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第30話

そろそろ学園編が始まります。



「ということで、やってきました王都ネルニザント!!」


 1ヶ月以上前から王都の防衛隊に連絡を入れ、ある程度ちゃんと打ち合わせた上で、私はケルビーニ伯爵領から直接王都へと飛んでいった。

 巡航速度で約1時間。陸路であれば数日はかかる距離をこの短時間で駆け抜けることができるというのは、圧倒的なまでのアドバンテージだろう。情報戦も電撃戦も、何をしようが一定以上の戦果を期待できる。やはりこの機体は規格外だ。

 

 やろうと思えば王都の中まで直接乗り込むこともできたわけだが、そんなことをすれば普通に捕まるので、今はミスティカドール用の検問所へ並ぶ列の末尾にいる。私の前にいる機体は、”トレイラス”や”ジェノクス”などの、広く普及している機体が主だ。おそらく彼ら()、王立学園に入学する新入生かその付き添いなのだろう。学園の整備ドックや学生寮は、基本的に入学式の2週間前から利用できる。ちょうど今日がその利用開始日であるため、こうも人や機体が多いのだろう。

 従者は基本一名まで付き添い可能だが、私は付き添いなどは誰もいない。ちょっと時間を確保できればいつでも実家へ往復できるのだ。身の回りのことも大方一人でできるし、誰かを頼ろうと思えば王都にはライ兄様がいる。問題はないだろうと、父様たちに一人で送り出されたのだ。


〈到着した時は思ってたより厳戒態勢だったよね〉

「ま、もともとそうなるって話は聞いてたしね。防衛上とても大事。私としては、ちょっとくらい手合わせしてみてもよかったけど」

〈流石に相手が可哀想だよ……〉

「でも、色々と改造を施した、言うなれば”銀紅・改”だよ? 1回どこかで試してみたくはない?」

〈わかるけど、その呼び方はダサいからやめて。普通に銀紅って呼んで〉


 そう、銀紅を手に入れてから今に至るまでの約2年、銀紅には近代化改修という名の改造を複数回施していた。

 私が考案した超電磁弩級(レールクロスボウ)の装備に加え、腰部のサイドアーマーにエネルギーブレードを装備させたり、人型形体(ドールスタイル)時に半分デッドウェイトと化していた背部バインダーにちょっとした仕込みをしたり、主に汎用性を底上げする改修を行なっている。


「どーせなら、”スワローテイル”と同じフレームパルス推進も搭載したかったんだけどなぁ」

〈あれはボクとは相性が悪いからね〉

「そうなの?」

〈そ。今の反動推進は、マナで作った炎の勢いで飛ぶ方式。これは所謂”連続的(アナログ)”な推進方法だ。対してフレームパルス推進は、マナの消費が小さな超短距離転移を高速で繰り返すことで、通常では出し得ない速度を擬似的に出す推進方式。要は”断続的(デジタル)”な方式だ〉

「あぁ、同じ場所に照射し続ける必要のあるアルヴィーレとは、”断続的(デジタル)”に転移を繰り返して、座標がずれていくのと相性が悪いんだ」

〈そゆこと。昔の技術者たちも、けっこー頭を捻って考えて、結局古き良き反動推進に落ち着いたらしいよ。下手な方式よりよっぽど信頼性が高いからね〉


 シルと会話していると、こういう小話を聞けてとても楽しい。前文明のことを色々と知っている上に、シル自身が話好きなようで、ポロポロと裏話のようなものを話してくれる。ただ、前文明で何が起こったのか、どうして銀紅は意思を持っているのかなど、1番聞きたいところはなかなか教えてもらえない。いつも”その時が来たら”とはぐらかされてしまう。


 しばらくすると自分の番がやってくる。特に何か問題があるわけでもないので、必要な手続きをして城壁の向こう側へと渡る。すると門の先には、ミスティカドール用の道が整備されており、己が借り受けたドックへと向かうことができる。目的地である王立学園の生徒専用ドックは、生徒数と機体数の兼ね合いから、「外郭」の中でも外側のあたりに存在する。キャパシティは最大1千機とまで言われる巨大な整備ドックだ。


 門を超えたミスティカドールの大半が、学園ドックへと向かっているため、その列に混ざり、進んで行く。飛んで行ってもいいのだが、やれば確実に怒られるので大人しく歩く。事故防止のため、順路には5mほどの壁が左右に建てられており、ところどころに、生身の人間や馬車が行き交うための信号機が設置されている。無視すればそこそこ痛い科料が課せられるので、基本的に皆守っている。


 周囲をキョロキョロと見回し、めぼしい店がないかと探し、あれが良さそうこれが良さそうとシルと言い合っていると、気づけば目的地まで辿り着いていた。

 あらかじめ決められたドックへ機体を収め、銀紅から降りる。すると周囲には見物人と思しき少年少女たちがわらわらと集まってきていた。


「おー……やっぱ珍しいのかねぇ」

「そりゃあ珍しいよ。なんてったって空飛ぶ遺構機(レガシー)だから」

「ぬおっ、誰!?」

 

 コックピットに伸びるハンガーブリッジから下の見物人を見下ろしていると、突然脇から声をかけられる。振り向いた先には、つなぎに身を包んだ、少々背の高い少年が立っていた。短く切りそろえたブロンドの髪には所々機械油がついており、奇妙な斑模様になっている。少し垂れ目な檸檬色の瞳が優しげに微笑んでいる。


「僕は整備科2年のログルス。君が今駐機した663番ドックの担当だよ。よろしくね」

「つまり、今後の銀紅の整備担当……えーと、リファリード・ケルビーニです。よろしくお願いします!」


 差し出された手を取って握手を交わす。年齢も性別も違うせいか、私の手がすっぽりと包み込まれてしまった。なんとなく悔しい感じがしたので、少しもぞもぞと位置を調整する。そんな様子がおかしかったのか、ログルスは小さく笑いながら、離した手をそのままポンと私の頭に乗せてきた。子供扱いされているが、彼から見たらどう見ても私は子供なので仕方ないのだろう。それに、頭を撫でられるのはそう悪い気もしない。


「うぬぬぬ……いつかもっとでっかくなって撫で返してやる……」

「ふふっ、面白いね君は。さて、それじゃあ寮へ案内しよう。これも僕ら先輩の役目だ」

「あ、お願いします!」


 歩き出したログルスの後を追い歩き出す。学生寮は基本二人部屋だ。既に同室の子は来ているのだろうか。来ているのだとしたらどんな子なのだろう。

 期待に胸を膨らませながら、銀紅を背に整備ドックを後にした。


 

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