第43話
『──そこまで!』
視界を覆い尽くす閃光が収まると同時に、斬られた衝撃で”キャッツナイト”が尻餅をつき倒れ伏す。それを確認したセオドア先生が、管制室から鋭く試合終了の合図を出す。
『うぅっ……今のはなんだったんですの……っ!?』
ギシギシと金属の撓む音を響かせながら、ゆっくりと”キャッツナイト”が立ち上がる。そして、真っ二つに崩れ落ちた自身の左腕を見つけ、カタリナ嬢が息を呑む。
『そいつの言うとおりだ。お前、フラッシュバンなんざ持ってたのか?』
「違いますよ。エネルギーブレードにマナを過充填してただけです。マナが過充填された魔道具が破壊されると光を発して破裂するって言うじゃないですか。それを意図的に起こしただけです」
とはいえ、割と全力で充填してしまったせいか、想像の数倍くらい酷い閃光が出たのは完全に予想外だった。それこそちょっと驚かせて一瞬動きを止めさせる程度を想定していたが、完全に視界を奪うほどになるとは。シルの機転で自分まで視界が塗り潰されることはなかったが、それがなければただの自滅になっていた。
〈ボクが咄嗟に視界を切り替えなかったら危なかったね〉
「本当にそう。助かったわ……」
改めて”キャッツナイト”の方へと向き直る。まさか自分が負けるとは思っていなかったのだろう。カタリナ嬢は相当呆けているようだ。
「あー、大丈夫ですか?」
『貴女……嘘をつきましたわね!?』
「……はぁ?」
残った右腕を伸ばし、ビシリと指を突きつけてくる。一体私がいつどんな嘘をついたと言うのか。
『貴女、魔砲機と言いましたわよね! だというのに、そのシミターは一体何なんですの!?』
突きつけられた指が、私の右手にだらりと握られたソレへと移動する。
さほど長くない、僅かに剣先が湾曲した片刃の剣だ。柄も短い片手剣で、峰には細いレールが取り付けられている。そして灰鉄色の剣身は、甲高いモスキート音を響かせ、ほんのりと風を起こしている。
『魔砲機がそのような近接武器を持っているなんて聞いたことありませんわ!』
「そりゃあまぁ、私が改造しまくりましたからね。確かに元々はただの魔砲機でしたよ。でも、度重なる改造で、魔砲機と斥候機の複合機になったんです。だから嘘はついていませんよ」
度重なる近代化改修、という名の近接強化によって、斥候機としての適性も認められ、今の分類は「遺構機/複合機(魔砲機・斥候機)」となっている。
『ぐぬぬ……そ、それに! そんな細い剣で斬れるほど、わたくしの機体は脆くありませんわ!』
「それもまぁ、”斬る”ことに特化させた剣なので」
この剣は新武装、”イローダー”。一言で言うなら「高周波振動破砕剣」だ。硬質素材の刃を叩きつけ、それによってできたほんの僅かな溝から高周波振動する刃が侵食するように金属を砕きながら突き進んでいく武器だ。”アルヴィーレ”の技術を一部応用した、私謹製の白兵武器だ。
『あと、開始時はそんな剣持っていませんでしたわよね!』
「ここに収納してるんですよ」
私は左側の背面バインダーを展開し、2本目の”イローダー”を出す。翼の中程から上部が展開し、ぐるりと回転して肩の上から”イローダー”の柄を差し出す。刃は天へ向けて曝け出され、レールを挟むアームが柄の位置を程よく整えてくれる。
「普段がデッドウェイトだったから、武器ラックとしての機能を付け足しただけです」
〈にしてもまさか、実体剣を装備させるとはねぇ。リファリード、実体武器好きだよね〉
シルから言われて少し考える。確かに、超電磁弩弓もこの”イローダー”も、どちらも実体武器だ。そう考えると、私は実体武器が好きなのだろう。
『もういいか? 勝者ケルビーニ。お前の負けだ、ゼフィカール』
『うぅっ……認めますわ……』
ともかく、私が勝ったことに変わりはない。カタリナ嬢が項垂れている様子が声から手に取るようにわかる。
「それじゃあ一旦戻って……」
『待つのですわ!』
ことも終わったし、右手の”イローダー”を収納しドックへ戻ろうと踵を返すと、後ろから制止の声がかけられる。立ち上がった”キャッツナイト”が、手のひらを差し出している。
『認めますわ。貴女は強い。ですが、一度剣を交わせたのであれば、わたくしたちは友人も同然。これからもよろしくお願いいたしますわ、リファリードさん』
「……え、あ、はい。よろしくお願いします、ゼフィカール様?」
『カタリナでいいですわ! それに敬称も不要ですわ』
困惑しながら差し出された手を取る。どうもカタリナ嬢は嬉しそうだ。
『やっぱり、戦えば友達になるんだ!』
「サクラ、勘違いしちゃダメ。これは特殊な人種よ」
サクラの変な勘違いが加速してしまうところだった。この学園には脳筋な生徒しかいないのだろうか?
『……俺は何を見せられているんだ?』
セオドア先生のぼやきが通信に乗ってくる。そうだ。元々この決闘はセオドア先生に不満を持ったカタリナ嬢が発端だ。もういいのだろうか。
「えーと、カタリナ様?」
『カタリナ、でいいですわ!』
「じゃあカタリナ。セオドア先生の件はもういいの?」
『む……わたくしは決闘で負けたのですもの。仕方ありませんわ。でもいずれ見返してやりますわ……!』
「さいですか……」
諦めたわけではなさそうだが、この感じであればしばらくは大丈夫だろう。ただこの感じだと、カタリナの手綱を握るのは私か。
天然なサクラと猪突猛進なカタリナ。なかなか騒がしそうな学園生活になりそうだ。




