↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/51

第34話



 ドックを出て、所定の順路を辿って訓練場へと向かう。サクラの機体のドックとは離れており、異なる順路が用意されている。そのため順路上で鉢合わせて気まずくなることもない。


〈それで、そのサクラって子もボクの時代の機体(遺構機)に乗ってるわけなんだ〉

「そそ。なんか話の流れで、訓練場でお互いにお披露目しようってことになったの」

〈2機の遺構機(レガシー)が訓練場で相対する……すっごく目立ちそうだねぇ〉

「……さ、流石に朝早くから訓練はしてないんじゃない?」

〈ど〜だろね〜〉


 そういえば、銀紅のレーダー類はかなり優秀だったはずだ。元々中距離航空支援機のため、索敵・照準の性能は当時のハイエンド級らしい。最も、肝心の照準性能を私は全く活かせていないわけだが。


「……ね、わかるんでしょ。訓練場に何機いるか。なんだったら何人(・)いるかもわかるんじゃないの?」

〈もちのロン。訓練場に6機、3本の順路に合計で4機。生身の人間はその倍くらい……かな?〉

「うーわっ思ったよりいる……」


 この際目立つのは仕方ないだろう。変に絡まれないことを願うばかりだ。


〈んーこの気配……ふぅん、あいつ(・・・)かぁ〉

「どうしたの? もしかして、サクラの遺構機(レガシー)めっけた? 知ってる機体?」

〈んーナイショー。初見の方が面白いっしょ〉

「ネタバレ否定派か……」


 ネタバレを許さないのならば仕方がない。

 ひとまず順路をそのまま進んでいけば、外郭を越え、外縁に設けられたミスティカドール用の訓練場に出る。

 ここは学園と民間の双方が利用できる公共訓練場になっている。軍用ほど広いわけではないが、それでも数十機程度が悠々と組み手できる程度には広大だ。

 

 順路出口から姿を現すと、操縦訓練をしていた数機のミスティカドールがこちらを振り向く。今の順路は学園生専用のため、私が学生で、かつ特殊な機体に乗っているという情報が全て筒抜けだ。ともあれ、今この場にいる機体はどれも”ジェノクス”か”トレイラス”のいずれかなので、仮に変な絡まれ方をしてもすぐに逃げることはできるだろう。


「さーて、サクラはどーこ……にぃっ!?」

〈うわマジかっ〉


 下手に絡まれる前にサクラを探そうとしたその瞬間、俗にいう殺気というものなのだろう冷たい気配を背後に感じ、咄嗟に横へ転がって回避する。その勢いのまま上体を起こし、先ほどまでいた空間へ視線を向ける。

 そこには、比較的小型な銀紅どころか、大型の重量機である父の”アイギスクロス”や祖父の”ガイアクリーヴァ”でさえも容易に握り込めそうなほど巨大な拳が浮いていた。


『へぇ、避けるんだ』

「サクラ……?」


 拳が引き戻され、持ち主の元へと視線を誘導する。

 巨大な拳はゆったりと地面に落ち、他と変わらない体躯とのアンバランスさを醸し、黒曜石を思わせる透明感のある黒い装甲が、朝の光を引き立て煌めかせている。確と地面を踏みしめるその脚は、人型のそれより関節が1つ多い獣の脚(逆関節)だ。そんな関節部とドールコアからは、瑠璃色の陽炎が立ち上り、銀紅と同じ四眼(・・・・・・・)が、妖しく私を見据えている。


『それが、リファちゃんの機体なんだね。赤くてちっちゃくて、リファちゃんみたい』

「お? 喧嘩か? 私ゃまだ成長期が来てないだけだ!」

『ふふっ。喧嘩じゃないよ。思ったことを言っただけ。それにわたしは、リファちゃんと仲良くなりたいし?』

「仲良くだァ? やってること普通に闇討ちと同じだけど!?」

『大丈夫。ちゃんと手加減するからね?』

「…………ほぉーう?」


 サクラの言葉に何かが切れる。身体を起こし、腰にマウントした超電磁弩級(レールクロスボウ)を手に取り構える。


「サクラ。その驕り、リファリード・ケルビーニと銀紅が木っ端微塵に砕いてあげる」

『その意気だよ。サクラ・ミツキ、”鉛蒼(えんそう)”。いくね』


 戦いの火蓋は、私の放った鉄杭によって切って落とされた。



 ◆◇◆◇◆◇



〈気をつけて、リファリード。あいつは強いよ〉


 超電磁弩級(レールクロスボウ)の鉄杭をサクラの機体──鉛蒼と言ったか──が叩き落としたのを皮切りに、ミルヴァススタイル(飛行形態)で真っ先に空へと飛び上がる。

 低速で悠々と上空を旋回する私を、サクラの鉛蒼が見上げる中、真面目な顔をしたシルがつぶやく。


「あの機体のこと知ってんだ」

〈当然。だってあいつは、ボクの兄弟機だから〉

「兄弟機……ってことはまさか!?」


 その瞬間、鉛蒼の姿がブレる。幾重にも残像が重なり、螺旋を描いて空中を駆け上がり私に迫ってくる。獣の顎門のように開いた掌が迫り、5門の大爪が煩わしい羽虫を握り潰しにかかる。


「殺意ぃぃぃ!?」


 ギリギリのところで急制動をかけ、装甲を掠る寸前で回避する。鉛蒼は外した拳の勢いを殺すことなく、空中で身体を捻り蹴りを加えてくる。

 

「ぅ、っぐ。おっも……っ!? ぐぇっ!?」

『あらら、堕ちちゃった』


 咄嗟にドールスタイル(人型形態)に変形し、強度に関しては他の装甲よりもよっぽど堅い”アルヴィーレ”の砲身で鉛蒼のドロップキックを受け止める。逆関節の特徴である強靭なバネは、地面を踏み抜く以外にも、敵を蹴り飛ばすのにもひどく有効に作用する。空中を漂い堪えるための地盤を持たない銀紅は、この一撃でいとも容易く地面へと叩きつけられる。


「いっちちち……あんなの反則でしょ反則……」


 機体を起こしながら見上げると、幽鬼のように脱力して空中に佇み(・・)、こちらを睥睨する鉛蒼の姿が映る。空は、私(銀紅)だけの専売特許ではない。


「……ネルニザント」

〈特定戦域対応ミスティカドール・ネルニザントシリーズ。近距離戦特化型の6号機。通称”鉛蒼”。ある意味、銀紅(ボク)の天敵、だね〉

「天敵? ってどういうこと?」

〈ボクは、近距離戦能力をゴリっとオミットした代わりに、中遠距離の支援に特化したタイプ。翻って鉛蒼は、中遠距離の飛び道具を一切持たない代わりに、相手の懐に入り込み殴り壊すことに特化した機体。つまり、懐に入られたら一巻の終わりなのに、その相手は間合いを詰めるのが超絶得意ってわけ〉

「マジもんの天敵じゃん……何でそんなのがこんなタイミングで出てくるのさ……」

〈運がいないねぇリファリード〉


 先の一合で、相性が非常に悪いのは身をもって感じ取った。果たしてここからどう捲ろうか。中るビジョンの見えない超電磁弩級(レールクロスボウ)を構え、引き金を引かせた(・・・・)。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。