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第28話



「銀紅には、致命的な弱点が存在するとは思わんかねシルソン君?」

〈どうした急に。シルソン君って誰。ついにリファリードが壊れた?〉

「壊れてないわ!」


 今日は銀紅に乗り込み、私設機動隊の訓練場にやってきている。街からは少し離れているが、“深淵の森”の一部を切り拓いて作られたため、とても広い。


「ごほんっ。まぁ銀紅には、弱点というか、どうしても足りないものがあるの」

〈ふむふむ?〉


 視界の端で浮かぶシルが腕を組み首を傾げる。だがその表情は疑問ではなく、生徒の発表を聞く教師のようなしたり顔だ。


「それは“即攻力”と“物理攻撃力”。アルヴィーレは弾速がかなり遅い上に、5秒から10秒ほど照射し続けないといけない。しかも術式による攻撃だから、対術障壁で割と簡単に防がれる」


 以前実験で、母様の“フラワリング”に対術障壁を張ってもらい、そこにアルヴィーレで攻撃してみたことがある。結果、アルヴィーレの攻撃は完全に防がれてしまった。


「かといって、近接攻撃はアルヴィーレをトンファーのように使うしかなく、威力も普通の拳打とそう変わらない」

〈その上リファリードに近接戦のセンスは皆無だね。初見殺しか、動きの遅い相手にしか当てらんないし〉

「うるさいやい。つまるところ、遠隔で、弾速が速く、私でもある程度扱える武装が必要というわけ」

〈なるほどなるほど。確かにその通りだね。ところで、今ボクが抱えてるコレ(・・)はなんだい?〉


 シルが漸く、機体(自分)が抱えるものを話題に出す。なんだかんだでノリがいいのだ。

 改めて今抱えているものを見てみる。

 全長3mほどの、薄く長い直方体をしている金属の塊だ。拳銃のグリップ状の突起物が付いており、当然のようにトリガーもある。先端には筒のように穴が空いており、その付近に三角形のアンテナが折り畳まれている。上部には、1m程度の短い金属の直方体が並ぶように取り付けられている。


 私はそれのグリップを握ると、500m先にある円形の的に向けて構え、掌のコネクタからマナを流し込む。

 すると、細く甲高い起動音と共に折り畳まれていたアンテナが展開し、頂点から手元へ向けて、細いマナの糸が展開される。


超電磁弩弓(レールクロスボウ)。電磁力で鉄杭を亜音速で飛ばす新武器! 案出しと術式制作は私、設計製造は街の技術者たち。オークションでかき集めた私のへそくりが全部吹っ飛んだわ!」

〈おぉー。なんか凄そう。んで、どうやってボクに載せるの? 飛行形態(ミルヴァススタイル)だと保持するところないけど〉

「ちゃんと考えてあるに決まってるでしょ。ほら、アルヴィーレって変形時、機体下部に平行して並ぶじゃない? その間にコネクタ噛ませて挟めばいいの」

〈それなら小改造で済みそうだね。ちなみに威力の程は?〉

「まぁ見てなさい。新型超電磁弩弓(レールクロスボウ)、“スティンガー”の素晴らしい火力を!」

〈もう名前あるんだ〉


 銀紅の視界と超電磁弩弓の照準器をリンクさせ、的へと向ける。狙うは中心の小さな円だ。動かない的に当てる程度なら、決して外しはしないはず。


「いっけぇぇぇぇ!!」


 全力でトリガーを引くと、銃身に一瞬雷光が閃くと同時に、高速で鉄杭が放たれる。その速度は、肉眼ではそう易々とは捉えられないほどで、一瞬で的まで到達し──


 ──的の脇を通り過ぎて、虚空へと消えてしまった。


「……あ、あれ?」

〈外したねぇ〉

「も、もう1回!」


 狙いは完璧なはずだ。もしかしたら風で少し煽られたのかもしれない。照準を僅かに修正し、また一発、二発。しかしどれも、的に掠りそうなところで脇を抜けていってしまう。


〈ぷっ、あっはははは!! ま、まさか、射撃の適正もないとか……あっはははは!!〉

「笑うなぁ!!」


 意地になって、12発の弾倉全てを使い切る勢いで連射する。が、一発だけ的の端に当たっただけで、他は全て空を切ってあらぬ方向へと消えていった。


「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」

〈ヒーっ、ヒーっ……おなかいたい、ぷっくくく……〉


 歯噛みしながら、背面バインダーにマウントされた予備弾倉を1つ取り出し装填する。再度的を狙おうと構えたその時、背後から1機のミスティカドールが接近してくる。角ばった無骨でシンプルなデザインのそれは、ネルニザント王国で制式採用されている量産型機、”ジェノクス”だ。


『お嬢、何してるんですかい?』

「なんだジャックか。ご覧のとーり新兵器のテストだよ。照準に大分難ありだけど」

〈そこはリファリードの能力の問題じゃないかな〉

 

 パイロットのジャックは私設機動隊の若手だ。結構な頻度で機動隊の訓練や整備ドッグに顔を出すため、ジャックだけでなく他の隊員たちからも、お嬢お嬢と可愛がってもらえてる。それでも銀紅に乗っていくと大体はちょっと距離を取られるが。

 彼らの中でもジャックは私のことをよく気にかけてくれる。周囲がむさいおじさんばかりの中で、まだギリギリ10代の彼からしたら、私の方が話しやすいのだろう。


『へぇ、新兵器。お嬢のことだからまた変な大火力になったりしてません?』

「してないわ! てか見てたでしょう? なんなら使ってみる?」

『お、いいんですか! そいじゃひとつ』


 ジャックの”ジェノクス”に超電磁弩弓を渡し、一歩引いて場所を譲る。ジャックは私が元いた位置に収まり、超電磁弩弓を構える。


『ほー……これを、こうして……そい』


 金属の擦れる甲高い音を響かせ、鉄杭が放たれる。またどこかへ外れていくのかと思ったその瞬間、放たれた鉄杭は的の中央、最も小さい円のど真ん中を捉え、半ばまで貫通した。


「……は?」

『おぉー、こりゃ使いやすくていいや』


 2発、3発。続けてジャックが放つと、全く同じ場所、突き刺さった鉄杭に狙い過たず命中していく。


「継矢、だと……!?」

〈うわぁ……〉

『お嬢、これいいっスね! 俺も欲しいっス!』


 私は機体をくるりと反転させ、大空へ向けて羽ばたき出す。


「じ、ジャックのばかぁ〜〜〜!! うわぁぁぁんっ!!」

『え、えぇ!? なんで!?』

〈だっはははは! 逃げた! 拗ねた!〉


 逃げ出した私の背後で、他の隊員たちが『お嬢を泣かせたな』『我々のアイドルを虐めたか』『幼女を泣かせるとは、万死に値する』と好き勝手言いながらジャック機の周囲を取り囲んでいく。


『ちょ、お嬢助けて! 俺悪くな……ぎゃぁぁぁぁ!!』

「バーカバーカ! おじさまたちに扱かれてろアホジャックーっ!」

〈ヒィーッ、ヒィーッ……いき、できな……〉


 後日、超電磁弩弓は私設機動隊に正式配備され、銀紅にも取り付けられることになった。ジャックには詫びとして、エネルギーバヨネットも一緒に贈っておいた。流石に大人気なかったな、子供だけど。


 

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