第47話
サクラがフィルカイト部に決まったので、次はカタリナの決闘部に3人で向かうことにした。
決闘部はミスティカドールを用いるため、整備ドックにほど近い専用フィールドで活動しているようだ。見学者用に解放されている上階の観戦エリアに向かうと、ちょうど決闘が行われている最中だった。
2機の”ジェノクス”がそれぞれ盾と片手剣を振り回し、お互いの頸を狙って切り結んでいた。
「おぉぉ……これは壮観だね」
「そうそうこれこれこれですわ! これこそがミスティカドール同士の決闘ですのよ!」
今度はカタリナが目を輝かせる番だ。金属同士が激しくぶつかり合う轟音が全身に降り注ぐ。
2機が鍔迫り合いに入ったその瞬間、片方の機体が下から掬い上げるようなシールドバッシュで相手の体勢を崩し、空いた隙に差し込むようにコンパクトな突きを放ち、相手の頸を断ち切る。
落とされた頭部、つまりコックピットはそのまま落下し、地面に衝突する寸前で減速、軟着陸を果たす。
「ん? い、今頸、っていうかコックピット落としたよね!?」
「これが本来の決闘ですわよ。古来よりの決闘様式ではこのように相手の頸を落とすのですわ」
「それじゃあ、リファちゃんとカタリナちゃんがやってたのは?」
「あれは新式ですわね。決闘初心者が行う、比較的安全な決闘ですわ。古式は3年次から出ないと許可が降りないのですわ。当然、危険ですもの」
確かに、今の決闘は見ているだけでも明らかに危険度が高そうだ。上から覗き込むように落とされた頭部の方を見てみると、ちょうど敗北したパイロットが出てくるところだった。特に怪我もなさそうな様子だ。先ほどの軟着陸、何らかの保護術式が敷かれていたのだろう。勝利したパイロットも機体から降り、両者が向かい合って握手をする。残されたミスティカドールは”作業機”が整備ドックへと回収していった。
また別の”作業機”がフィールドを軽く整備すると、次の試合が始まるアナウンスが鳴り響き、2機のミスティカドールが入場してくる。
片方は、一般的な装備に身を包んだ”ジェノクス”。もう一方は、片手剣1本だけを握った”トレイラス”だった。各部に軽くスラスターが増設されているだけで、他はただの”教習機”の姿そのままだ。
「”トレイラス”が決闘するの!?」
「おや、ご存知ないのですの?」
首を傾げるカタリナに促されて、観戦エリアの最前列へと向かう。ちょこちょこと動く3人組が見えたのだろう、”トレイラス”が私たちを見つけこちらへ向く。
『あれ、リファリード? 僕の試合を見にきてくれたのかい?』
「その声……ログルス先輩!?」
ログルスの声が響いてくる”トレイラス”が、空いた手を軽く振る。確かログルスはパイロット科ではなく整備科だったはずだが、決闘部に所属していたのだろうか。
「”教習機乗り”のログルスといえば、ここ最近で名を挙げた決闘部員ですわ。性能の低い”トレイラス”に乗っている上に、獲物は剣1本。にもかかわらず、入学から1年間無敗という、恐ろしい戦績を持っていますの。その戦いぶりから”幽鬼”なんて呼ばれたりもしていますわね」
「なぁにそれ」
確かに、初めてログルスと会った時、妙に周囲の人に恐れられていた。今その理由がわかった気がする。”幽鬼”なんて呼ばれるほどだ、相当恐怖を煽る戦い方をするのだろう。もっとも、本人を知る側からするとそんなふうには全く見えないのだが。
「さぁ、始まりますわよ!」
カタリナの掛け声と共に戦いの火蓋が切られる。
ログルスの”トレイラス”が、ゆらりと片手剣を上段に構え、僅かに前傾姿勢をとり脱力する。
対する相手の”ジェノクス”は全身を隠すほどのタワーシールドを前面に押し出し、数打ちの片手剣の剣先を腰の後ろへ送る脇構えを取る。盾と自身の身体で剣のリーチを隠し不意を打つスタイルだ。
ゆらゆらと”トレイラス”が全身を軽く揺らす。揺らしながら徐々に徐々に相手へと接近している。”ジェノクス”は”トレイラス”を中心に、時計回りに回りながら距離を詰めようとする。しかし、”トレイラス”の間合いを掴ませない攻めにより、すでに両者は一足で斬りつけられる間合いに入り込んでいる。
”ジェノクス”が一歩回り足をついた瞬間、”トレイラス”の姿が一瞬消える。
いや、消えたと錯覚するほど的確な、意識の逸れるタイミングで動いたのだ。
次にその姿を認識できたその時には、”ジェノクス”の剣を持つ右腕は肩口から落とされ、背後で残心を取る”トレイラス”が逆手に握る片手剣が、左肩に取り付けられたフラグアンテナを、肩ごと貫いて破壊していた。
するり、と音もなく”トレイラス”が剣を引き抜くと、バランスを崩した”ジェノクス”が膝をつき、決着となる。
「な、何今の……」
「すっごい、なんも見えなかった」
「そうだろうそうだろう」
「「!?」」
私とサクラが呆然としていると、背後から誰かに声をかけられる。驚いて振り返れば、そこには腕を組みしたり顔で頷く青年が立っていた。
短い金髪をオールバックに揃えたガタイのいい人だ制服の端々から垣間見える筋肉が、常日頃から鍛え続けているのが見て取れる。
「えっと、誰ですか?」
「おっと申し遅れたね。俺は決闘部部長のカイン・オーグレムだ。悪いね、つい話しかけてしまったよ」
どうやら決闘部の部長だったらしい。各部の部長は説明のために場に出ているのだろうか。
様子を見るに、ログルスの話をしてたところに気になって話しかけてきたのだろう。
「あいつの剣術は、師こそいるもののほぼ我流だという。一体どんな修羅場を抜けたらあれほどの凄まじい技術を身につけたんだろうな!」
「我流剣術……ってことは、生身でもあれってことですよね。どうりで妙に恐れられているわけだ」
「ログルスさんがいるときだと、リファちゃんに集ってくる人ほとんどいないもんね」
「リファさん、貴女いつも人に集られてましたの……?」
生身でもあの戦い方をするのであれば、ログルスが人避けになるのも頷けるというところだ。というか、恐れられるほどのことをしたのだろうか。
決着したフィールドの2機がはけ、また別の機体が入ってくる。話に聞くと、この後はもう3戦ほどやるらしい。背後ではカインから入部届を受け取ったカタリナが諸々の説明を受けているところだ。
「リファさんも決闘部に入りませんこと? わたくしよりも強いんですもの、絶対に向いていますわ!」
「あれは初見殺しありきだし。私攻撃避けられても当てられないし。そもそも戦いそんな好きじゃないからパス」
「そんなぁ」
……さて、本格的に私の部活をどうするか考えなくては。




