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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第一章 -日常-
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01-02-01 都のシシャ、弔うは――




「さてと、アルトには星原の組織についてきちんと話してなかったよね」


星原、皇の館の一室、談話室でアルトは出流に星原について話していた。

最初の頃、出流は少し説明したのだが、星原はいろいろと厄介な立ち位置にある組織。いまだ説明をしていない事がたくさんあった。

「うん? なんでも屋で世界中に支部があるって聞いたけど」

朝早いせいか、談話室には他に誰もいない。アルトと出流の会話だけが部屋に響く。

と言っても、談話室は一部の人にしか使われていないため、その人達以外がいることはあまりないのだが。

「そうそう。あと、星原が所属している場所についても」

そのうちの一人である出流は、自室のようにくつろぎソファを一つ占領して使いアルトと話していた。

「星原が所属?」

「うん。アーヴェって呼ばれてて、一応この大陸中で一番大きくて一番小さい組織とか言われたりしてる」

「?」

組織が所属している組織? 大きいけど小さい?

何やら早速こんがらがって来たアルトの様子に、最初に説明しなくてよかったと出流はちょっとほっとする。

「そうアーヴェは――っと?」

出流の言葉を遮り、扉が開いた。

「あ、はりっ!」

勢いよく立ちあがり、駆け寄るアルトに入って来た玻璃は苦笑する。

その後ろにも少年がいるのだが、それにアルトは気づいていなかった。

「おはよう、アルト」

「おはよ! おっとっと、そっちは?」

「なんだ、カリスとは初対面だったか」

玻璃と一緒に入って来ていたカリスは、アルトと玻璃の顔を見比べて何やら笑みを浮かべていた。

それに首をかしげつつ、アルトはぺこりと頭を下げる。

「はじめまして。音川アルトです」

「こりゃご丁寧に。俺はカリス。敬語も敬称はいらんからな」

「うん。あっ、そう言えばいづるははりと会ったこと無かったんだよね」

「まあね。どうも、はじめましてハリ君。うちは日野出流、お姉ちゃんからよく話は聞いてたよ。なかなか進展しないでいじらしいとかなんとか」

内心笑いをこらえつつ冷静を装ってサラリと言う出流に、玻璃は赤面して吹きだす。

「い、泉美っ……あいつっ」

「しんてん? ねぇねぇ、何が進展してないの?」

「い、いや、なんでもな――」

「なるほどなるほど」

よくわかっていないアルトの横で、カリスが笑みを深めながら頷いていた。

「なにがなるほどだ!」

「いや、否定しなくていいんだぜ。お前が居候なんておかしいと思ったんだよ。やっぱり、この子目当てか」

「違う!」

「目当て? ねぇ、はり、なにが? ちょっとわたしにもきちんとわかるようにして欲しいんだけど」

「俺が教えてやろうか?」

「ほんとっ?!」

「な、なんでもないからっ。アルトは知らないでもいいから!」

ほっとくとアルトにあること無いこと言われそうだと、慌ててカリスの口をふさごうとするが、ひらりと逃げてにやにやと笑い、それに玻璃は握りこぶしを固めた。

「これをアイリとかティアラに言ったらどんな事になっかなー」

「や、やめろっ。お願いだからっ。本当にごめんなさい! やめてください!」

「ふむ。呼んだか?」

入って来たのは、案の定というかなんと言うか、丁度話題に上っていた少女のうちの一人、アイリだった。

「なんで……なんでお前はこう言う時に限って間がよすぎるんだよっ!!」

玻璃の目元に、若干光る汗があるのは気のせいである。

アイリは中の人々をぐるりと誰かを探すように見まわすと、玻璃になど目もくれず、出流の元へ歩きだす。

「しかし、よかったな玻璃。私は今忙しいのだ。それと、お前と音川殿、ラピス殿が呼んでいる」

「え? わたし?」

「そうだ、音川殿。あと、出流、面白い事になったぞ」

こそこそと、アイリは出流に耳打ちをする。と、一瞬にして出流の顔色が変わった。

「うそっ。それは……」

「気になるだろう?」

「う、うん。ア、アルト、一緒に行こう、ラピスさんの部屋っ!!」

「えっと、うん。って、どうしたの、いづるっ」

その問いに応えず、出流はどこかうきうきと、もしくはいきいきとアルトの腕を引っ張り走りだした。


「ちょ、待てっ」

残されてしまった玻璃は、後を追って走ろうとしていた。

しかし、その前にアイリが何やら呟く。

「ふむ。それほどあいつの女装が気になるのか」

「……は?」「え、今なんつった?」

玻璃とカリスの問いに、アイリは応えなかった。





「失礼しますっ」

「うわ、ひつれいします! ねぇ、どうしたの? なにがあったの?」

「ちょっと落ち着きなさい、二人とも」

ラピスは、部屋に飛び込んできた出流とアルトに気づくと、作業をしていた書類から顔を上げて笑いかけてきた。それに出流は急ぐように身を乗り出して問う。

「そ、その、本当ですか?」

「えぇ……見ればわかるわ」

二人して、こそこそと隣の部屋の方を見ていた。

それに、アルトはまったくついていけない。

「いや、わからないよ。なにがなんだか……いづるー」

「ごめんごめん。えっと、その……うん! いつかきっと、アルトも解るようになるよ。きっと、たぶん」

「いつかっていつ?」

「さて、話を進めてください、ラピスさん」

「いづるぅっ!」

「はいはい。二人とも、少し落ち着きなさい。まったく。で、千引君は?」

アルトと出流は顔を見合わせる。

先ほどまで一緒にいたが、まだ来ていない。

「そう言えば、はり、おいてきちゃったね」

「まあ、すぐ来るんじゃない?」

「まったく。呼んだのは千引君と音川さんなのに」

「だいじょうぶ大丈夫。すぐ来ますよ。ほら」

そう出流が言っている間に、玻璃となぜかカリスまでやって来た。

「そろったと言うか、余計な人まで来たみたいだけど。じゃあ、本題に入って良いかしら?」

「そう言えば、なんの用でオレらを呼んだんですか」

「ちょっとした、依頼よ」

若干、面白そうに、しかし心配そうに、ラピスは言った。

「ちょっと、通り魔を捕まえてほしいの。それで……」

ちらりと隣の部屋を見た。

そして。

「菫、準備はいい?」

「はーい!」

玻璃とカリスの後ろから、菫が入って来た。

茜と瓜二つの妹である彼女は、何やら笑いをこらえていた。

「おい、マコト、観念しろ。さっさと入れ」

横から顔を出したアイリが、誰かの背を押した。

白いワンピースを着た少女――マコトが押されて入ってくる。

なぜかしている黒の手袋が少々異様だった。

それに、玻璃とカリスが絶句し、ラピスと出流は笑うのをこらえる。

ただ一人、アルトのみは訳が分からず何事かとそわそわするが、誰も教えない。いや、知っているとばかり思い込み、決定的なことを伝え忘れていた。

唯一それに気づきそうな玻璃も、それより気がかりなことに気が向き過ぎて気づかなかった。


ラピスが、衝撃から覚めるとゆっくりと言葉をかみしめながら呟く。


「さすが菫。どこからどう見ても女の子だわ」

「え、女の子じゃないの?」


それにマコトは、くるりと向きを変えて一言呟いた。

「……帰る」


帰ろうとするマコトと、止める女子軍団。

彼等の壮絶な争いがあったのは、見ていた玻璃とカリスのみが知っていた……。





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