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第25話



「それでですね、もうズバーンって! 天と地が真っ二つで!」

「そ、それほどの威力と」

「しかもその後も! 新型のフレームパルス推進で駆け抜ける”スワローテイル”がまーた速くって! 幾重にも重なる残像……機動兵器の到達点って感じでした!」

「ぐ、見たかった……っ」


 貧弱な語彙にあてられ、父様が書斎机に突っ伏す。

 私は今、屋敷の書斎で、ようやく帰ってきた父様に、最近あったことの報告という名の自慢をしている。

 私ほどではないが、父様もなかなかのミスティカドールオタクだ。それを理解してなお、私はあの時の興奮を言葉にせずにはいられなかった。


「解体が終わったあと、兄様と模擬戦もしてみたんですよ」

「ほう。乗機はあの遺構機(レガシー)だよな」

「はい。お祖父様に審判になって貰ってやったんですが……引き分けでした」

「引き分け?」

「どっちの攻撃も全く掠りもしなかったんです」


 ”銀紅”の持つ唯一にして最大の武器、アルヴィーレは、その効果こそ強力なものの、弾速がそこまで速くない。遺跡から発掘された情報を元に再現された最新の推進システム、フレームパルス推進を搭載する”スワローテイル”に中てるには、あまりにも遅すぎた。

 その上、”スワローテイル”は前身となった”ライトブリンガー”の特性を引き継ぎ、近接が主体の機体だ。遠距離で攻撃できる手段はあるものの、それは出力、機動力を犠牲にするものであるからそうそう使えない。”銀紅”は上空からの砲撃を主に想定されている機体のため、常時空中を飛び続けることができる。

 つまり、お互いに機体相性がすこぶる悪く、決着がつかなかったのだ。


「結局、1時間戦い続けて決着がつかず、お祖父様に止められました。兄様からもお祖父様からも、リファは回避センスはあるけど攻撃センスはないなーって言われて。もー参っちゃいますよ」

「そもそもリファはまだ学園にも通っていないだろう。機体相性もあるとはいえ、主席を取ったライルにそこまで粘れる時点で相当だと思うぞ」

「それはそうですけどぉ……」


 事実、機体相性の差がなければあっさり負けていただろう。私はただ、高性能な機体を手に入れただけの未熟者なのだ。


「そうだ、学園で思い出した」

「学園で? 何かありましたっけ」

「リファ。2年先の新年度から王立学園に通ってもらうことになった」

「……はぁ?」

「お上からの直々の指令だ。飛び級で入学してもらう。不確定な戦力はさっさと取り込みたいのだろう。私も抗弁しようとは思ったが……まぁ、リファなら大丈夫だろう」

「……マジですか」


 2年後、つまり私が10になる年だ。王立学園の入学年齢は12だから、2年の飛び級ということになる。


「その関係で、近々適性検査を受けてもらう。異常値を叩き出せ」

「えぇ……いいんですかそれで」

「勿論だ。その上で、ララニア夫人にはリファの教育カリキュラムを早めてもらうことにした」

「……はい?」

「本来あと4年かけるものを、2年で全て詰め込んでもらう」

「……うそぉ」


 どうやら私の人生は、盛大に狂い出したらしい。


 勉強量が倍になるのは嫌だ……!



 ◆◇◆◇◆◇



「──ってことで、カリア助けてぇ」

「私に何を求めているんですか……」


 自室で私は、専属侍女のカリアの胸に顔を埋めていた。

 現実逃避がしたくなった時はこうしてストレス緩和を図っている。

 当のカリアも、呆れた顔をしながらも私の髪を梳いてくれているので、そんなに嫌ではないのかもしれない。


「2年後には離れ離れはやだよぅ……」

「うーん、元からわかってたのがちょっと早まっただけですよね。それに、私も辞めるわけではないですから、帰ってくればいつでも会えますよ」

「そーだけどぉ……」


 元々、王立学園に従者は連れていけない決まりではあった。が、まさかここまで早まるとも思っていなかった。

 いい年していた前世の自分が、何をやっているのかと問うてくるが、今の私は7歳の女児だ。甘えたくなっても仕方がない。


 ……改めて考えてみると、私はまだ7歳だ。もっとわがままを言って甘えてもいいのではないか?


「……ねぇカリア」

「なんですか?」

「私が何か無茶をお願いしたら、どこまで叶えてくれる?」

「え? んー、そうですね……」


 カリアの手が止まり、何もない遠くへ視線を飛ばす。カリアが何か考えている時の癖だ。眉をハの字にして真剣に悩んでいるその顔が、私は結構好きだ。


「あまり、大きな声では言えませんけど……どこか遠くへ、誰も知らないところへ逃げ出したいと仰られれば、そのお手伝いはしますよ」


 予想外の答えに面食らってしまう。

 せいぜい、お菓子を持ち込んで夜更かし程度かと思っていたら、想像以上に重い答えが帰ってきてしまった。


「……一緒についてきてはくれないの?」

「勿論、それがお望みとあらば、どこまでもお供しますよ」


 慈愛に満ちた微笑みを向けられ、直視できずに目を逸らしてしまう。不純な気持ちでなんとなく聞いてしまった自分が恥ずかしい。

 その仕草すらおかしいのか、くすりと笑う吐息と共に、また髪を梳き始める。


 それからは終始無言であったが、どこか満たされたような気分だった。



 

 

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