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モブ顔(物理)の私に隠しキャラの公爵令息だけが溺愛してくるのですが。  作者: 千秋 颯@8/7「~這い上がり令嬢の冷徹な復讐」アンソロ発売!


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第13話

「特待生入学の条件を満たす際、俺が何の論文を提出したのかは覚えているか?」


 空になった私のカップに再びお茶を淹れてからアルバートは席を立つ。

 彼は研究用の机に広げられた資料に視線を落としながら私へ問い掛けた。


「魔力残滓の現像化……」

「ああ」


 詳しい話は聞いていないが、特待生入学が決まった際に彼が話してくれた記憶を私は遡る。


「誰もが保有しているエネルギーであり、魔法を使う際に必要となる魔力。この性質や特徴は個体差があり、その特徴が完全に一致する個体は存在しない。そして魔法を用いれば必ず、魔法の使用者の魔力の痕跡――魔力残滓が対象に残る。ここまでは既に先人の研究で証明されている事実だ」

「その魔力残滓を視認出来るようになれば、個人の魔力を解析する事で魔法を用いた犯罪による犯人の特定が容易になる……という話よね」

「そうだ……けど、よく覚えてたな」

「専門的な話は理解できなかったけれど、この話を聞いた時、純粋に感動したから。大勢に貢献できる方法を追究できる人なんてそうそういないもの」


 話を聞いた当時のことを思い出しながら意外そうなアルバートの言葉に頷きを返せば、彼は何故か複雑そうな面持ちで苦く笑った。

 それを不思議に思い、どうかしたのかと問うように首を傾げれば、彼は緩やかに首を横に振る。


「まあ、とにかくだ。これを利用すれば『聖女』が絶対的な存在であるという常識を覆す事が出来、上手くいけば君の呪いを解くきっかけにもなるかもしれない」

「でも……いいの? その研究は貴方の努力の結晶でしょう。私の事情の為に貴方の努力による結果を楽して得てしまう事になるわよ」

「全く……君って奴は、本当に。変な所まで生真面目なんだから」


 彼の申し出は嬉しい。

 本音を言うのであれば彼からの提案は今すぐにでものみたかったし、甘えたかった。

 しかし視力を落とす程まで努力して掴んだものにただ甘んじる事に罪悪感も湧いてしまった私の反応に、アルバートは肩を大きく落とす。


「君はもう、充分一人で悩んだだろう。いい加減、誰かに頼る事を覚えるべきだ」


 アルバートは席を立つと私の隣へと腰を下ろす。

 そして私の頬に触れると優しく笑い掛けた。


「利用してくれ、カリスタ。君を救う事になるのなら俺は喜んでなんだって差し出すさ。それが、俺の望みでもあるんだから」

「アルバート……」

「それでも抵抗感が拭えないのなら、これが他者の為になると考えればいい。君の無罪を証明することは彼女を野放しにする事で、これから同じ道をたどりかねない不特定多数を守る事に繋がる。それに、たった一人の醜い欲によって君と同様に人生を踏みにじられた君の家族の為に怒る事は正当だろう?」


 『聖女』という地位に甘んじ、その権力を私欲の為だけに使うシェリル。

 アルバートが言う通り、このまま彼女を野放しにすれば必ず私や私の家族のような被害者を増やす事になる。

 それに何より、シェリルの本性を公にすることが出来れば私だけではなく家族をも救う事に繋がる。


「家族が被った理不尽と彼らの苦しみを軽んじるべきではない。君が感情を押し殺し続ける必要はないんだ」


 諦め癖のせいか、前世で大人として生きた記憶が社会性の為に感情に蓋をする事を習慣付けていたのか。

 激しく醜い感情に駆られ、大切な人を利用する事に罪悪感を覚えていた私はアルバートの言葉で背中を押される事となった。


(……そうね。傷付けられた家族の存在を、私が軽んじてはいけない。何より、彼女が誰かに罰せられる運命にあるというのなら、その誰かは私であって欲しい。そう思える程――私は、彼女に確かな怒りを抱いている)


 私は深く息を吸ってからアルバートへ向き直った。


「ありがとう、アルバート。貴方の力を、私に貸して」

「勿論」


 アルバートは笑みを深め、頷きを返した。



***



 それ以降、私達はシェリルの悪事を暴く為にそれぞれ行動を始めた。

 アルバートは既に殆ど纏め切っていた研究結果の論文を学園へ提出し、その有用性は学園の責任者らに認められた後、国内でも最大の規模の学会で公表され、彼の研究は瞬く間に世界中へ認められる事となった。


 その間、私はシェリルの動向を観察し、彼女の行動パターンを記録した。

 他の攻略キャラクターと関係を深める彼女はしかし、常にアルバートの姿を探しており、また他の攻略キャラクターのストーリーでハッピーエンドに至る為のフラグ回収は全て避けた動きをしている事から、彼女の本命はやはりアルバートの攻略にあると確信を得た。


 更にシェリルは私の時と同様に、聖女という立場を利用して罪のない令嬢へいわれない罪を着せる悪事を何度も働いた。

 シェリルはゲームの筋書きを過信していたのだ。


 彼女は自分が筋書きを歪めているというのに、その浅はかな行いによって未来が変わるとは考えておらず、自分にとって都合の良い運命は全て、必ずやって来るものだと考えていた。


 だからこそ彼女は他の攻略キャラクターのストーリーで登場する悪役の令嬢達がシェリルへ悪事を働くに至る過程を無視し、『ゲームでは悪役だから』という理由で未だ何の罪も犯していない令嬢達を裁いてしまったのだ。


 アルバートルート攻略の為、他の攻略キャラクターとのイベントはハッピーエンドの直前で全て止める。

 しかし結ばれるつもりのないキャラクター達から無条件に向けられる好意は欲しい。

 そんな我欲の為、ゲーム内の障害且つ好感度を上げる要素でもある悪役の断罪イベントを彼女は勝手に発生させていた。


 そしてこれは『君紳』のストーリーを知っており、シェリルの真の目的も理解している私にとって非常に都合が良かった。




「近い内に貴女は突然、シェリル様から覚えのない罪を着せられる事になります」


 ある日の事。

 私は一人の令嬢を人通りの少ない廊下へ呼び出し、そう伝えた。

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