第33話
翌日。なかなか開かない瞼をそのままに、シンクへ向かい顔を洗う。
昨日は荷解きを終えた後、サクラと色々な話をした。出身の話だったり、親の話だったり。
どうやらサクラも特待生扱いらしい。元々貴族でもなんでもないただの一般市民だったが、数年前に偶然見つけてしまった遺跡で、偶然見つけてしまった遺構機に乗ってしまい、しかも搭乗者が固定化されてしまったため、領主の貴族に拾われたのだという。私も遺構機に乗ってしまった一人だが、私は元々貴族の娘だったので、余計なやっかみを受けずに済んだという違いがある。彼女は一般人だったから、後ろ盾についてもらうしかなかったのだという。
ただその領主も聞く限りでは人格者のようで、遺構機のパイロットになった後も、以前とそう変わらない生活を送れているらしい。
「……サクラの遺構機って、どんなのなんだろ」
「じゃあ見てみる?」
「どらっひゃぁ!?」
顔を洗いながらボソリと呟くと、いきなり耳元で囁かれる。何故サクラは毎度毎度気配を消して近づいてくるのか。甚だ心臓に悪い。
「リファちゃん、相変わらずいい反応するね」
「とっ、とっ、とししたをいぢめてたのしいか!」
「うん、楽しい」
サクラがいい笑顔で言い切る。全く、被害を受ける側のことも考えてほしい。しばらく動悸がどーきどきし続けてしまうのだ。
「ま、それはそれとして。わたしのミスティカドール、見てみる? ちょうど今日も乗ろうと思ってたところだし」
「いいの? もちろん見る!」
銀紅以外の遺構機といえば、遺跡で暴走したティタンと、それにあっさりと潰された量産型くらいしか見たことがない。現代でも正常に動く遺構機にはとても興味がある。一体どのような機械的神秘を秘めているのだろう。
「それじゃあ、準備ができたら行こっか。早いうちの方がいいでしょう?」
「そうだね、早く行こう!」
ひとまず着替えを済ませるために、一旦自室へ戻る。こんなにも早く未知のミスティカドールに出会えるなんて、なんて幸運なんだろう!
◆◇◆◇◆◇
「つかれた……」
「モテモテだったね、リファちゃん」
「嫌なモテ期だよ……」
整備ドックの前で、私は既に疲弊し切っていた。
朝、部屋を出れば出待ちのように勧誘に来た同級生に囲まれ、なんとか振り切って寮の外に出れば上級生に囲まれ、商店街を歩けば泊まっていた親貴族たちに囲まれかけ、サクラを抱えて術式で跳びながら駅まで向かえば、乗り込んだ車両の中でも居合わせた貴族たちに囲まれ……。
「まぁ、確かに私はフリーの遺構機乗りだけど? しかも飛び級特待生っていう特大の付加価値持ちだけど? それでもあれは……」
「ちょっと酷かったね。あんなにわらわら寄ってくるなんて」
「そもそも私はこれでも伯爵家の娘なんだけどね? いやまぁ、嫁に迎え入れてみたいに目論むのはわかるよ? でもこういうのは本家というか親を通すべきだと思うんだよね?」
「お貴族様って大変だね」
「てか、なんでサクラは全然勧誘されなかったのさ。私以上に狙い所のはずなのに」
「表舞台にほとんど出たことないし、わたしの容姿を知らないんじゃないかな。ほら、わたしも地味な方だし」
「サクラで地味だったら大半の女の子は無個性だよ。ちゃんと可愛いから自信持って」
「そ、そっか……」
サクラも、銀髪に桜色の瞳と、遠目でも目立つ特徴を備えた見目麗しい少女なのだ。決して埋もれるような子ではない。なんだったら見た目だけで言ったら、榛色の髪よりも銀灰の髪の方がより目を惹くはずだ。
「ま、まぁその、わたしの遺構機に乗せてあげるから、元気出して?」
「ほんと!? いいの!? うおっしゃぁ!」
甘い餌を目の前に吊り下げられた私は途端に元気に満ち溢れる。なぜかサクラと目が合わなくなったが、今はそんなことよりも未知のミスティカドールだ。
「見るだけじゃなくてまさか乗せてもらえるなんて……! そうだ、お礼に私の機体にも乗せてあげるよ! 結構すっごいんだよ、知ってるかもだけど」
「いいの? ありがとうリファちゃん」
幸いというべきか、整備ドックには勧誘にくる貴族はほとんどいない。ここであればかなり自由に動くことができるだろう。
「そうだ。どうせだし、それぞれで自分の機体に乗って、併設の訓練場でお披露目しない?」
「おっ、いいね、乗った!」
「ふふっ、わたしの機体、みたらきっと驚くよ」
「ほほーう? 私の機体を見てそのかっこよさに腰抜かしたりしないでよね!」
「それはないから安心して」
「なにおう!?」
軽く言い合いながらも、時間と場所を取り決め、各々の機体が収められたドックへと向かう。一体どんな機体が出てくるのだろうとワクワクしながら銀紅の下へと赴く。まだ朝の早い時間だから誰もいないのかと思えば、何故かそこには一息ついているログルスの姿があった。
「ありゃログルス先輩? おはようございます、早いですね!」
「ん? あぁ、君か。おはよう。君こそ朝早くからどうしたんだい?」
「同室の子に銀紅をお披露目するんです! その子も遺構機に乗ってるから、訓練場でお互いに見せ合おうってなりまして」
「なるほど、そういうことか。そしたら、今日の分の整備は終わっているから、好きに乗っていくといいよ。関節とかの反応性をちょっと改善したから、ついでに感覚に違和感がないかも見ておいて」
なんと、既に整備が終わっているという。一体いつからこのドックにいるのだろうか。それとも単純に作業速度が速いのか。まさか手抜きなんてことはなかろう。そしたら銀紅が黙っていないはずだ。今のところ静かということは、問題がなかったということだろう。
「それじゃ、ありがたく乗らせてもらいますね!」
「うん、気をつけてね」
ログルスに礼を言って銀紅に乗り込む。どうもシルは寝ていたようで、寝ぼけ眼をこすりながら炉心に火を焚べ始めた。




