第48話
もう何試合か決闘部の試合を観戦し、決闘フィールドから離れる。カタリナはホクホク顔で、サクラも楽しそうだ。唯一、部活が決まらない私だけが難しい顔をしている。
「リファちゃんの部活、なかなか決まらないね~」
「いっそのことこのまま無所属でもいいのではありませんの?」
「さすがにそれはちょっとね……」
部活無所属帰宅部はちょっと避けたい。ただでさえ飛び級特待生として目立っているのだ。他のみんなが部活に所属しているのに、私だけ所属していないと、それはそれで悪目立ちしてしまう。十中八九、無所属なのが知れ渡った瞬間、勧誘の人垣に呑まれるだろう。
「とりあえず、近場の運動場で活動している部活から見ていきませんこと?」
「そーするかぁ」
「やった、運動部! 楽しそう!」
私よりサクラのほうが嬉しそうにしているがまぁいいだろう。3人で連れたって、運動場に向かうことにした。
◆◇◆◇◆◇
運動場を離れ、私たちは校舎に隣接された食堂までやってきた。午後の部活の時間帯なためか、人の姿は疎らでとても空いている。
軽食のサンドイッチをそれぞれ注文し、長机に横並びで座って休憩する。
「結局、全然決まらなかったね~」
「リファさんが年下なことをすっかり忘れていましたわ……まさか、筋力体力面で、入部を断られるなんて……」
「若干予想はしてたけどね。実際に言われるとくるものがあるなぁ……」
運動場には様々な部活が活動していた。陸上、サッカー(のような競技)、バスケ(のような競技)、バレー(のような以下略)、野球(以下略)、ラグビー(略)などなど……。
そのあたりを一通り巡ってみたが、私が10歳だと明かすたびに、「流石に10歳をみるのはちょっと……」「ごめん、怪我して再起不能とかになったら責任が取れない」「ヤダーーっ! こんなかわいい子をムキムキにしたくなーーい!」などと、十人十色なお断り文句をもらってしまった。
「じゃあ次は……運動しない部活?」
「文化系であれば、向こうの第三教室棟で活動しているはずですわ。行ってみます?」
「まーいってみるかぁ……」
もそもそとレタスとベーコンのサンドイッチを頬張る。コショウが効いてて美味しい。
ここまでいろいろと巡って疲れがでてきた。でろーんと長机に突っ伏し、首からかけている懐中時計を手に取り、特に意味のない飾りのリューズをカチカチと巻き上げる。この懐中時計はマナ動力式の魔道具だ。時刻の調整もマナを流して行うため、このリューズをいじる行為はただの手遊びだ。
「……ん? リファさんのそれって、謎の名工”カンターヴィレ”の作品ですわよね!?」
「へ? あ、あぁ、そーだよ。偶然手に入ったんだよね」
”カンターヴィレ”というのは、私が懐中時計をオークションで売り出すときに使っていた名義だ。私の出品していたオークションでは、出品者は名前だけで参加できる。謎の出品者が超一級品の工芸品を売り出しているわけだから、妙に有名になってしまっている。
「カタリナちゃん、その”カンターヴィレ”って?」
「数年前に突然現れ、10品と少ししか出品していないにも関わらず、売り出された懐中時計があまりにも美しすぎたために、今もその所在を探されている伝説の名工ですわ。現存している品は数千万以上の高値で取引されていますのよ!」
「数千万!?」
「って、どのくらい?」
「庶民が5年は遊んで暮らせますわね」
私が売りに出したときはそこまでの高値はついていなかったのに。これがいわゆる、作品が作者の手を離れた、というものなのだろうか。いや違う気がする。だがどことなく損した気分だ。
「優れた美しい機械時計を世に送り出し、細工師界隈に革命を起こした正体不明の偉人ですわ。今は活動されていないようですけれど、いつか彼の作品を手に入れたいですわね」
「機械時計? でもリファちゃんのもってるのって、魔道具だよね?」
「「え?」」
誰にも魔道具だと言っていないはずなのに、なぜかサクラが言い当てた。やはり、サクラには、マナの流れが見えているのでは……?
「確か”カンターヴィレ”は、魔道具は造っていなかったはず……リファさんもしかして、偽物つかまされましたの?」
「は、はは、そーみたいだね」
カタリナから哀れなものを見る目を向けられるかわりに、なんとか出所をごまかすことができた。そういえば確かに、両手の指で足るほどの数しか作ってなかったから、そりゃあプレミア価格がつくに決まっているか。もう少し数を作って世に放ち、私が”カンターヴィレ”の時計を持っていても不自然じゃないようにしなければ……。
「ね、ねぇ、今”カンターヴィレ”って聞こえたんだけど」
「はい?」
不意に後ろから、誰かに話しかけられる。振り返ってみてみると、暗い赤の髪をおさげにまとめた、気弱そうな女子生徒が立っていた。タイの色からして2年生だろう。そのうしろには、くすんだ茶髪の少年も立っている。彼もタイの色から2年生のようだ。
「おい、いきなり話しかけるのは……ごめんね、驚かせて」
「いやもしかしたら、ね? 君たち、もしよければだけど、機械技術研究部に興味はない?」
「機械技術研究部?」
聞き捨てならない単語が彼女の口から零れ落ちた。機械技術研究部? なんと心惹かれるワードだろうか。だが早まるべきではない。思っているような部活ではない可能性も……。
「機械技術研究部ではね、マナを用いない動力を開発して、今のミスティカドールや魔道具一辺倒な世の中に一石を投じることを目標としているの!」
「入ります」
「「リファちゃん!?」」
マナを用いない動力、要は蒸気機関やら内燃機関やらを目標にしているのだろう。そうと聞いては機械オタクの血が騒がないわけがない。この世界に内燃機関をもたらすことができるのならば、私はこの命をも燃料にしてみせよう。
「ほ、本当にいいのか……? 自分でいうのもおかしな話だが、かなり怪しいだろう……?」
「いいんです。ええいいんですよ。めざせ、内燃機関!!!」
「な、ないねん……?」
理想の部活に出会えた。ここから私の、鋼鉄に満ちた華やかなメカニカルライフが幕を開けるのだ!




