第34話
ドックを出て、所定の順路を辿って訓練場へと向かう。サクラの機体のドックとは離れており、異なる順路が用意されている。そのため順路上で鉢合わせて気まずくなることもない。
〈それで、そのサクラって子もボクの時代の機体に乗ってるわけなんだ〉
「そそ。なんか話の流れで、訓練場でお互いにお披露目しようってことになったの」
〈2機の遺構機が訓練場で相対する……すっごく目立ちそうだねぇ〉
「……さ、流石に朝早くから訓練はしてないんじゃない?」
〈ど〜だろね〜〉
そういえば、銀紅のレーダー類はかなり優秀だったはずだ。元々中距離航空支援機のため、索敵・照準の性能は当時のハイエンド級らしい。最も、肝心の照準性能を私は全く活かせていないわけだが。
「……ね、わかるんでしょ。訓練場に何機いるか。なんだったら何人いるかもわかるんじゃないの?」
〈もちのロン。訓練場に6機、3本の順路に合計で4機。生身の人間はその倍くらい……かな?〉
「うーわっ思ったよりいる……」
この際目立つのは仕方ないだろう。変に絡まれないことを願うばかりだ。
〈んーこの気配……ふぅん、あいつかぁ〉
「どうしたの? もしかして、サクラの遺構機めっけた? 知ってる機体?」
〈んーナイショー。初見の方が面白いっしょ〉
「ネタバレ否定派か……」
ネタバレを許さないのならば仕方がない。
ひとまず順路をそのまま進んでいけば、外郭を越え、外縁に設けられたミスティカドール用の訓練場に出る。
ここは学園と民間の双方が利用できる公共訓練場になっている。軍用ほど広いわけではないが、それでも数十機程度が悠々と組み手できる程度には広大だ。
順路出口から姿を現すと、操縦訓練をしていた数機のミスティカドールがこちらを振り向く。今の順路は学園生専用のため、私が学生で、かつ特殊な機体に乗っているという情報が全て筒抜けだ。ともあれ、今この場にいる機体はどれも”ジェノクス”か”トレイラス”のいずれかなので、仮に変な絡まれ方をしてもすぐに逃げることはできるだろう。
「さーて、サクラはどーこ……にぃっ!?」
〈うわマジかっ〉
下手に絡まれる前にサクラを探そうとしたその瞬間、俗にいう殺気というものなのだろう冷たい気配を背後に感じ、咄嗟に横へ転がって回避する。その勢いのまま上体を起こし、先ほどまでいた空間へ視線を向ける。
そこには、比較的小型な銀紅どころか、大型の重量機である父の”アイギスクロス”や祖父の”ガイアクリーヴァ”でさえも容易に握り込めそうなほど巨大な拳が浮いていた。
『へぇ、避けるんだ』
「サクラ……?」
拳が引き戻され、持ち主の元へと視線を誘導する。
巨大な拳はゆったりと地面に落ち、他と変わらない体躯とのアンバランスさを醸し、黒曜石を思わせる透明感のある黒い装甲が、朝の光を引き立て煌めかせている。確と地面を踏みしめるその脚は、人型のそれより関節が1つ多い獣の脚だ。そんな関節部とドールコアからは、瑠璃色の陽炎が立ち上り、銀紅と同じ四眼が、妖しく私を見据えている。
『それが、リファちゃんの機体なんだね。赤くてちっちゃくて、リファちゃんみたい』
「お? 喧嘩か? 私ゃまだ成長期が来てないだけだ!」
『ふふっ。喧嘩じゃないよ。思ったことを言っただけ。それにわたしは、リファちゃんと仲良くなりたいし?』
「仲良くだァ? やってること普通に闇討ちと同じだけど!?」
『大丈夫。ちゃんと手加減するからね?』
「…………ほぉーう?」
サクラの言葉に何かが切れる。身体を起こし、腰にマウントした超電磁弩級を手に取り構える。
「サクラ。その驕り、リファリード・ケルビーニと銀紅が木っ端微塵に砕いてあげる」
『その意気だよ。サクラ・ミツキ、”鉛蒼”。いくね』
戦いの火蓋は、私の放った鉄杭によって切って落とされた。
◆◇◆◇◆◇
〈気をつけて、リファリード。あいつは強いよ〉
超電磁弩級の鉄杭をサクラの機体──鉛蒼と言ったか──が叩き落としたのを皮切りに、ミルヴァススタイルで真っ先に空へと飛び上がる。
低速で悠々と上空を旋回する私を、サクラの鉛蒼が見上げる中、真面目な顔をしたシルがつぶやく。
「あの機体のこと知ってんだ」
〈当然。だってあいつは、ボクの兄弟機だから〉
「兄弟機……ってことはまさか!?」
その瞬間、鉛蒼の姿がブレる。幾重にも残像が重なり、螺旋を描いて空中を駆け上がり私に迫ってくる。獣の顎門のように開いた掌が迫り、5門の大爪が煩わしい羽虫を握り潰しにかかる。
「殺意ぃぃぃ!?」
ギリギリのところで急制動をかけ、装甲を掠る寸前で回避する。鉛蒼は外した拳の勢いを殺すことなく、空中で身体を捻り蹴りを加えてくる。
「ぅ、っぐ。おっも……っ!? ぐぇっ!?」
『あらら、堕ちちゃった』
咄嗟にドールスタイルに変形し、強度に関しては他の装甲よりもよっぽど堅い”アルヴィーレ”の砲身で鉛蒼のドロップキックを受け止める。逆関節の特徴である強靭なバネは、地面を踏み抜く以外にも、敵を蹴り飛ばすのにもひどく有効に作用する。空中を漂い堪えるための地盤を持たない銀紅は、この一撃でいとも容易く地面へと叩きつけられる。
「いっちちち……あんなの反則でしょ反則……」
機体を起こしながら見上げると、幽鬼のように脱力して空中に佇み、こちらを睥睨する鉛蒼の姿が映る。空は、私だけの専売特許ではない。
「……ネルニザント」
〈特定戦域対応ミスティカドール・ネルニザントシリーズ。近距離戦特化型の6号機。通称”鉛蒼”。ある意味、銀紅の天敵、だね〉
「天敵? ってどういうこと?」
〈ボクは、近距離戦能力をゴリっとオミットした代わりに、中遠距離の支援に特化したタイプ。翻って鉛蒼は、中遠距離の飛び道具を一切持たない代わりに、相手の懐に入り込み殴り壊すことに特化した機体。つまり、懐に入られたら一巻の終わりなのに、その相手は間合いを詰めるのが超絶得意ってわけ〉
「マジもんの天敵じゃん……何でそんなのがこんなタイミングで出てくるのさ……」
〈運がいないねぇリファリード〉
先の一合で、相性が非常に悪いのは身をもって感じ取った。果たしてここからどう捲ろうか。中るビジョンの見えない超電磁弩級を構え、引き金を引かせた。




