第42話
『では──始め!』
「先手必勝! 【ヴァーディクトレイ】!」
『にょわぁっ!?』
開始の合図が発されたその瞬間、伸ばした”アルヴィーレ”の砲身から練り上げたマナを術式の形にして放出する。
不意打ちに近い形で左肩のフラグアンテナを狙ったものの、掲げられたカイトシールドに悉く弾かれ、全く痛痒を与えることが叶わなかった。
「【ヴァーディクトレイ】をくらって無傷……!?」
『ちょっと、不意打ちは卑怯でなくって!?』
「へっへーん、戦いに卑怯も何もありませーん」
『これは喧嘩ではなく決闘ですわ、よっ!』
「ほにゃぁっ!?」
”キャッツナイト”が伸ばした左腕と、装備されたカイトシールドの隙間から、亜音速の鉄杭が飛び出してくる。ギリギリで反応できたが、これはどう考えても不意打ちではないか。
「ふ、不意打ち! 卑怯って言ってたくせに!」
『これは立派な戦術ですわ! オーッホッホ!』
『なんなんだこいつら。仲良いのか?』
『なんだっけこういうの……キャットファイトだっけ』
「おらそこ外野! うるさいぞ!」
『そうですわ! 真剣勝負に口を出さないでくださいまし!』
やいのやいの騒ぐ観戦者を黙らせつつ、お互いにジリジリと間合いを詰めていく。先程放った先制の【ヴァーディクトレイ】は、なぜか無傷で防がれた。十中八九、あのギミックもりもり(推定)のシールドがタネだろう。検証のために、もう1発放ってみる。
「……今っ、【ヴァーディクトレイ】!」
『ふんっ! そんなもの効きませんわ! 魔砲機対策は完璧ですのよ!』
防がれること前提で放った【ヴァーディクトレイ】は、掲げられたカイトシールドに衝突する寸前、弾かれるように方々に霧散していってしまった。あのシールドには、やはり何かしらの術式対策が施されているのだろう。
「……なかなかにイカした盾じゃないですか」
『フッフーン、リファリードさんはやはりお目が高いですわね! これは装甲材に、マナを霧散させる効果を持ったディスフェル鉱石を利用した、特製のシールドですの。さらに裏面には、この頃のトレンドである単銃身タイプの超電磁弩弓を装備しているのですわ! これ1つで魔砲機や狙撃機対策は完璧ですのよ!』
「うわぁ聞いてないことまでペラペラと」
映像は全く見えないのに、コックピットで盛大に胸を張ってドヤ顔している幻覚がはっきりと見えてくる。本人にとっては相当な自慢の武装なのだろう。実際、王都に来る前までの銀紅であったら、天敵と言っても過言ではない。
だが今は、白兵戦能力を高める近代化改修を施してある。接近戦に持ち込めれば、まだ目はある。
「ふぅ……うぉーーーっ!! 突撃! 己が鉄砲玉ぁ!!」
『なっ、血迷いましたの!? 機体色のように!?』
〈「血の色じゃなくて深紅だ!」〉
シルと共に抗議を入れつつ、右からタックルするように真っ直ぐ突貫する。その間、半身になって隠した左手で、腰のサイドアーマーからエネルギーブレードを抜き放ち、脇構えの要領でその存在を隠す。
「隙ありぃっ!」
『甘いですわよ!』
「んぎゃっ!?」
間合いに入ったその瞬間に、盾の裏側へ向けてエネルギーブレードを振るうが、踏み込むタイミングを狙われたシールドバッシュに体勢を崩され、数打ちだろうと思っていたバスタードソードで、伸ばされた手に合わせるようにエネルギーブレードの刀身ごと柄を真っ二つに唐竹割りされてしまう。
すんでのところでエネルギーブレードを捨てることができ、マニピュレータまで損傷することは避けられたが、貴重な近接武装を1つ失った上に、体勢も盛大に崩れている。
仕方なしに全身のスラスターを噴かし、押し出された盾の面のど真ん中を蹴り抜き、無理やりに距離をとる。
「うっそぉ……それなりに自信あったのに……」
『ぐぅ、また間合いを取られましたわ……」
着地して視線を”キャッツナイト”に戻すと、バスタードソードの切先が斜め上の虚空を切り裂いたところだった。あのまま立ち止まっていれば、返す刀で斬りつけられていたことだろう。
すかさず盾の裏に隠された超電磁弩弓で、数発の追撃を放ってくる。当然そんなものは当たらず、軽く身を翻すだけで回避する。
『貴女、なかなかの使い手ですわね』
「そっちこそ、まさかあれに合わせられるとは思わなかったわ」
『あんなバレバレの突撃で……?』
「うそばれてたの」
どうも私は、白兵戦ですらド下手らしい。いや、これはただ単に経験値が不足しているだけに違いない。今はそう思っておこう。
右の腰にマウントされたエネルギーブレードを取り出し、左手に持ち替えて構える。切先を相手の正中に突きつけ、大きく体を開いて右手を上げる。一見すると、弱点であるフラグアンテナを突き出した無意味な構えに見えるだろう。だが何かを感じ取ったのか、相手は盾を前面に押し出し、口元に近いあたりでバスタードソードを構える。俗にいう八相の構えだ。
正直、この構えにはなんの意味もアドバンテージもない。だが、不意を突いて”アレ”を使うならこうするしかない。
『何を企んでいるのか知りませんが、打ち合いでしたら貴女が不利でしてよ。わたくしのこの剣は、シールドと同じディスフェル鉱石の合金でできていますの。魔砲機である貴女の機体では、あってもせいぜいがそのエネルギーブレード程度。本当に勝てるとお思いで?』
「さーてどーでしょーね。手札があったところで、それを言うとでも?」
再びジリジリと間合いを詰める。こちらが何かアクションを起こせば、それごとあのバスタードソードで斬り捨ててくるつもりだろう。ならばと、私はマナを操り仕込みをしていく。
その間にも、1m、また1mと距離は縮まる。そして、あと一歩踏み込めばお互いのキルゾーンというところで、背面のスラスターを全力で噴かし、一気に距離をつめる。
「今っ!」
『っ!? 終わりですわ!』
振り下ろされたバスタードソードは、寸分違わず突き出されたエネルギーブレードをかち割る軌道に乗り……直前で放り出したエネルギーブレードの柄を引き裂く。
砕かれた柄はその役目を果たし、両者の視界を強烈な白で塗りつぶしてしまう。
『ひゃぁっ!? なんですの!』
「ここ、だぁっ!」
私の視界もホワイトアウトしてしまうが問題はない。右肩の上にあるウィングに意識を向け、ウィングの中程から外側へぐるりと一回転させ展開する。現れたグリップを掴み、盾のあるだろうところへ向けて真っ直ぐに振り抜いた。
振り抜かれた”ソレ”は、狙い過たず、盾とその奥に護られたフラグアンテナを斬り裂いた。




