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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第一章 -日常-
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01-02-02 都のシシャ、弔うは――



皇の館は星原の本部である。

本部があると言うことは、支部もあると言うこと。


星原は中央大陸に幾つもの支部を運営していた。

扉の間から移動できる所は、たいてい支部の一室や支部が管理している建物などに繋がっている。


「で、君たちが今回のお手伝いさんか。よろしくお願いします」

星原シエラル支部の支部長、夢条天音。

問題の多いシエラル支部をまとめる彼女は、表には出さないがやって来た三人を見て少々、いやかなり不安を感じていた。

「……」

「……」

「音川アルトです。よろしくおねがいします!」

いつも無言のマコトは良いとして、なぜ玻璃が不機嫌そうなのか。

星原の支部兼喫茶店となっているシエラル支部。その喫茶店のカウンター席に座る三人の様子に、天音はコーヒーを淹れながらどうしたのかと考えこんでいた。

「よろしく、アルトさん。玻璃君は以前、会ったことがあるよね?」

「そう言えば……会ったような?」

「誠君は久しぶり、陸夜君は元気?」

マコトは何も言わず頷き肯定する。

「えっと、二人とも、仲が悪いの?」

何とも言えない気まずさに、天音はアルトに聞いた。

「えっと……さあ?」

「仲が悪い訳じゃないんで、気にしないでください」

そう玻璃がアルトの代わりに答えるが、マコトをちらりちらりと気にしている。それをマコトは無視。

「なんだか、心配なんですけど……」

「それで、今回の依頼ってなんなんですか?」

さすがにこのままではいけないとたたずまいを直すと、玻璃は天音に聞いた。

ラピスに三人でシエラル支部に行けと言われて来ただけで、依頼内容は聞いていなかったのだ。

「そういえば、なんでまことくんが女装することになったの?」

先ほどまで女の子だと思っていたアルトは、少し納得していなさそうにマコトを見た。

天音もつられてマコトをみて、口元を押さえる。どうやら笑いを押さえているらしい。

「達の悪い通り魔がいて、それを捕まえてほしいとルチ……あ、いや、国の方から依頼されたんですよ」

「通り魔? それくらいなら、なにも星原に頼まなくても。てか、それでなんでこいつが女装なんですか」

「まあ、それについてはおいといて、なんで星原に依頼が来たのかなんだけど。誰かが騎士団や自衛団の情報を流してるみたいで、犯人にうまく立ち回わられて、なかなか捕まらないらしいの。最初の事件から一か月経つのに、事件の調査に進展が無いし」

「だれかが情報をながしてるってこと?」

「そう言う事。だから、私達星原に白羽の矢が立ったの」

情報提供者が誰であれ、さすがに星原の情報を知ることはできないだろう。そんな考えからだ。

「でも、なんでわざわざ星原に……」

しかし、星原以外にも様々な組織やギルドが世界中に点在する。

わざわざ星原に依頼して来たのはなぜか、玻璃が問うと天音は曖昧な笑みを浮かべる。

「いろいろあるの。で、マコトに女装してもらったのは……襲われた人達が、全員シエラル人の女性だったから」

「しえらるじん?」

「このあたりに元々住んでいた方達のこと。シエラルに住んでいる黒髪に、紫の瞳を持っている人は大体そうね」

「え、じゃあまことくんも?」

思わずマコトを見ると、彼は明後日の方向を見ていた。

しかし、黒髪に紫の瞳。シエラル人の特徴と合致する。

「でも、なんでその……しえらるの人がおそわれるんですか?」

「ん。どうして、か。ただ単に黒髪の人が好きだからとかじゃないの? マコト君、なにか知らない?」

「……シエラル人が黒髪紫眼という固定概念は、一部間違っている。

シエラル人は元々、金髪に同色の瞳を持つ者が多かった。しかし、王家が神と血縁を結んだ時に生まれた子が黒髪に紫の瞳で在り、それ以来シエラル人は黒髪紫眼が主流となったといわれる。

つまり、黒髪紫眼はシエラル人であるということだけではなく、神の恩恵、祝福、もしくはそれに準じる加護を常人よりも受けている者であると考えられている」

普段話さないマコトが、一気に話す。

その様子に呆気に取られる玻璃の横で、アルトが首を傾げた。

「かみさま?」

「まぁ、あんまり深く考えてもしょうがないでしょ。で、ここまでで何か聞きたい事とかある?」

「あ、あります! なんでここにあまねさんしかいないんですか!!」

「今、この支部には他にも何人かいるんだけど、どの子も出払っていてね。いろいろ他の仕事もあるから。だから、皇の方に応援を頼んだわけ。おとりに丁度いいマコト君もいたしね」

「なるほど。でも、わたし、まことくんって女の子だと思ってました」

「あ、わかるわかる。初めて会ったときとか、何も言わないからいらない女の子の服持って来ちゃって陸夜君に怒られたっけ」

マコトはため息をついて席を立つと、馴れた様子で外に出ていく。

扉についていたベルが、からんと音を立てた。

「あ、まことくんっ」

「追わなくても、大丈夫でしょ。シエラルには陸夜君となんども来たことあるし」

席を立ちかけたアルトを引きとめると、天音は苦笑する。

「陸夜?」

「知らない? 誠君のお兄ちゃん」

「ちょっと待って下さい。陸夜さんって、弟いたんですか?」

「ん? あ、そっか、玻璃君は知らなかったっけ」

マコトが出ていった扉を見ながら、天音は頷いた。

「うん。誠君は陸夜君の弟だよ。帰ったら陸夜君に聞いてみて。私はそこまで知ってるわけじゃないから」

込み入った事情がある。それを暗に告げながら話を終わらせると、依頼について詳しく話し始めようとした。


「すみません、天音さん。戻りました!」

からんとまた扉に着いたベルが、今度はなんども鳴った。

快活そうな少女が中に飛び込んできた。

「おかえり、ヒバリ」

「た、ただいま戻りました!」

腰まで伸びるオレンジの髪はぼさぼさで、全力疾走でもしたのか息が上がりきっていた。

ヒバリと呼ばれた彼女は、目を閉じたまま持っていた荷物をカウンターの上に置くと椅子に座り込んでしまう。

「ちょっと、どうしたの?!」

「えっと、はいっ。な、なんでもないんです。って、あぁっ! ご、ごめんなさい! もしかしてお話中でしたか?! ごご、ご、ごめんなさい!」

アルト達が口を開く前に、ヒバリは荷物を持つと店の奥へとまた走って行った。

「領収書はー? ヒバリ? あ、あの子はお手伝いって言うか、腐れ縁でちょっと喫茶店の方のアルバイトをしてる子なの」

「へぇ……めずらしいね、はり」

「そうだな。流留歌にはいなかったな」

「……あの子は、いろいろと訳ありなの」

神や精霊、人あらざる者は気まぐれで、人の生活にいつの間にか入り込んでいる者がいる。

「精霊さんが働いてるんだね」

少女の姿を模した精霊を見送ると、アルトは玻璃と顔を合わせながら言った。

「あんまり、言わないであげてね」

目の前にいる人が人なのか、人あらざるものなのか。本気で彼等が人になりすましたら、それを正確に見分けられる人は少ない。と言っても、ゼロではない。

アルトと玻璃は、ヒバリの消えた扉を静かに見ていた。

「あの子は、探してる人がいるの……」

「探してるひと?」

「家族を」

「え、精霊さんに家族とかいるんですか?!」

精霊がどのように生まれてくるのか、正確には分かっていない。

精霊達が人々にそれを言う事が無いからだ。

精霊の家族。と聞き、身を乗り出したアルトに、天音は苦笑する。

「残念だけど、ふつうの一般人。白蓮の事件で……」

「びゃくれん?」

首をかしげるアルトの横で、玻璃が息を飲む。

「……? はり、なんか知ってるの?」

「聞きおぼえないか? 四年前にいろいろあっただろ?」

「よねんまえ……」

四年前、一つの戦争が終わった。

ただの戦争では無い。大陸中を巻き込んだ、大戦争だ。

多くの国が滅び、蹂躙され、侵略された。

それが――ある一つの事件で無理やり終結させられた。


「あ……」

思い出した。

聞いたことがある。

世界中が敵と味方に分かれて戦う中、中立を貫いた国で起こった悲劇だと。



そんなアルトに、玻璃はさらに説明をする。

「白蓮の大虐殺。もっとも民間人が巻き込まれ、死亡した最悪の事件だ。言い方が悪いが、それのおかげで戦争が終わったとも言われてるがな」

中立の国のある都。そこで行われた祭の夜、突如所属不明の軍に襲われ、都は一夜にして滅んだ。その後には、屍しか残らなかった。

「ヒバリの家族は、その事件に巻き込まれたの……」

「……」

たぶん、ヒバリは気づいている。

もう、『家族』はこの世に居ないことを。

それでも、探している。

それに気づいたアルトは、何も言わない。言えなかった。

「話がずれちゃったわね。じゃあ、依頼のことをもう少し詳しく説明するわ」

それまでの空気を吹き飛ばすように、明るくふるまい天音は話題を元に戻した。








隣の部屋でそんな会話がされているとは知らず、ヒバリは独りで狩って来た物を整理する。

心ここにあらずで、なんども置き場所を間違え、幾度か持っていた物を落しかける。

「……誘われちゃった」

寂しそうに、そう呟いても答えるヒトは居ない。

丁度、持っていた物がつるりと手から滑る。

「セレスティン、か……いぃなぁ」


大切な人達を助ける事も、探す事もできなかったあの時の自分。

でも、今なら何かができるかもしれない。


「空夜君。君が居なくなって、四年もたったんだよ。白蓮の都が燃やされて、みんな殺されちゃって、四年も……」







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