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異世界創星記[another mythology]  作者: 亜真
第3章【サマースクール】
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第三十三話【遺跡にて】


 どうしてこう、俺の人生は波瀾万丈なんだ。

 死にかける経験なんて、そう何度も経験したくはないものだ。

 しかも、体を串刺しにされるなんて。


(ってか、今度はちゃんと意識が落ちたな……)


 この体が重だるい感覚……星神力の使い過ぎか。

 自動で体が治っているところを見ても、この予想は正しいんだろう。


「——、っ!?」


 突然、目の前が白い光に包まれる。

 眩しい——という感覚だ。


 周囲を見渡す。

 俺が拘束されているのは、ただの椅子だが——周囲の景色は違った。

 まさに、ザ・遺跡。土っぽい材質の壁と床。

 ほのかにそんな匂いもする。

 ただ、少し空気がひんやりすることから、もしかしたら地下なのかもしれない。

 窓も何もなく、ロウソクの火と俺を照らす天井のランタンだけが光源なのがいい証拠。

 おかげでここがどこかも分からない。


「誰か人は……いないっぽいな」


 ビルベッドさんがいたら……と思ったのだが、そうもいかないらしい。

 息があったとはいえ、あの怪我だ。無事とは言い切れないだろう。

 俺が巻き込んでしまったから——だろうか。彼はそんなことを気にする人ではないと分かっていながらも、罪悪感が湧く。

 それと同時に、思い浮かぶのは彼女の顔だ。


 リィリス——全て、とはいかないが俺がここに至る理由。


「あいつ、最初っから裏切ってたのかな……」


 俺を捕まえようとした時。その表情はまるで別人だった。

 初めて会った時とも、領主の元で見た時とも、一緒に砂漠を歩いた時とも、違う顔。

 リィリスは言った。博士から与えられた命令を守っていると。

 これも、その命令——。

 どれが本当のあいつだ?

 少なくとも、平和な時間を過ごしていた時の表情が、俺には嘘だと思えない。


「つか、この拘束……ただの縄か? 引っ張ってちぎれ——ないか。いやでも、これなら」


 拘束されている……とはいえ、それは手首を足首を細い縄で縛られている程度。

 動かせる範囲で手首を回し、【金】の属性を具象化する。

 刃物を具象化すれば、簡単に切れるだろうという魂胆だ。


 【金】の属性で具象化できるのは金属や布・鉱石といった類。

 ちなみに、俺が具象化した粘土岩などの石や岩は【土】の属性で具象化できる。

 石と鉱石で分類が分かれている理由としては、何でも錬金術が関係しているとか。

 詳しくは専門書に記載Byリレール。


 と、そんな余談はさておいて。

 俺は小さなナイフを作り出すと、なんとか縄を切ることに成功した。

 そして続け様に足首の方も。

 経緯が経緯だっただけに、あっさりとした脱出劇に拍子抜けする。


「ふぅ……さて、ここはどこだ? ロクな拘束じゃなかったとはいえ、拘束は拘束。敵の本拠地……って考えるのが妥当だよな」


 だとしたら、知るべきはメルディーの居場所。

 敵のことを知る必要もあるが……目的を見失っちゃいけねえ。

 こんな時こそ冷静に、だ。


「見たところ、実験場……みたいな場所だな。つーか、この足元にある陣……何の属性のかは知らねえけど、とりあえず”転生の儀”は関係ないよな……?」


 そうであってくれ、という俺の願望込みの観測。

 いや、でも確かに……見覚えはない。

 いつぞやより冷静に見れる今でもそう思うなら、やはり違うのだろう。

 

 あと目につくものと言えば——あれか。


 俺が座らされていた椅子の真向かいにある横長の机。

 山積みの本やら、並べられた試験管やら、書類やら……ここでも実験が行われていたのであろう痕跡たちが置かれていた。

 その中にある何枚かの書類に手を伸ばした。


「ふーむ……読んでもよく分からん。てか、なんでそもそも俺はここに連れて来られたんだ? メルディーを助ける邪魔をしたいなら、あそこで俺を殺しとくのが筋だよな。ビルベッドさんに対しては完全にそうだったし」


 自分で言っていていい気分はしないが、客観的・俯瞰的事実というやつだ。

 だが俺は、こうしてまだ生きている。

 何なら、リィリスは俺を殺せないと言っていた。

 された攻撃がなんであれ、俺が生きているのは事実だし。

 

「まさか”適合者”……ってのが関係してんのか?」


 ずっと意味のわからない単語があった。

 重要な場面にばかり出てきて、意味を知らないままことが終わる。

 というか、その言葉を聞いた直後に死にかけてないか?

 ラッキーアイテムならぬ、デスワードだ。ご利益は”死を招く”……ってか?


「適合、適合か……さっき否定したばっかだが、その単語で俺が関係あるのって”転生の儀”くらいだよな」

 

 そこらへんも載ってないだろうか。

 手に取った書類をまばらに目を通す。

 いや、載っていない方がいいのだが。

 わずかな期待——いや、悪い意味で期待を裏切ってくれという期待を抱く。


「えーっと、何々……『コラプスの適正と星神力量の比例』について? なんだそりゃ」


 知らない単語パート2だ。

 題名の下に書かれた、長ったらしい文章。論文か何かかよ。

 いや、研究資料なのだから似たようなものだろうが。


 そう思いながら、ざっと目を通す。

 書かれていた内容は、大まかに言えばこうだ。


『星神力量が多いほど、コラプスへの適正は高まる。

 その理由として、コラプスが創生術・創星術の区分なく全属性を扱えることが起因している。

 故に、適性者を量産することを目的とした”AA(エーツー)実験”、”MS実験”製造個体の星神力量を増加させた。

 結果として、AA実験製造体:人造人間メルディアン、MS実験製造体:人造人間ラギトア(現名キマイラ)の適応に成功。

 目下、人造の儀についての研究を続ける。


 なお、MS実験製造体:人造番号13(サーティーン)については実験の多用による核の摩耗を元に、新たな試みとして”転生の儀”を取り行った。結果、人造の体に魂は定着。

 副産物のような形だが、禁忌を二つ重ねても行使した術者へかかる負荷はほとんどないことが判明。

 実験を続ける』




「……………………は?」


 思わず、低い声が漏れた。

 いや、だって——これは。


 思いがけない真実に、口がわずかに開く。


 もはや論文というよりメモのような文体だが、その軽薄さが逆に理解を早めた。

 驚愕の事実と、ふざけるな——という怒りと共に。

 

「——っ、いや。今は止そう。とりあえずメルディーの安否だ。ビルベッドさんも……無事だといいんだが」


 言いたいことは五万とあった。

 分からないことも何百とあった。

 けれども、それを正すのは今じゃない。


「ここの見取り図かなんかがあれば……」


 と、机の上を見渡すが、あるのはやはり実験道具や本やら。

 それらしいものはなかった。


「って、やべ」


 ……と、その時、体を動かした拍子に立てかけていた試験管が台ごと倒れる。

 ぶちまけられた薬品に、それが染み込んでしまった書類。

 なんだか申し訳ないが、散らかしてあった向こうさんが悪い。ということにした。


「——誰か、いらっしゃるのですか」


 声がした。

 背後にあるドアのない入り口の向こう——廊下だ。


 思わず机の下に隠れる。

 だが、廊下側からは丸見えだったことを忘れていた。


「実験台の脱走を確認。捕縛を開——」


「先手、ひっしょおおおおう!!」


 峰打ちである。

 具象化した鉄パイプは、いい音を廊下に響かせた。


「っと……っぶねえ」


 気絶し、床に倒れ込む寸前で、金髪の少年を抱き止める。

 そのまま周囲に人がいないことを確認し、ずるずると部屋へ引き摺り込んだ。


「こいつもリィリスと同じ……か」


 メルディーと瓜二つな顔立ち。

 センター分けに刈り上げられた格好は、メルディーをそのまま少年にした感じだ。

 だが、その中身は全くの別物。

 一瞬しか聞こえなかったが、それでも分かる機械的な話し方や行動。

 俺を実験体と称し、捕えようとする瞳には温もりがなかった。

 

「……これからどうすっかな。巡回されてんなら、動きづらいが」


 俺の目が覚めて約数十分。

 書類を読んでいた時間でさえ、人の気配はなかった。

 巡回はほとんどないと見ていいだろう。


 そうなれば話は簡単。

 探索だ。


「……見張りは、いねえな」


 壁を背にしてひっそりと顔を出す。

 さっきの騒動でも出てこないところを見るに、放置もいいとこだ。

 監視対象じゃないのか? 俺って。

 いや、ぶっちゃけありがたいのだが……解せぬ。


 怪しいところを見て回りたいが、どこもかしこも怪しく見える。

 敵の本拠地だ、怪しくない方がおかしいのだろうが。


 ——と、しばらく誰もいない廊下を歩いていると、景色が変わる。

 今まで土の壁が剥き出しになっていたというのに、突然世界が——というより、時代さえ変わってしまったかのような。

 白い壁に、金箔で施された刺繍のような柄。

 まるでお城にでも突然ワープしてしまったみたいだ。


 学園やミルキールの屋敷でもこんな光景は見た事がない。

 いや、廊下の雰囲気だけをみればファンタジー入り混じるこの世界と合ってはいるが。

 この遺跡とは絶対に合わないだろう。というか真反対だ。

 わざとこんな建築をしたのか? 不自然すぎる。


 もっとその装飾を見れば分かるだろうか——と足を一歩踏み出した時。

 俺は視界に入った光景に、息を呑んだ。

 


「……な、んだよこれ」


 一定の間隔を空け、等間隔に並んでいる彫刻——いや、人造人間(人形)があった。

 右の壁には少年が、左の壁には少女が並ぶ。

 そのどれもが金髪金眼。


 事情を知らない人が見れば、とてもリアルな彫刻だと思えるほどの。


「これ、全部が……いや、ははは……」


 思わず声が漏れ、一歩後ずさる。

 しかしその僅かな吐息は、この長く静かな廊下に響き渡っていた。


「——実験体を確認……脱走の可能性アリ。捕縛行動を開始する」


 何百とある視線が、一斉に俺を向いた。

 おい、おいおいおいおい……これってまさか。


 ヒヤリと背筋が冷えたのも束の間、彼らがゆらりと動いた。


「——っぱ、そうなんのかよ!!」


 一目散に廊下を逆走する。

 振り返らずとも分かる、だってほら。後方からすごい数の足音が。


「だああああ、くそっ!! どうとでもなりやがれ!!」


 一瞬だけ振り返り、後方の天井目掛けて星神力を放つ。

 何発か撃ち込めば、天井にひびが入り——崩れる。


 間一髪、巻き込まれずに済んだ。

 足を止めずに、それとなく振り返る。

 土煙でよく見えないが……何となく、そこから人影がいくつか揺らいだ。

 どうやらこの廊下を瓦礫で塞ぐには威力不十分だったみたいだ。


「っち。そう簡単にはいかねえ——よ、な…………?」


 視線を前方に戻した、その時。

 見知った人物がそこにいた。


「…………リィリス」


「お目覚めになりましたか、ソル様」


「テメェ、どのツラ下げて」


「意外ですね、あなたがそんなに激昂するとは。ですが、やっとあなたの人間らしさを見れた気がします」


 そう言う彼女の顔は変わらない。

 そういえば、ずっと……ずっとこいつの表情は変わらなかったっけ。

 唯一変わったのは、メルディーのことについて話した時だけだった。


「人間らしさ? お前は人間じゃねえってか。だから眉ひとつ変えず、俺らを裏切れたって? 世話んなったビルベッドさんにもあんなことしやがって……」


「あら、あれは私なりの譲歩であり情けでしたが。何せ野獣に見つからなければ生き残れる傷のはずです」


 あの血に飢えた獣どもから逃げおおせるなんて——不可能に近いことくらい、俺にも分かった。

 けれども、俺は精一杯祈る。

 ただそれしかできない自分の無能さに歯噛みしながらも。


「……ここはどこだ。言っていた遺跡か?」


「あなたを抱えたまま砂漠を彷徨うのはごめんです。野獣の相手は最小限で済ませなければなりませんから」


「それも騙してたのか」


「いいえ本当ですよ。ただ私はここへの最短ルートを知り得ていた、と言うだけの話。それと野獣を回避する方法も」

 

 それを言わなかった時点で——だ。

 嘘と、隠匿と、裏切り。

 ふざけんな、こんちくしょう。

 端から俺たちに協力する気はなかったってか。

 メルディーを助ける気も、博士とやらを捕まえる気もなく。

 ただただ、最初から目的は。


「なあおい。コラプスってなんだ。お前が俺を殺せなかったわけ——コラプスの適応者たる意味って何だ。俺らを使って、いったい何しようとしてる!?」


「随分と物知りになったご様子で。ですがそれは、あなたにも……そして、私にも知る必要のないことです」


「……っ!?」


 後方から影が伸びていた。

 こいつの存在に気を取られて、すっかり失念していた。


 後ろから羽交い締めにされる。

 力の限り暴れるが、さらに伸びてきた複数の腕によって阻害される。


「——離せコラぁッ!!」


 ここでまた捕まるわけにはいかない。

 そう思った瞬間には、既に事を成していた。

 星神力で周囲を吹き飛ばした拍子に、皮膚が焼ける痛みを感じた。

 だが気にしてはいられない。何せすぐに治っちまう。


 俺を拘束していた少年たちは壁に吹き飛んでいた。

 天井を崩落させた時より出力はあげたはずだが——吹き飛ばされた彼らは、表情ひとつ変える事はなく、背を預けている。


「ここまで抵抗をあらわにするとは。心変わりでもありましたか」


「それを言うのは俺の方だろーがよ。俺は何も変わっちゃいねえ。ただ同じ轍を踏みたくねえだけさ」


「……そうですか」


 これでもう邪魔はいなくなった。

 ようやく落ち着いて、こいつと話ができる。


 そう思った時。コツコツと、一つの足音が聞こえてきた。


「——騒ぎを聞きつけて来てみれば……まさかこんな事態になっていようとは。206(二ー・ゼロ・ロク)、下がっていてください」


「はい」


 そこにいたのは、メガネの男だった。

 白衣を着た、深い紫色をした髪の男。

 メガネを覆うモサモサとした前髪の一部が白い。


「改めて自己紹介をしましょう。僕の名はケートス。キマイラや13がお世話になりましたね」


 優しそうで、温もりのない声。

 男は気持ち悪い笑みで、ニコリと微笑んだ。





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