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第24話



 1週間もすれば、ライ兄様の怪我も良くなり、普段通りの生活に戻っていった。

 視界の端でうろちょろしているシルも、機体色をお気に入りの深紅で塗ってもらったせいか、しきりに自慢してきてとてもうざったい。ガレージから屋敷の中程度は念話の範囲内だそうで、どうにもこいつから逃げられなさそうだ。


 こうして色々と状況が落ち着いてきたので、私たちはティタンの残骸の元までやってきた。

 機体色と陽炎合わせて深紅一色の”銀紅”、濃い紫に緑青の陽炎を纏い、身の丈の倍ほどある大槌を担ぐ”ガイアクリーヴァ”、そして鮮やかな空色に橙色の陽炎を纏う細身の機体、”スワローテイル”が揃っていた。それぞれ、(リファリード)祖父(デュランディライト)(ライルネント)が乗っている。


 『カルメンの奴、この場に来れないことを酷く嘆いてたなぁ!』


「未だに事後処理云々で王都ですからねぇ」


 『父様も、リファに負けず劣らずのミスティカドール好きだからね』


 デュランディライトが呵々と笑い、私とライ兄様が遠くを眺める。脳裏に唇を噛みながら王都の古狸たちを相手取っている姿がよぎり、どこかおかしくなってくる。


〈似た者親子なんだね、リファリード〉


「その血の宿命ってやつだよ」

 

 ニヤニヤと宙を舞うシルが実に鬱陶しい。シルは何かにかけて私にちょっかいを出してくる。まぁ数百年も地下に一人で封印されていたのだ。気持ちはわかるしできる範囲で応じてやりたいところだが、それでも時折塩対応にならざるを得ない。本人はどうもそれでも嬉しいらしいが。


 『こうして孫たちと話すのもいいが、本題に入ろうではないか』


 ”ガイアクリーヴァ”から、一転して真面目な声色の通信が入る。

 そう、わざわざティタンの残骸の下まで来たのには、単なる興味関心以外の歴とした理由があるのだ。


 『新型機”スワローテイル”の動作確認、兼、巨大ミスティカドール”ティタン”の解体作業を行う!』


 未だ堆く鎮座するティタン、こいつの完全解体だ。

 

 事件から1ヶ月以上も経過しているにも関わらず、ほぼ手付かずの状態で残されている。

 これには、諸々の調査解析という理由もあるが、何よりも『既存の解体道具たちが、一切歯が立たない』という、あまりにも切実な事情があったのだ。

 前文明の超強力な兵装である、”銀紅”のアルヴィーレですら、十数秒は照射し続けなければ破壊できない装甲だ。シルが言うには、パワーダウンしても崩壊しないフレーム構造になっているらしい。しかも、マナに対する強い抵抗力を持つ特殊な金属を利用しているため、どうしてもマナが絡む既存の解体道具たちは効きが悪いのだ。


「はいお祖父様! 質問があります!」


 『なんじゃリファリード、言うてみよ!』


「どうしてこの3人だけなんですか!」


〈ボクも入れて4人だよ〉


 余計な茶々が入った。が、今この現場にいるのは、私、ライ兄様、お祖父様の3人だけなのだ。流石にこの3人だけで解体し切るのはかなり時間がかかるのではないだろうか。そもそも、”銀紅”や、前文明の技術を取り入れた”スワローテイル”ならともかく、お祖父様の”ガイアクリーヴァ”は、ただの大槌しか持たないため、解体の戦力として数えるのはいささか厳しそうだ。


 『簡単な話よ。我らのみで十分だからだ!』


「な、なんだってー!?」


 『い、いや、流石に無理があるのでは……?』


 ライ兄様からも困惑の声が上がる。そりゃあそうだ。あれだけの巨体を解体するなんて、一体何時間かかるのやら。


 『そもそも、解体道具が効かない時点で主ら以外は有効打を与えられん。その上、双方の持つ兵装は、対ミスティカドールに於いて致命的なまでに有効だ! 事故の芽は潰しておくに限る!』


〈リファリード、事故起こしそうって思われてら!〉


「だまらっしゃい。事故を起こしたことなんて……」


 脳裏をよぎる幾つかの記憶。


「……ちょっとしかないわ!」


〈いやあるんかい。冗談だったのに〉


 ドン引きするシルに何も言い返せなかった。事故らしい事故を起こしたのは”ナイトイーグル”の1件だけだったはずなのに……他は全て貰い事故のはずなのに……。


 『僕の機体も、どれほどの能力を持っているかわからない……確かに、下手に人数を増やすわけにはいきませんね』


 スワローテイルの両手に取り付けられた、獣のような大爪がくわっと開く。鮮やかな蛍光グリーンのそれらは、前文明の技術から復元された特殊兵装、ラズルネイルだ。一度起動させれば凄まじい切れ味であらゆるものを切り裂き、マナを伸ばして遥か遠くまでその爪を届かせることができる。

 その切れ味は、持ち帰られたティタンの装甲の一部を容易く切断せしめたため、実力は折り紙つきだ。


 『さて、まずはあのデカブツの腰を叩っ切る。ライルネント。これは新型機のデータ収集目的でもある、しくじるでないぞ!』


『はい、お祖父様』


 『その後、2つに分たれたデカブツを、ライルネントとリファリードで、細切れにし粉微塵にしていく! いいな!』


「はーいっ!」


 『わかりました』


 私とお祖父様が後方へと距離をとり、”スワローテイル”が爪を構える。

 ”ライトブリンガー”からそのまま受け継がれた橙色の陽炎を一層強め、左手に並べられた大爪に大量のマナが集約されていく。

 私の左眼には、視界を強く灼く、機体の丈を悠々と超えるほどの巨大な光の爪が映る。


 『ではライルネント、一思いにやれぃ!』


『はぁぁぁぁっ! ”ステラディバイダー”ッ!!』


 振り抜かれた大爪が光となって、空と地を分断する。寸分違わず、ティタンの骸を半分に割り、盛大な地響きを立て泣き別れした胴体が着地する。

 ”スワローテイル”に集っていた大量のマナは細かな光の粒子となって霧散し、各部から溢れ出る陽炎の勢いがすぼまっていく。


 『出力低下、最大70パーセント……やっぱり多用はできなさそうですね』


「ふ、ふぉぉぉっ! 出力を削って繰り出す一撃必殺の大技……! ロボモノでど定番のロマン兵装……!」


〈リファリードが今までに見たことないほどに恍惚としてる……よほど琴線に触れたんだね〉


 『うむ、大方シミュレーション通りであるな。では機体出力がある程度回復し次第、解体作業に入る。いいな!』


 『はい』〈りょーかいです!〉


 

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