第41話
「ほい、到着っと」
スラスターを吹かしながら訓練場に軟着陸する。整備ドックから訓練場への道が若干混んでいたため、面倒になって空を飛んできたのだ。
『ほーう、噂じゃ聞いてたが、ほんとに飛べんだな』
「セオドア先生、早いですね」
『研究棟からの方が近いんだから当たり前だろうが』
通信に乗ってセオドア先生の声が聞こえてくる。訓練場に併設された管制施設にいるのだろう。
『リファちゃん、頑張ってね〜』
「あぁ、サクラもいるのね……」
なぜかサクラもついてきているらしい。まぁ別段隠すようなものでもないし構わないのだが。
とはいえ、私は空からショートカットしてきたので、ゼフィカール嬢が来るまでは若干時間が空く。雑談の相手がいるのはありがたい。
〈んで、今度はどこの誰に喧嘩をふっかけられたんだい?〉
「どっちかってーと巻き込まれたのよ」
ニヤニヤと視界を漂うシルがなんともうざったい。経緯を軽く説明してやれば、あろうことか腹を抱えて笑い出した。まぁシルの性格を考えれば然もありなんか。
『あれ、そういえばリファちゃん。いつもの超電磁弩弓は?』
「あぁ、あれね。ログルス先輩に頼んで改造中なの。だから今はちょーど使えなくって」
先日不意に思いついて、魔改造を注文してしまったが故に、今は超電磁弩弓はこの場にない。それでも、”アルヴィーレ”や各種術式もあるし、なんなら近接能力も結構高めてるからどうとでもなるだろう。
そうしてしばらくきゃいきゃいと騒がしくしていれば、訓練場に1機のミスティカドールがやってくる。
全体的に細身なシルエット。素体は”ジェノクス”の兄弟機である”シャディラール”だろう。運動性と汎用性が売りであり、各種オプションを装備することで様々な戦況に対応できる機体だ。製造元が正規オプションの値段をふっかけてコンペ落ちしたとまことしやかに囁かれているが。
所々に金糸の装飾が施された、全体的に明るめな白と黒のツートンに身を包み、妙にゴテゴテしい中型のカイトシールドと、数打ち品であろうバスタードソードを携えている。機体各部に増設されたスラスター類も含めて、いずれも製造元純正品ではなく安価なサードパーティ製だろう。
そして最も目を引くのはその頭部。コックピットハッチの「Y」字スリットの先に、ネコミミがついている。
正確には、ネコミミ型のセンサーだろう。だが、これらに合わせて機体色、そして短めのフロントアーマーやふわりと広がって見える小型増設スラスターが、私にあるイメージを想起させる。
「ね、ネコミミミニスカメイド騎士……!?」
『なんですのその明らかにいかがわしい単語は!?』
『ようやく来たな。あー、縦ロールの』
『カタリナ・ゼフィカールですわ! いい加減覚えなさい!』
やはりゼフィカール嬢の機体だったようだ。なんともまぁ可愛らしいミスティカドールに乗っているものだ。
『ふんっ、まぁいいですわ。ここで貴女……えぇと』
「あ、リファリードです」
『リファリードさんね。よろしくお願いしますわ。んんっ、ここでリファリードさんを倒し、あの愚かな教師にギャフンと言わせてやりますわ!』
自信満々に機体共々胸を反らすその様子にすこしおかしくなる。とはいえ、見たところゼフィカール嬢の機体は近接偏重だろう。空中からの対地砲撃で事足りてしまう。
「ちなみにそのミスティカドール、なんて機体なんですか?」
『あら、リファリードさんは見る目がありますわね! この機体は、お父様が手ずから構築してくださったわたくしだけのミスティカドール。その名も”キャッツナイト”ですわ!』
「おぉー、名は体を表すというか、見たまんまというか……」
『そういう貴女の機体は、なんという名前なんですの?』
「”銀紅”っていう、ちょっといい感じの遺構機です」
〈ねぇリファリード、もうちょっと言う事なかった?〉
『紅色の遺構機……あぁ、貴女が噂の特待生ね!』
話している感じ、どうもこの子は思考が単純というか、考えていることが手に取るようにわかる。少し機体についての話を振っただけですごくご機嫌だ。自分を偽らず素直に感情を表に出せるのは良いことだ。
『そろそろいいかぁ? ……あ、そうだ。ケルビーニ、お前“飛ぶ“の禁止な』
「はぁっ!? なんでですか!?」
『いや、流石に有利すぎんだろ……戦いにもならないのは決闘じゃなく蹂躙だ』
「ぐうの音も出ない。ぐぅ……」
『ぐうの音でてるねリファちゃん』
まさかの”飛行“が禁止カードに指定されてしまった。確かに圧倒的なアドバンテージではあったが……銀紅の設計コンセプトが無に帰し、ただちょっと高性能なだけの機体になってしまう。
「まールール的に不利になったとて、ぱっと見相手は突撃機か守衛機あたり。対してこっちは遠距離主体の魔砲機。機動力もあるし距離取れる分、相性は私のが有利なはず」
〈肝心の遠距離攻撃、当たるといいね?〉
「だまらっしゃい。火器管制は任せるわよ」
私の操縦適正から考えて、”お互いにお互いの攻撃が当たらない“という千日手状態が容易に想像できる。上手いことそれは避けなければならない。
『そーんじゃ準備はいいか』
「はーい」
『もちろんですわ』
『うぃ。時間は10分間。先に相手の左肩に取り付けたフラグポールアンテナを折った方が勝ち。時間切れは10分区切りの延長っと』
お互いにお互いの獲物を構える。
私は半身になって”アルヴィーレ”を突き出し、”キャッツナイト”は右手の剣を引き絞ってカイトシールドを前面に押し出す。
剣の方を警戒する必要はない。あれはどこにでも売っている数打ちの量産品だ。だが問題は、妙に分厚くゴテゴテしいカイトシールド。ああいう類の武装は、大抵暗器のように何かを隠している。
決めるなら、初撃。それ以降は攻撃が当たらない可能性が高い。
『では──始め!』
戦いの火蓋が切って落とされた。




