第45話
エミリア先輩に連れられ、フィールドの中央あたりまで進む。別の部員さんが少し小さめのフライジャンパーを人数分と、よく使い込まれた大きめのフライジャンパーを1つ持ってくる。
私たちは小さめのものをそれぞれ受け取り、エミリア先輩が使い込まれた方を手に取る。
「さて、それじゃあちょっと跳んでみようか!」
笑顔で言い放ったエミリア先輩は、間髪入れずにフライジャンパーへとマナを流し、高く高く飛び上がる。そしてそのまま10秒ほど空中を漂い、ゆっくりと地面へと降り立った。
「「「おぉー」」」
「おやおやぁ? びっくりしすぎて言葉出なくなっちゃった?」
ニヤリといたずらっ子のような笑みを浮かべる。実際に驚嘆すべき光景に目の前で出会ったのだ。言葉少なになるのも仕方がない。
「すごいすごい! 本当に飛んでたよ!」
「これが熟練者の技術なのですわね!」
「あんなに高く跳べるものなんだ……」
「んん〜、大好評でお姉さん嬉しいなっ。じゃ、ちょっとやってみよっか」
エミリア先輩が、私たちの持つフライジャンパーを指す。
「それは初心者の練習用だから、大体3メートル、高くて5メートル程度跳べるよ。もちろん、フィールドの安全用術式は起動中だから安心してね。それじゃあ一人ずつ行こう。誰からやる?」
「はーいっ! わたしやりたい!」
「オッケー、サクラちゃんから行こうか!」
サクラがエミリア先輩に促されて一歩前に躍り出る。そのまま軽くエミリア先輩に使い方を教わり、両手で握り締め空へと翳す。
「さ、いってごらん!」
「はーいっ! ん〜、よぉっと!」
サクラが力を込めつつマナを流すと、それに反応してフライジャンパーの筒から強烈な風が吹き出し、サクラの身体を引っ張り上げ空中に放り出す。5メートルほど飛び上がり、重力の軛から逃れふわりと回る。
「おぉーっ、初心者にしては高く飛び上がったねー」
「わ……っひゃぁぁぁぁぁ!!!」
「お、落ちてくる!?」
「大変ですわ、何か受け止めるものが!」
関心するエミリア先輩をよそに、錐揉み回転をしながら落下し始めたサクラに、地上組の私とカタリナが慌てふためく。周囲を見回しても、受け止めるためのクッションはなさそうだ。私とカタリナで受け止めるべきか……。
「大丈夫大丈夫。ほら、よく見て」
余裕そうなエミリア先輩に促され、サクラにもう一度視線を合わせる。すると、上空3メートルあたりの地点から、コマのように回りながらではあるが、ゆっくりと安全な速度で降りてきていた。
「あ、そういえば安全用術式があるって」
「すっかり忘れていましたわ……それはそれとして、あの動きは大丈夫なのですの?」
「たぁぁぁぁすぅぅぅぅけぇぇぇぇぇてぇぇぇぇぇ」
地上方面へはゆっくりと降りているが、縦に横にとグルングルン身体が回転している。フライジャンパーが暴走している……というわけではなさそうだ。単純に、焦ったサクラが変な方向に噴出口を向けてしまい、それで姿勢が崩れているだけだろう。
「サクラちゃーん、マナを流すのをやめよっかー」
「マナ、を……とめ、ん゙ っ!」
なぜか全身を丸めてマナの流れを止める。するとフライジャンパーからの噴出が止まり、その勢いのまま、顔面からフィールドにボスっと着地する。
「サクラーーー!!!」
「サクラさん無事ですの!?」
「ぷはぁ!」
「「わぁっ!?」」
慌てて二人して駆け寄ると、予備動作なくガバリと状態を起こし、土で汚れた頬を上気させ、キラキラと輝く瞳で見上げてくる。
「すっごく、楽しかった!」
「おっ、そいつは重畳。このまま入部してく?」
「しますっ!」
サクラは今ので完全に心を奪われたようだ。入部届を受け取りにささっと行ってしまった。
ニンマリとしているエミリア先輩が、次の標的へと狙いを定める。
「そしたら次は、カタリナちゃん行ってみる?」
「やりますわ!」
続いてカタリナがフライジャンパーを構えマナを流し、空中へと向けて飛び上がる。幾度も見たことがあるのだろう、最頂点へと至る直前でマナの流量を絞り、出力を抑えることで軌道を制御している。
「ほほー、初心者とは思えないくらい上手いねぇ」
「なんか、お手本みたいに綺麗に飛び上がって、綺麗に降りてきてますね」
「ふふーん、わたくしの手にかかれば、この程度造作もないのですわ!」
体操選手のように綺麗なフォームで降り立ったカタリナが胸を張ってドヤ顔を決める。ゆさりと揺れるたわわな果実がなんとも憎らしい。
しかし実際に、初心者には見えない飛翔だった。細かい技術は即戦力級だろう。
「カタリナちゃん上手だねー。どう、このまま入部しちゃわない?」
「うーん、ちょっと考えさせてくださいまし。決闘部との兼部は少々荷が重そうですわ」
「ありゃ、決闘部志望かぁ。そいつは仕方ないね」
エミリア先輩は残念そうにしているが、どこか納得している風だ。決闘部というのはそれほどまでに過酷なのだろうか。とはいえ、”キャッツナイト”に乗り込んだカタリナは手強かったので大丈夫だろう。
「それじゃ、最後にリファリードちゃん。いってみよっか!」
「わかりました!」
フライジャンパーを握り、一歩前に出る。マナの操作はお手のものだ。が、1つ不安なことがある。
私は、ミスティカドールを介さない素の運動神経が、そんなに高くない。ついでに、サクラやカタリナと比べれば、2歳下というハンデもある。
サクラやカタリナほどでなくとも、多少跳び上がれればいいなと心の中で祈りつつ、マナの流れを制御し始める。




