第36話
サクラに割り当てられたドックを知らないので、仕方なく私に割り当てられたドックへ連れていけば、噂を聞きつけたのかログルスが既に整備の準備をしてくれていた。
「おかえり。それはまた……派手にやったね」
「ただいま戻りましたー。ついついやっちゃいました、てへ」
「てへ、じゃないよ。遺構機の修理はパーツがなくて大変なんだよ?」
「ごめんなさぁい……」
『ごめんなさい……』
ボロボロになった鉛蒼をドックに置き、各関節部に突き刺さった超電磁弩級の矢を引っこ抜いてからログルスに受け渡す。診断術式の起動を横目に、私とサクラはそれぞれコックピットから降り、近くに設置されたベンチに並んで座る。
「さーてサクラ。改めてちゃんと、襲ってきた理由を聞かせてもらおうか?」
「はぁい……」
しょぼくれて小さくなったサクラがポツポツと語り始める。
「わたし、元々ちっちゃな村に住んでたんだけど、3年くらい前に偶然鉛蒼を見つけて、すぐに領主様に引き取られたの。それまで同じ年代の子も居なくって、友達の作り方とかも知らなかったの。それで、学園に行くってなって、鉛蒼に相談したら、『とりあえず戦ってみろ!』って言われたの。だから戦ってみようとしたんだけど……」
「完っ全に騙されてるわ。鉛蒼は本気で言ってたのかもしれないけど、あまり間に受けない方がよかったわね」
「ごめんね、こんなことになるなんて……」
サクラの話を聞く限りでは、どうも環境があまりよろしくなかったようだ。3年前となれば、サクラは8歳か9歳の頃だろう。今に至るまで周囲に大人しか居らず、頼れそうな人間もそう多くなかったのだとすれば、こういったズレが生じるのも頷けるというもの。とはいえ、これが同系統の力を持つ私と銀紅でなければ惨事になっていた可能性もある。
肉体年齢でいえば私の方が年下だが、前世分も含めた精神年齢で言えば私の方が上のはず。同じ遺構機に乗る者としても、彼女が道を外れないように導くべきか。
「まーとりあえず、これに懲りたら所構わず決闘ふっかけるみたいなのはやめること。同室同士でギスギスもしたくないし。この件はこれでおしまい、仲直り」
「……うん。ありがとう、リファちゃん」
そっと目の前に差し出した手をサクラがとる。仲直りの握手だ。心なしかサクラの瞳がキラキラと輝いているような気がするが、まぁ気のせいだろう。
そうして新たな絆を結んでいると、ドックの方から難しい顔をしたログルスが歩いてくる。
「仲良きことは美しきかな。それはいいのだけれど、ちょっと聞いてもいいかい?」
「ログルス先輩? どうかしました?」
「何か困ったことあった?」
「うん。今まさに、あの機体を修理している最中なのだけれど」
ログルスが振り返り、ドックにかけられた鉛蒼を指さす。損傷した各部の関節あたりに移動式ブリッジが添えられており、今まさに修理中だとわかる。
「あれ、損傷部の近くにパーツを置いておいたら、勝手にパーツ吸い込んで勝手に修復し始めたんだ。普通に怖いよ。あれ、なに?」
「なに、と言われましても……」
「すっごい遺構機、としか……?」
「すっごい遺構機はあんな自動修復するのかい? 最早生物だよ、ホラーだよ……」
ログルスが疲れた表情で項垂れる。どうもログルスにとっては相当堪える光景だったらしい。考えてみればそれもそうだろう。パーツさえ近くに置いておけば自ずと直ってしまうのであれば、それは整備士が不要だという意味に他ならない。
そういえば、銀紅も数百年は放置されていたはずなのに、起動させたらほぼほぼ問題なく動いた。遺構機……というよりは、”ネルニザントシリーズ”には、この自動修復整備機能が搭載されているのだろう。
「多分、私たちの機体がおかしいだけですよ。どうも、私の銀紅とサクラの鉛蒼は同系機らしいですし」
「同系? あれと、あれが?」
ログルスの視線が、銀紅と鉛蒼を行き来する。確かに共通点は、空を飛べることと、フェイスの四眼くらいだろう。翼を背負うシュッとしたシルエットの銀紅と、肥大化した腕と逆関節の脚を持つ異形の鉛蒼。同じネルニザントシリーズとは思えない。
「えっと、鉛蒼は近くで鎧を砕くのに特化して、リファちゃんの機体が遠くから鎧を砕くのに特化している、みたい? 戦ってる最中に鉛蒼が教えてくれたんだ」
「近距離特化と中距離特化か。それなら見た目が異なるのも理解できるね」
サクラの話に得心がいったのか、ログルスがうんうんと頷く。が、すぐに眉を寄せ首をかしげる。
「この2機、同系の機体なんだよね。話を聞く限り、どうも両方とも支援機というか、火力型ではないように聞こえるのだけれど」
「……そういえば。私の銀紅は中距離航空支援特化型らしいです」
「鉛蒼も、火力は高くないって言ってたかも」
「と、いうことは、だ。どこかの遺跡に、同系の火力型が眠っている可能性も否定できないのではないかな」
「……確かに!」
「どこかにいるかも?」
〈残念だけど、その可能性は低いよ〉
突然、視界の端に浮かび上がったシルが、深紅のポニーテールを揺らしながら話に割って入ってくる。だが、その声色はどこか悲しげで、何かを懐かしんでいるようだ。
〈ボクらネルニザントシリーズは、過去の大厄災で大半が失われている。当然、火力型のネルニザントもね。ボクは、次々と壊されいく同胞たちを目の当たりにし、気力を失った政府上層部の手によって、あそこに封印されてたんだ。だから、ちゃんと確認したわけじゃあないけど、残骸はともかく、ちゃんと動く機体はほとんど残っていないと思うよ〉
さらりとシルの口からとんでもない事実が飛び出す。銀紅があの場所に封印されていたのだとしたら、暴走した巨大なミスティカドール、ティタンも同様に封印されていたのだろう。
……いや、そもそもだ。私たちがあの遺跡を調査するに至ったきっかけは何だった? 確か、屋敷の書庫から古い地図が……?
かぶりを振って思考を打ち止める。それ以上は、今考えても詮無いことだ。過去の歴史を調べていればいずれわかるかもしれないし、そもそも他の同系機が全て失われていると確定したわけでもない。ロマンのある話なのだ。下手に水を差す必要もないだろう。
「……いつか、見つかるといいですね」
一言、微笑を添えて飲み込んだ。




