第44話
翌朝のホームルーム。私の右手にはサクラが、そして左手には何故かカタリナが座っている。
カタリナ曰く、
「昨日も言った通り、一度剣を交わらせれば友人も同然ですわ!」
ということらしい。カタリナにもちゃんと、殴り合ったからといって友誼が結ばれるわけではないと説明はした。が、そんなに響いている様子がなかった。未来が少々不安なところだ。
とはいえ、昨日の段階でセオドア先生とも話はついている。そのため、懸念事項は一旦ある程度落ち着いたと言えるだろう。”研究室での話は、お互いに詮索無用で”と言ったあの瞬間のセオドア先生の口角は三日月のように歪んでいた。どう考えても手のひらの上で転がされている。
そのセオドア先生は、今教壇に立って今日の流れを話している。
「つーわけで、本格的な授業は明日からだ。このあとは自由解散だが、各部活動が勧誘してるから、興味あるとこに行っとくといい。質問はあるか、ないな? んじゃかいさーん」
「なんとも雑な……」
「うむぅ……やはり雑すぎますわ……」
話をさっさと終わらせてさっさと教室を後にするセオドア先生の後ろ姿に、カタリナがひどく微妙な顔で呟く。昨日の決闘で一応は納得したのだろうが、やはり感情は御し難いのだろう。とはいえ、噛みつきにいくことはしていないので、このくらいなら全然可愛いものか。
「ねぇねえリファちゃんカタリナちゃん、部活動だって!」
そんなことを気にすることもなく、サクラは”部活動”というワードに目を輝かせている。そう、この王立学園にも部活動が存在する。普通の各種球技系や陸上などの運動部。チェスや文芸などの文化部が存在する。変わり種で言えば、ミスティカドール同士での決闘に主眼を置いた”決闘部”や、社交界のルールマナーを学び研究する”社交部”などもある。らしい。
「部活動、楽しみですわね! サクラさんとリファリードさんは、どの部活動に所属するか決めてありますの?」
「んー、まだこれと言っては」
「わたしもまだかなー。カタリナちゃんは?」
「わたくしは当然、決闘部ですわ!」
ババーンと効果音が聞こえてきそうなくらいに胸を張りドヤ顔を決める。同年代にしては”ある”胸部装甲が揺れてなんとも肉たらしい、もとい憎たらしい。
「リファリードさんもサクラさんも、お二人とも強力な”遺構機”を所有しているのですから、わたくしと共に決闘部に入りませんこと?」
「リファでいいよ。あと決闘部はパスかな。ただの避ける的に成りかねない」
「わたしもいいかなー。戦うのはそんなに得意じゃないし」
「そうですの。残念ですわ」
背後から襲ってきた分際でサクラは一体何を宣うのか。ただ、思い返せば確かにその戦い方は随分と稚拙なものだった。大抵の機体は、飛ぶ機体に攻撃を与えられないし、高速で伸びてくるクローアームを避けられない。だから戦い方を学ぶ機会がなかったのかもしれない。
私たち二人が決闘部入りを断り、カタリナは少し肩を落とす。とは言えそこまで残念がっているわけではなさそうだ。元々予想はしてたのだろう。
「サクラは運動部志望なんだよね。どんなのがいいの?」
「んーとね、飛ぶやつ!」
「そんなのはないと思うな……」
「ありますわよ」
しれっと言い放ったカタリナに目を剥いてしまう。あるのか、飛ぶタイプの運動部が。確かに術式・魔術なんてものがある世界だ。あって然るべきなのか?
「確かこの学園にもフィルカイト部があったはずですわ。フィルカイトは空中を飛び回るボールを、地に落とすことなく協力して運び、相手の陣地に落とす競技ですわ。問題は飛行術式の難度が高く、初心者は事故が起こりやすくて危険ですわね」
「そんな競技が……」
「すごい、それやってみたい……!」
「であれば、まずはフィルカイト部へ見学に行ってみましょう。勧誘期間であれば、体験させてくれるはずですわ」
「ねね、リファちゃんも行こう!」
「うん、ちょっとどういうのか気になるし、私もついてくよ」
ということで、最初はフィルカイト部へ見学へ行くこととなった。
周囲のクラスメイトも、それぞれ連れ立って見学に向かっているようだ。私たちもそれに便乗していくことにしよう。
◆◇◆◇◆◇
フィルカイト部は運動場の一角に作られた専用フィールドで部活動を行っていた。サッカー場程度のフィールドに、プロテクターとよくわからない道具を持った十数名の選手が集っている。H型に組まれた太めの金属筒に各々使いやすいように革製のベルトを備えている。
「あの道具は……?」
「あれがフィルカイトで使う最も大事な道具、フライジャンパーですわ! 中央のグリップからマナを流すと、両脇の噴射筒から強力な風を噴射し飛び上がるのですわ。優れたプレイヤーは、これで10秒近く滞空できるんですのよ」
「あんなので10秒も!? と言うか、あんなので飛ぶの!? 危なくない!?」
「フィールド上に衝撃緩和術式が敷かれていますの。なので落ちても安全ですわ」
などと話していると、どうやら試合が始まるようだ。選手が二手に分かれ位置につく。7対7で戦うのだろう。それぞれバラバラに分かれ、フライジャンパーを構える。中央の審判が、バスケットボール程度の球を放り投げ笛を吹くと、選手たちが一斉に動き出す。幾人もの選手がフィールドを走りながらフライジャンパーを使って跳び上がり、ボールを叩く、蹴るなどしてパスを繋いでいく。中には自前の風系術式を用いて滞空し、数メートル分ボールを抱えて移動する者もいる。
「すごいすごい! みんな飛んでるよ!」
「本当に、すごい……」
片方のチームが相手のゴールラインにボールを叩き落とそうとすれば、誰かが跳び上がってディフェンスする。それを受け取った選手が今度は反対側のゴールライン目掛けてボールを送る。競技性が高く、見ていて飽きない。
「や。君たちは一年生かな。どう、興味出た?」
3人で試合を眺めていると、プロテクターに身を包んだ背の高い女性が話しかけてくる。ふわりと長い淡いブロンドのポニーテールを揺らした快活そうな人だ。
「すごい、すごく楽しそう!」
「えぇ、やはり直接見ると素晴らしいですわ!」
「うんうん。楽しんでくれてるようで何より。君はどう?」
「すごく、面白そうだと思います」
そう答えると、にんまりと満面の笑みを浮かべる。おそらくフィルカイト部の部員なのだろう。
「自己紹介がまだだったね。私はエミリア・トーヴァード。3年でフィルカイト部の部長だよ。よろしくね」
「1年のカタリナ・ゼフィカールですわ、よろしくお願いいたしますわ!」
「サクラ・ミツキです!」
「同じく、リファリード・ケルビーニです。えっと、トーヴァードってことは、セオドア先生の?」
「ありゃ、もしかしてセオ兄のクラスの生徒さん? そそ、私はアレの妹だよ」
意外なところで繋がりがあるものだ。あんなやる気のなさそうな人に、こんな快活そうな妹がいるとは。
ふと周囲に笛の音が鳴り響く。どうやら試合が終わったようだ。得点表を覗いてみると、なかなか接戦だったらしく点差がほとんど付いていない。
「おっ、向こうも終わったね。どう、ちょっと体験して行ってみる?」
「是非とも!」
「やりまーす!」
「じゃあ私も、お願いします」
「おっけーおっけー大歓迎!」
諸手を挙げて喜ぶサクラとカタリナに便乗し、私も一つ体験させてもらうことにする。これもいい経験だろうし、面白ければ入部も視野に入るかもしれない。




