第23話
前文明の遺跡探索へ行ってから早1ヶ月。
諸々の後処理で怒涛の時間を過ごしていった。
地下に封じられていた大規模軍事遺跡。そしてその中から出てきた2機の動く遺構機と、大量の朽ちた量産型機。瓦礫の中から発掘された、凄まじい量のミスティカ鉱のインゴット。さらに追加の探索で見つかった、前文明の映像資料と量産型機の設計図面。
ぶっちゃけこれらのうち1つだけでも結構な大発見になるのだが、一気にこうも大量に出てきては、それぞれの処理だけで上層部はてんてこ舞いらしい。
アルグレアス氏以下探索チームにも叙勲の話があったようだが、彼らは爵位には興味がないようでお断りしたそうな。
私と、ちょっとした怪我だけで済んだライ兄様にも似たような話が来た。褒賞として何か欲しいものはないか、と。一応探索チームの隊長をやったりしていたからなのだろう。
ライ兄様が何を希望したのかは知らないが、私は当然、”銀紅”を望んだ。彼女?にはまだ聞きたいことが山ほど残ってるし、何よりも、現状操縦できるのが私しかいないからだ。私も前世ではそれなりにロボット系作品を観たり読んだりしてたので、当然ながら『自分だけの機体』というものにはそこはかとないロマンを感じる。機体の解析・研究には快く応じたので、すぐに所有権を移してもらえた。
そんなこんなで、私は”銀紅”を無事受領したのだが……
〈ねーぇリファリード、早く塗装してよ〜〉
「だーうっさい! あれもやだこれもやだで悉く塗料にダメ出ししてるあんたが悪いんでしょうが!!」
〈だってさ、名は体を現すって言うじゃん? だったら銀と深紅で塗ってもらいたいじゃん?〉
「そもそも、銀色の塗料を造る技術がないし、深紅っぽい塗料持ってきても全部ダメじゃんか! 整備士さんに断ってワガママ娘って思われるの私なんだけど!?」
〈あれはどう考えても深紅じゃなくて真紅じゃん!〉
「どっちでもいいわ!」
やかましい奴による細かい注文のせいで、遅々として整備が進んでいなかった。
ティタン戦で破損した各部の装甲や左腕は、戦場から回収した残骸や、シル─銀紅から、アバターをこう呼べと言われた─から貰った、銀紅自身の設計図をもとに修理されている。設計図を機体に保存しておくなど普通では考えられないのだが、あの封印ドッグに保管される際に、特殊な権限による制限をかけて保存したらしい。そして私がその権限を持っていた、と。何も心当たりがないので少し怖いが、あのまま隻腕になるよりはよっぽどマシだろう。
そんなこんなで、機体自体は前文明の性能を取り戻したが、肝心の塗装が表面の保護塗装までしか行われていないのだ。
「これが最後。これ以上は流石に私も整備士さんにお願いはできないよ。既に結構冷たい視線浴びてるんだから」
銀紅が収められた、屋敷の整備ドッグで、真新しい塗料の入った缶を前につぶやく。視界の端には、ふよふよと浮かび塗料の缶を眺める銀紅のアバター、シルの姿があった。
どうも距離制限こそあるものの、念話の要領で遠隔でも姿を現すことができるらしい。ただし、姿が見えて声が聞こえるのは私だけだ。
〈んー、んんー? おー、おぉー! いいじゃんいいじゃん、これだよこれ!〉
ようやくこのワガママ娘は納得したらしい。ケタケタ笑っているシルに抗議の視線を送りつつ、整備士さんにこの色で塗装してもらえるようにお願いする。呆れと安堵のため息を貰い、とてもいたたまれない。
「それで、ちゃんと希望の色で塗ってやるんだから、色々と話してくれるんだよね?」
そう、私がここまで苦労してシルの希望を叶えたのはこのためだ。前文明の話などなどを聞こうとしたら、このような交換条件を出されてしまった。全く無駄な苦労をした気分だが、これでいくつか疑問が解消するだろう。
〈いいよいいよ。でもその前に〉
シルがふいと後ろへ振り返る。それと同時に足音が聞こえてきたので私も振り向くと、松葉杖をついたライ兄様が立っていた。
あれだけ盛大に吹き飛ばされておいて、受けた怪我が全身の打ち身と、ハッチをこじ開けるときに落下した破片で足の骨にヒビが入っただけという、かなりの軽症で済んでいた。現代のミスティカドールに標準装備されている全周ウォーターバッグによる衝撃吸収によって、致命的な怪我を負わずに済んだのだ。安全装置、万歳。
「やぁ、リファ。誰かと話してたのかな?」
「おはよーございます兄様! 特に話してないので大丈夫です! それより足はいいんですか?」
「うん。あと数日もすれば、杖もギプスも取れるって。治療魔法は高くつくから、これだけで済んでよかったよ」
「いやもうほんと、あの時は肝が冷えましたよ……それで、何かご用ですか?」
「うん、リファにお願いがあってね。杖とギプスが取れたら、新型機のテストをしようと思ってるんだ」
「おぉー、ついに!!」
ライ兄様の乗機、”ライトブリンガー”は、ティタンの手、もとい足によってフレームから何から何までひどい損傷を受けた。当然、修理など望める状態ではなかった。が、遺跡で見つかった情報や、銀紅を解析して得られたデータなどなどを駆使し、新たなミスティカドールが開発されたのだ。
「”スワローテイル”の初陣ですね!」
「リファは僕の機体を壊すつもりなのかい……?」
なぜか怪訝な目を向けられてしまった。そんなつもりはないけれど、前科が前科なので何も言えなかった。




