表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ顔(物理)の私に隠しキャラの公爵令息だけが溺愛してくるのですが。  作者: 千秋 颯@8/7「~這い上がり令嬢の冷徹な復讐」アンソロ発売!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/22

第11話

 研究には一人で打ち込みたいからという理由や、常に人がいては気が休まらないからという理由で人払いされているらしいアルバートの研究室には今、部屋の主である彼と私しかいない。


 公爵令息が淹れたものだから味は大目に見て欲しいと冗談混じりに差し出されたお茶は、充分に味を楽しむことが出来るもので、緊張が解されていくのを感じる。

 私は向かいに座り、同じように紅茶を飲むアルバートの姿を視界に留めながら話し掛けた。


「アルバートは、私が聖女を害したとは考えていないのね」

「当然だろう。どれだけの付き合いだと思っているんだ」


 アルバートは呆れたように肩を竦めてみせる。

 疑う余地もないというようなその態度が嬉しかった。


「それと同時に、シェリル嬢の日頃の言動が目に余るものであった事も分かっている。何故神は、よりにもよって彼女に力を授けたんだか」


 アルバートはティーカップをテーブルに戻し、長い足を組む。

 背凭れに身体を預け、彼は憂いるように天井を見上げた。


「まあ一つ言える事があるとすれば、『聖女』が伝承や大勢が考えるような完璧な存在ではないらしいという事だな。彼女の存在そのものが、それを証明していると言える。で……だ」


 アルバートの視線が私へ向けられる。

 確信めいた何かがあるように、そして何かを探るような目だった。


「君相手に妙な駆け引きも不要だろう。単刀直入に聞くが――君、シェリル嬢について何か気付いている事はないか」


 『シェリルに関する何か』。

 問い掛けの言葉だけを切り取れば、あまりに曖昧な内容の質問だ。

 そして肯定と否定、そのどちらの余地をも残す形の問い。

 しかし彼は既に、私が持つ答えを悟っているような空気を纏っていた。


(……どう、答えるべきかしら)


 今更彼に何かを隠そうとは思わない。

 しかし前世だとか、この世界が創作物の世界だとか……そんな突拍子もない話をされたところでアルバートを混乱させるだけではないかとも思う。

 それに自分の意志で生きてきた人に対し、『実は第三者の都合によって生み出された存在であり、過去も未来も全て他者の都合で定められている』等という真実を告げる事が正しいとは思えなかった。

 私がアルバートの立場であればこれまでの苦しみが全て他人の都合で決められていた事であるなどという事実を突き付けられれば相当なショックを受けるだろうから。


 けれどだからといって、私やシェリルが前世の記憶として持っているゲームの知識や、私がシェリルに対して抱いている疑念や警戒の正体を打ち明ける別の術も思いつかない。


 そんな迷いから私は返答に迷い、言い淀んでしまう。


「これはこれまで触れて来なかった事だが。幼少期から君はシェリル嬢を警戒しているように見えていた。勿論、婚約者である俺に対して接触を試みる図々しさなど、目に余る行いによる嫌悪もあったとは思うが……君がシェリル嬢に対して抱く感情は怒りや嫌悪というよりも、恐怖に近いように感じていた」


 シェリルへ向ける苦手意識に対する見解を聞かされ、私は驚いた。

 彼は何の事情も知らないはずにも拘わらず、前々から私がシェリルに抱く感情の正体に見当がついていたらしかった。


 アルバートは警戒心が高く、周囲の感情の機微に敏感だ。

 だからこそ私がシェリルへ向ける感情についても悟ったのだろうし、何も言わずとも気付いてしまう程に聡い彼は、ここで私が下手に誤魔化してもきっとすぐに勘付いてしまうだろう。


 驚き、目を見張った私の反応に気付いたアルバートは喉の奥で笑った。


「呪いだろうが何だろうが、踏み倒してまで君を見つけ続けて来た男だぞ。君の事はどれだけ細かな事だって気付く」


 確かに、家族ですら破れない呪いを貫通するような人だ。

 事私に於いては、その存在を見つけ出す事そのものが最難関なのだから、それを突破した彼からすれば猶更、私の顔以外の事等簡単に気付けてもおかしくはないのかもしれない。


 何ともおかしな言い分だが、あまりに大きな説得力を持っている彼の言葉が何だかおかしくて、私は小さく吹き出してしまう。


「……そうね。確かに貴方の言う通りだわ」


 透明人間にでもなったかのような、誰もが私を脇をすり抜けていくような世界で、必ず私を見つけてくれる唯一の人。

 私が理不尽に遠ざけても尚、自ら歩み寄ってくれる、大切な人。


(彼ならきっと、私の言葉も全て受け止めてくれるはず)


 心の底から、そう思えた。

 たとえ私が告げる真実が信じ難いものであっても彼はきっと呑み込んでくれるだろうし、それが傷つくような内容であったとしても隠し事をされるよりはマシだと言い放ってくれるだろう……そんな信頼が私の中に生まれていた。


(何より、彼に対して結果を見る前に逃げる事はもう……したくない)


 勇気づけられ、決意が固まったからだろうか。

 渾身のギャグを披露されたわけでもないのに暫く笑いが止まらなくて、私は吹っ切れたように声を出して笑った。

 澱のように濁っていた思考がすっきりとしていく。


「アルバート」


 私は一頻り笑ってからアルバートを見据えて微笑んだ。


「今から信じられないような話をするけれど……聞いてくれる?」


 勿論、と。

 何を当然の事を、とでも言うように。

 彼は鼻で笑いながらそう答えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ