を変化させられる。だったらこれも、悪くはない。



 そうして、多幸感に包まれた私は階段を降り、長い廊下を歩き——たどり着いた。

 視界の端で、とても小さな姿で、彼が見えた。

 遠くにいるせいで、多分彼はまだ気づいていない。けれど私には鮮明だった。


「……ソ——」


 声を出そうとした。

 手を伸ばそうとした。

 足を踏み出そうとした。


 けれど、それは血を吐いて壁に打ちつけられる彼の姿を見て、止まった。


 あ——。

 ああ。

 ああ……、

 あああああああああ、あああ!!


 ダメだダメだ、それだけはダメだ。

 どうして、なんで。誰が、何を。

 混乱した。絶望した。憎悪が湧いた。



 瞬間、私は地面を蹴っていた。

 その一瞬はただの衝動に任せたものだった。

 けれどそれは正しかった。


 あんなに離れていた距離は瞬きの間に狭まり、腕一本分の距離となる。

 そして、博士(男)を貫いた。

 壁に打ちつける彼を恍惚とした表情で見ていた、その男を。


「——博士っ!!」


 男の隣にいた、短髪の少女が叫んだ。

 ずるりと腕を引き抜くと、男は醜い音と共に血を吐いた。


「……お前、は……メルディ、アン……?」


 まだ倒れない。

 思えば、こいつが全ての始まりだ。

 私が彼と離れる原因となった。

 

 許せない。

 私と彼を阻むだなんて。


 もう一度、腕を振り上げる。

 掴みかかってきた隣の少女を壁に吹き飛ばして。

 もう一度貫けば、こいつは止まる。


 腕を振り下ろす。

 コンマ1秒——1メートルほどの距離が縮まった。

 しかし。


「……ぇ、る……でぃ……い?」


 微かな声で、ぴたりと腕が止まった。

 顔を上げた視界の先には——私を見る、ソル(彼)の姿があった。

 体全体を血で汚した、私を。




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