第35話
私がいくら超電磁弩級の引き金を引こうが、どういう理屈か牽制にすらならない。
ならば、射撃は得意な者に任せればいい。そして”銀紅”には、とても都合のいいことに、それがいる。
『わわ、っと。噂じゃ射撃は苦手らしかったけど、急に上手くなった?』
「残念、未だに遠距離はからっきしよ」
頸と両肩の関節を狙って放たれた鉄杭は、鉛蒼の姿が一瞬ブレることですり抜け、虚空へと消えていった。今のは恐らく、フレームパルス推進の応用だろう。短距離転移を繰り返すとき、ほんのわずかな時間だけあらゆる物理干渉を受けなくなるタイミングがある。超絶技巧という他ないが、サクラはそれを狙って回避に使ったのだろう。
〈うーわ、使いこなしてるどころの話じゃないね……気色悪いレベルの先読みだよあれ〉
「ごちゃごちゃ言わない! キリキリ撃つ!」
〈人使いの荒いこって〉
鉛蒼が空中を踏み切り、黒鉄の砲丸となって突撃してくるのに合わせ、スラスターを全開にし飛び上がる。即座に反転して鉛蒼の巨大な掌が迫るが、すんでのところで回避し、私は腕部の主導権をシルへと渡す。
〈ボクはお助けAIとかじゃないんだけど、ねっ!〉
『ふ、んぇっ!?』
シルの操作で素早く引き金が引かれ、3本の鉄杭が鉛蒼の関節部めがけて飛来する。鉛蒼はそれを、僅かに身を開くことで回避するが、それを予見したシルの二の矢が、左肩の接続部に突き刺さり、弾き飛ばす。
『うそ、腕が!』
「やっぱシル、F.C.S.としてあまりにも優秀すぎでしょ」
〈うーん、褒められてるはずなのにあんま嬉しくない〉
火器管制をシルに任せられると気づいたその時はひどく興奮したものだ。何せ私の最大の弱点であった攻撃能力が一気に強化されたのだ。しかもその命中率はほぼ百発百中。防御と回避を司る私と、攻撃を司るシル。王都へ向かう頃には既に地元じゃ負け知らずだった。
その実力は、相性最悪な遺構機相手でも十分通用するようだ。
『むぅ、足を止めたらやられそう』
「鈍足なミスティカドールは私にとっちゃただの的よ!」
〈正確にはボクにとってはだけどね〉
シルのツッコミは華麗にスルーし、姿をブレさせながら地面や空中を自在に駆け回る鉛蒼を追い、ミルヴァススタイルで空を駆ける。
速度は鉛蒼に軍配が上がるが、シルによって放たれる超電磁弩級やアルヴィーレの牽制弾が、自由な行動を阻害する。時折、焦らされたサクラが可愛らしい唸り声を上げながら距離を詰めてくるが、その悉くを紙一重で避け、その度にシルが鉄杭を脆い箇所へ叩き込んでいく。
3分経つか否かというところで、唐突にその攻防は終わりを迎える。
『う、っきゃぅ!』
「うわ、っとぉ?」
何度か繰り返された突撃と回避。幾度か目の攻撃を放った時、突然鉛蒼が体勢を崩し、盛大に土埃をあげて地面に転がる。金属の軋む音を響かせながら立ち上がらんとする鉛蒼は、全身に何本もの鉄杭を生やしており、とても痛々しい見た目になっていた。
『あ、あれ、動かない……? 加速、加速……何で!?』
〈あー、さては、フレームパルスのシステムコアを貫いちゃったか〉
「あぁ、推進システムが壊れて墜落したのね」
地面に転がる鉛蒼は、息絶える寸前の虫のように、僅かに身じろぎするのが精一杯のようだ。誰が見ても、勝敗は明らかだろう。
「さーてサクラ。これはどー見ても私の勝ちよね?」
『むぅ、負けたぁー……』
サクラの敗北宣言と同時に、鉛蒼が沈黙し、弱々しく立ち昇っていた瑠璃色の陽炎が消え失せる。
鉛蒼もこの機体と同じなら、同調を切ったのだろう。
「さぁて、じゃあいくつか聞かせてもらおっか。モチロン、勝者特権として回答拒否はさせないから」
『いいよー……これで本当に仲良くなってる、のかな……?』
「はい? 仲良く?」
『うん。鉛蒼がね、仲良くなるなら殴り合うのが一番って言われたから。リファちゃんと仲良くなれるかなーって思って』
〈あー……うん、そーゆーことか〉
何か知っていそうなシルへ視線を送れば、苦い顔をしながら口をひらく。
〈鉛蒼にも、ボクみたいに意志というか意識というか、そういうのがあるんだけど〉
「銀紅にいるんだしあっちにもいそうだなとは思ったけどやっぱりいるのね……それで?」
〈あー、その鉛蒼はね……端的に言うと戦闘狂なんだよ〉
「……はい?」
〈どうしてそうなったかはわからないけど……戦いが好きで、戦った相手は例え殺めようとも”友”と呼ぶ……大分極まった狂人、だね〉
「つ、つまり……”戦った相手は皆友達”を地でいくやべーのに、純粋なサクラは影響されて……と」
〈そんなところだと思うよ?〉
あまりのオチに、気が抜けて全身から力が抜ける。責任の所在を突き止めて追求したいところだが、そんなことをしたところで何の益もなさそうなところが余計に脱力を誘う。
「あー、サクラ? 普通はね、殴り合ったら仲良くなるどころか仲悪くなるのよ」
『えっ!? そうなの!?』
「今回は、まぁその、私が勝っちゃったし、別にそこまで気にしてないからまだいいけど。他の人にやったら孤立街道一直線だからね」
『そう、なんだ……ごめんね……』
どうもサクラはガチ凹みしているようだ。これ以上責めるのも酷というものだろう。この程度、というには少々やりすぎではあるが、割り切れないほどでもない。
「次はないからね。とりあえず……周囲の視線がそろそろ痛いし、一旦退散しようか」
『はぁい。リファちゃん、動けないから連れてって?』
「こいつぅ」
確かにボコボコにしたのは私なので、仕方なく鉛蒼を抱え、整備ドックへ向かうことにした。




