第37話
学園のセレモニーホールは、全校生徒全員どころかその倍の人数までもを収容できる。プロムや諸々の祭日・式典などに使われるらしい。そんなセレモニーホールに、大勢の人が集っている。
そう、今日は入学式だ。新入生である私も当然、セレモニーホールに整然と並べられた木製の椅子に座り、壇上で長々と話を続ける学園長を眺めている。学園長は前公爵らしく、白く縮れた髪の下で王族の血筋特有のエメラルドグリーンの瞳が爛々と輝いている。だんだんと話に熱が入ってきて少し怖い。
『であるからして、新入生諸君には是非とも積極的に決闘を──』
『以上、学園長からのお言葉でした』
『ま、待て! まだわしの話は終わっとらんぞ! 終わっとらんぞぉぉぉ……』
おそらく時間が厳しくなったのだろう。教員らしき男性が学園長を舞台裏へ連行していった。この様子を見るだけで、普段の学園長の扱いが手に取るようにわかる。
「学園長先生、なんか面白い人みたいだね」
「そうねぇ……ただあれは傍目から見てるのが一番面白いタイプの人種よ。下手に関わったら変な気疲れをすること間違いなしね」
席順は学生寮の部屋ごとで並べられているため、私の隣にはサクラがいる。どうもこれだけ大勢の人が一堂に集っているのが物珍しいようで、しきりにキョロキョロと周囲を見回している。
私も軽く周囲に目をやってみる。果たしてこの場に何人いるのか。少し見ただけでも髪色髪型のバーゲンセールだ。ただ、皆同じ制服に身を包んでいる。紺色をベースとしたブレザースタイルを、適度にファンタジー風にいじったようなデザインだ。王立学園は騎士養成学園でもあるため、男女共に動きやすい構造だ。男子であればゆったりとしたズボンに若干袖丈が短めの上着を羽織っている。女子は膝下幾分かまでのスカートに、男子と同じような袖丈が短めの上着。
他の貴族学園であれば、生徒ごとにオーダーメイドで作られるのであろうが、この王立学園はミスティカドールの操縦適性が認められた平民の子供も入学するため、平等性のために全員既製の制服だ。そこに各々で、細々としたアクセサリーを身につけたり、丈の長さを加工したりして個性を出す。
私は最も小さいサイズでもブカブカだったため、丈だけは詰めてもらったもののそれ以外の加工は施していない。成長すればいずれバランスが悪くなってしまう。代わりに首から、お手製の懐中時計をチェーンに通して下げている。オシャレ目的とはいえ普通に時間も確認したいため、オークションで売り捌く用に作るような適当な精度の機械時計ではなく、空気中のマナを動力に動く魔道具だ。
『それでは続いて、新入生挨拶。アーバイン・ブライド・ネルニザント殿下、お願いいたします』
司会のアナウンスで、一人の少年が壇上に上がる。腰あたりの長さをうなじで1つにまとめた美しい黄金色の髪を靡かせ、見る者全てを魅了する微笑みをひどく整った顔に浮かべている。
その苗字が物語る通り、彼は王族だ。現王の三男、第三王子だったはずだ。そして新入生挨拶は、特待生を除いた一般入学生の受ける試験で首席合格をした者が担う役目。例え王族だろうとその原則には従うことになる。
噂として第三王子は優秀だと小耳に挟んだことはあったが、まさか王立学園を首席で通るほどとは。
「あの人、もしかして王子様?」
「そ。第三王子のアーバイン殿下。いくら学園では原則身分不問とはいえ、失礼な態度取るんじゃないわよ?」
「そんなことしないよ? でも、王子様かっこいいね、お話できないかなー」
十中八九、学園で生活していれば向こうから接触があるだろう。何せ、私たち二人は”ネルニザント”の名を冠するミスティカドールに乗っている。私は今この場にいる事情から自明として、サクラもこの学園にいるということは、王家ないしその近辺まで話は通っているはずだ。肝心のサクラはそこまでは気づいていないようだが、別にわざわざ教えるようなものでもないだろう。
「ま、学園生活は長いんだし機会はあるんじゃない?」
「そうかな? そうかも!」
にぱっと擬音が聞こえてきそうないい笑顔だ。未来への希望に満ち溢れている。眩しい。
改めて壇上のアーバインに意識を向け直す。透き通った耳に届きやすい声で、お手本のような内容のスピーチを続けている。そして綺麗に締めくくり、一礼の後に壇上を去っていった。
「なんか、完璧すぎて逆に怖いわね」
「そうなの? すごくかっこよかったと思うけど」
「人間ってのは、大抵何かしら足りないものがあるのよ。それが愛嬌とか言われたりするんだけど、それが感じられなかったのよねぇ……式典だからって言われたらそこまでだけど」
「んー、リファちゃんの考えすぎじゃない?」
「だといいんだけどねぇ」
実際に対面して話をした訳ではないのでこれは単なる偏見だろう。人によっては嫉妬だのと宣うのかもしれない。それに反論できる材料もないので黙する他ないのだが。
「ま、私たちの立場的に平穏な学園生活とは縁遠そうよねぇ」
「え……? なんで?」
「私たち二人とも、”遺構機に乗る特待生”でしょ。しかも私に関しては2年の飛び級だし」
「そういえばリファちゃん年下だったね」
「忘れてそうだなとは思ってたけど……そんな訳だから、確実にやっかみとか変なちょっかいとかかけられるでしょうね」
「えーやだなー」
これから訪れる未来の厄介ごとに思いを馳せ苦い顔をしながら、退屈な入学式が終わるのを待ち続けた。




