第12話
私は全てを赤裸々にアルバートへ話した。
本当に、包み隠さず。
私が前世の記憶を持っている事、そしてこの世界は前世で自分が触れた創造上の世界であり、シェリルやアルバートは主要登場人物に当たる事等。
初めは落ち着いた様子で話を促し、聞き手に徹していたアルバートも、私から明かされる話は流石に想定外で、途中からは珍しく動揺した面持ちで私を見ていた。
そして一通り話した後。
アルバートは沈黙を貫き、研究室は静寂に包まれる。
顎を撫で、険しい顔で考え込むアルバートを私は暫く見守っていた。
しかし五分、十分と経っても口を開かない彼の考えを汲む事が出来ず、徐々に肩身が狭くなっていった私は恐る恐る彼へ声を掛けた。
「……俄かには信じられない事だとは思うのだけれど」
「いや……すまない。流石に想定外で」
「そうでしょうね。寧ろ予想していたと言われたら、貴方も私と同じ境遇である事を真っ先に疑うわ」
アルバートは視線を落としたまま考える姿勢を崩さなかったが、その声に不快感や疑念といった感情は感じられず、どうやら純粋に考えを整理しているだけのようだった。
分かりやすく傷ついたり取り乱す様子もなく、私は一先ず安堵する。
アルバートは少し待って欲しい、と改めて断りを入れ、それから更に数分が経過した後、長い溜息と共に口を開いた。
「なるほどな……。いや、完全に納得できたわけではないというか、自分が物語に出て来る存在という点については全く自覚がないままだが」
「自分が突拍子もない話をしている自覚はあるわ。……信じてくれるの?」
「君でなければ、信じてはいなかっただろうな」
随分遠回しな返答だが、肯定の意を示される。
「まあ実感はないが、君の話を踏まえると合点がいく点がいくつもあるしな。君は幼少の頃からやけに達観していたし」
「それ、貴方が言うの? 同年代の子供はおろか大人にすら心を閉ざして塞ぎ込んでいたのに」
幼少期の記憶はアルバートにとって黒歴史のようなものらしい。
それを理解した上で話を振れば、彼は大きな咳払いと共に咎めるような目を私へ向けた。
「とにかく、君の幼少の様子といい、呪いが掛かった時に何故か変に受け入れるのが早かった事といい……君に前世の記憶があって、自分が創作物の中では軽んじられている存在であるという自認があったからだという話は納得が出来る」
話している彼の顔が徐々に険しく、嫌悪に満ちていく。
それは私とは別に向けられた感情のようであった。
「シェリル嬢が身の程も弁えずやけに自信ありげに俺と関わりを持とうとしていたのも、俺と結ばれる未来を確信しての事だったというのなら……おまけに自分が聖女として覚醒する事を知っていたが故の事なら、幼少からの目に余る行いに至った思考も理解はできる。……だとしてもあまりにも浅はかだが」
考えを整理するように、アルバートはテーブルを人差し指で叩く。
一定のテンポを刻みながら彼は思考を巡らせた後、再度深々と溜息を吐いたのだった。
「で。君の話を踏まえれば、夜会のあの騒ぎはシェリル嬢が仕組んだものだと」
「ええ」
「理由はどうせ、君への嫉妬と俺への執着といったところだろう。……あそこまであからさまな態度を取られ続ければ嫌でも彼女の好意は察する」
アルバートは客観的に見て自身の容姿が整っている事を理解しているし、加えて外面の良さや出自、学力など様々な長所を持っているが故に異性から好意的にみられる事には慣れてしまっている。
異性からの好意に気づいていながら、それを単なる事実としてしか認識していない姿は前世も今世もモテ期から程遠い人生を送ってきた私にとって少々異様ではあった。
(人気者には人気者の悩みがあるのでしょうね)
「彼女を襲った男達も報酬で釣って自分で手配したんだろう。聖女の慈悲と神からのお告げとやらで彼らは釈放されているところを鑑みるに、長期的な取り調べでボロが出るのを避けてシェリル嬢が口添えしたんだろうな。今や彼女は国を動かす力すら持つ存在だから」
半年間引き籠り、周囲の情報の殆どを遮断していたせいだろう。
シェリルを襲った男達が釈放されていたという事実は初耳だった。
しかしアルバートの話のお陰でより、シェリルの悪意が浮き彫りとなった。
最早彼女が私を陥れた事実は揺るがないだろう。
「状況は粗方理解した。その上で、君や君の家族の社会的地位を取返し、『聖女』という肩書きで胡坐を掻く彼女の悪事を暴き、分不相応な地位から引きずり下ろす必要がある。そのついでに」
アルバートはふと、私を見て悪戯っぽく笑う。
「君の『呪い』を解く事が出来れば上々だな?」
「呪いを解く……」
ずっとついて回っていた、『モブ顔の呪い』。
一生付きまとうのだろうと諦めていたこの呪いを解く方法があるというのだろうか。
そんな疑問を抱える私をよそに、アルバートは続けた。
「君の呪いは、第三者の悪意によるものだ。誰の手によるものかは――最早俺達の中では明白だろうがな?」
「……シェリル」
私の口から零れた名に、アルバートは満足気に頷いた。




