第29話(Side:王都の警備兵/???)
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王都ネルニザント。ネルニザント王国の中心部であり、最も大きな街だ。街の中央には巨大な王城が聳えており、王都中の何処からでもその威容をその目に収めることができる。
街を取り囲む城壁も、大中小と3層に渡って築かれており、そのどれもが巨大で、ミスティカドールでも容易には破壊し乗り越えることはできない。これらは王都が発展し、広くなっていくたびに築かれた、歴史そのものだ。
当然、各城壁には監視防衛用のミスティカドールが配備されており、年中休みなく、外敵から王都を護っている。その日も、最も外側で最も新しい城壁、通称「外郭」の上で、怪しい者や魔獣がやってこないか監視しているミスティカドールがいた。
監視するだけなら、わざわざ調弦せずともコックピットに映る映像で事足りる。しかもコックピット内部は監視されてる訳でもなく、異常があれば警報が教えてくれるため、この仕事に就く者は、各々何かしらの娯楽品を持ち込むことが多い。当然職務規定違反ではあるが、普段はひどく暇なため、黙認されているのも事実だ。
最近この職場に配属された彼も、先例に倣い本を持ち込んでいた。最近流行りの歴史小説だ。前文明で居たらしい権力者が、二人の従者と共に身分を隠して諸国を漫遊し、行先で出会う不正を暴き断罪する、この爽快さが面白い。どこかの少女が聞けば『ご隠居かよ!?』とでも言いそうな内容だ。
いつものようにペラ、ペラとページをめくっていると、ピピピッピピピッと小さく警報が鳴り始める。すわ敵襲かと慌てて本を放り投げ、バイザーを被り調弦を開始する。
警報は、遠方の空に浮かぶ豆粒のような影を捉えていた。
この世界では基本的に、空を飛ぶナニカは強大な魔獣しかいない。かつての前文明では空を飛んで人や物を輸送するインフラがあったようだが、今の時代にとってはファンタジー以外の何物でもない。
そういえば、朝礼で何か伝達事項があったような気がしたが……今はあの飛翔体が優先だ。
「て、敵の魔獣を発見!」
『駄目だ! 攻撃するんじゃないぞ! まずは姿を完全に捉えてからだ』
手短に防衛部隊の隊長へ通信を投げると、警戒待機の命令が降る。いつでも攻撃に移れるよう、最近配備され始めた超電磁弩級なる武器を手に取る。空を飛ぶほどの魔獣の装甲を破れるほどの威力は持たないだろうが、少なくとも牽制にはなるだろう。周囲の機体はそれぞれ、超電磁弩級や長杖を構えている。
そうしているうちにも、影はみるみる大きくなり、その姿を顕にしていく。
『いくらなんでも、速すぎないか……!?』
隣の僚機から悲鳴のような台詞が飛び出す。明らかに、近づいてくる速度が速すぎる。まさか、人智を越えた化け物なのではないかと、こめかみに嫌な汗が伝う。まだ小説の続きを読み終わってないんだが、と現実逃避するも、その視線は影から離すことができない。
1分もしないうちに、影がはっきりと像を結び、その姿を明確にする。青白い閃光を吐き出しながら飛んでくる、深紅の陽炎を纏った怪鳥。薄い翼は一切羽ばたかず、悠然と伸びる3本の尾羽だけがゆらゆらと揺れている。ミスティカドールですら引きちぎれそうな鉤爪はその顎門を開け、近づいたものを即座に空の塵へと還すのだろう。
『……ふぅ。総員、武装解除。通常の配置へ戻れ』
「なっ、隊長!?」
信じられない命令が発される。確かにあの怪鳥は明らかに脅威だ。我々だけでは勝てないかもしれない。だが、接敵する前から諦めてしまえば、それは王都に住まう民たちを見捨てることになるではないか。
「隊長、近づく前から諦めるんすか! 王都のみんなを見捨てるんすか!」
『……お前、さては朝礼で寝てただろう。あとで覚えておけよ?』
「はい? 朝礼……?」
そうだ、そういえば、朝礼で何か……『飛翔する、何かが来る』……おや?
その瞬間、「外郭」の手前まで飛来していた怪鳥が、一瞬でその姿を変える。両腕にトンファーを装備し、今自分が持っているものと同じ超電磁弩級を抱え、背負った2枚の大翼と全身のスラスターで制動し、軟着陸を試みる、深紅のミスティカドールに。
「えぇぇぇぇっ!? み、ミスティカドール!?」
『よーし、朝礼を何も聞いてないのが確定したな。終業後、私のところまで来るように』
ふわりと土埃を立てながら深紅のミスティカドールが着地し、「外郭」の検問所へ並ぶ列に加わっていく。空を飛ぶミスティカドール、そんなものが現実に存在したのか。歴史小説では常連の存在だが、そんなものはファンタジーだったはずなのに。
「す、っげぇ……!」
少年と青年の狭間にいる彼は、物語の中から出てきたとしか思えないそのヒロイックな機体に、目を輝かせていた。
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王都の「外郭」の外側には、平民でも使える、ミスティカドール用の常設訓練場もある。特に誰が監視に立っているというわけではないが、「外郭」の防衛部隊からは丸見えのため、滅多なことをする輩は訪れない。
そんな早朝で誰もいない訓練場の中心に、1機のミスティカドールが佇んでいる。
黒銀の装甲に身を包み、全高以上に長く肥大化した両腕をだらりと垂らしている。手の甲は流線型の装甲で覆われており、そこから細く長い爪が5本伸びている。背部からは3対6枚のブレードが伸びており、奇妙な低い音をたてながら細かく振動を続けている。
「……あれが、同胞?」
操縦席に身体を預ける少女が、ぼそりと呟く。機体のカメラは、たった今遠方の空から飛来した、深紅の機体を捉えていた。
「……へぇ、そうなんだ。友達になれるかな」
少女は、他に人がいないコックピットで、誰かと会話するかのように呟き続ける。しかし、長く垂れた前髪の隙間から覗く虹色の瞳は、己にしか見えない何者かを確と捉えている。
「この時期に来たってことは、わたしと同じ、新入生だよね。ふふっ、楽しみだな」
フェイスガードの四眼に仄かな光が宿り、関節が1つ多い脚を、己の棲家へと向ける。異形の逆関節機は、気づけばその場から消え去っていた。




