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r0-00-01 Return・project イトコのイトコとの話



タスケテ_

ワタシヲ□ミツケテ_

ダレカ_





遺跡というのは、時に恐ろしいモノを封印している。

呪いの品だとか、国一つが簡単に吹き飛ぶような魔法だとか、知ってはいけない世界の真理だとか。

オレが――レガート=レントが、見つけたのもその一つだった。


『あぁ、ようやく……生きたヒトに、出逢えた』


十七、十八くらいだろうか。目の前の水槽の中で、黒髪の少女が生まれたままの姿でどろっとした無色透明の液体の中を漂っていた。

それは、死体だった。

体に、もはやどうにもできない欠損が幾つもあった。その瞼は、二度と開かれないだろう。


『私を、ようやく、見つけてくれたのですね……』


死体は語らない。なら、この声は?

オレは、声の発生源を見る。


PANDORAbox-systemITOKOHIME


古びたプレートに刻みつけられた文字のその先には、巨大な鉄の塊があった。

駆動音が絶えず鳴り響いている。

遺跡だと言うのに、この場所には現代よりも高度な技術が使われている。これまでの道程を思い出してオレはため息をついた。

移動する床、自動で開く扉、認証がなんだとか言いだすよく解らなかった小さな箱、どうにかこうにかここまで来たが、最後の最後でまさか……死体と謎の声が聞こえて来るとは思わなかった。

かの有名な組織アーヴェ・ルゥ・シェランで一度見たことがある“機械”。希少なそれは、レンデル帝国で繁栄している魔科学の原型になったものだと聞いたことがある。魔力を感じないこの目の前の声のする箱は間違いなく機械だ。


『あの、聞いていますか』


またも、あの声が聞こえて来る。

「ちょっとまってください。今現実逃避してるので……」

ここに来た経緯の一端……手元の小さな箱を見てため息をついた。

その小さな箱には、光る文字が浮かび上がっている。



タスケテ_

ワタシヲ□ミツケテ_

ダレカ_



この文字を見た時、彼は驚きに声を詰まらせた。

そもそもこの小さな箱は、母の遺した品で、用途の分からない金属の箱であった。こうして文字が浮かび上がるまで機械であることすら知らなかった。

文字の指示に従って、この遺跡を見つけて、さらに先に進んでしまうのは仕方なかった。

もしかしたら、と思ったのだ。

もしかしたら、母からの伝言なのではないかと。

レガート=レントの母が姿を消してすでに十年を過ぎている。それでも諦めきれず彼は母を探して情報屋になっていた。

「……聞いてもいいですか」

『はい。あ、いいえ。その質問の後、私の話を聞いて下さるのならば、聞きましょう』

「質問でもなんでも、答える。だから、一つだけ答えてくれ」

なんでもいい。些細な痕跡すら残さず姿を消してしまった母の事を少しでも分かるのならば。

「君は、フィーネ=レントという女性を知っていますか」

『……? いえ。聞いた事のない名前ですね。ここ数百年は生きた人間と会っていませんので……』

「……」

おそらく、あまりにも酷い顔になったのだろう。

『もしや、その方を探してここまで来られたのでしょうか?』

あまりにも落胆する私に彼女はいろいろと話しかけてきた。

『しかし、なぜ私がその方を知っていると思ったのですか・』

「……これは……その人が持っていた物だ」

話しかけて来る彼女に目があるのか、あるとしたらどこに在るのかよく解らないが、とりあえず箱を手のひらに乗せて機械のほうに見えるように付きだした。

『なるほど』

そこの箱には、未だにタスケテの文字が浮かび上がっている。

『なるほど。そう言うことだったのですね……』

なぜ、母がこの箱を持っていたのか解らない。だが、きっとこの文字の指示に従えば分かると思っていたが、そんな事は無かったかと落胆する。

しかし、彼女はなにかを思い出したように、話しだした。

『あの、その端末を所持していると言う事は、アーヴェ・ルゥ・シェランに関わる者、ですよね?』

「えっ?」

過去、思いだしてもアーヴェに関わりを持った事のない母の事を思い出し、驚きに声を上げる。そもそも、母の捜索をアーヴェに頼んだ事もあった。その時、結局見つからず星原の人達から今でも何度か連絡が来るが特に新しい情報は手に入っていない。

『ちがう、のですか? 私はてっきり……その端末は、私の創造者がかつての同志、アーヴェに所属するアルスマグナに餞別に送ったものだったので』

アスルマグナという名前は聞いた事が無い。だが、大きな収穫だ。

アーヴェに所属していたアルスマグナ……おそらくかなり昔の人物だろうが、アーヴェのかつての記録を調べる事ができればどうしてこの箱を母が持っていたのか手がかりくらいは掴めるかもしれない。

「早く、戻らないと……」

『ちょ、ちょっと待って下さい!! お役に立てた様でなによりですが、私の話を聞いてください!』

「あ、そうだった。えっと?」

『とりあえず、このちかくに片手で持てるくらいの箱型の鞄がありませんか?』

「え? あ、はい」

水槽の近くに在る大きな機械の横。なにか黒い紐で機械と繋がった鞄ほどの大きさのやはり箱がある。一応取っ手もあり鞄の形をしているが、どう見ても機械だ。

『その箱に赤い光が灯り次第、その黒い紐を抜いてください』

「?」

何を言い出すのか、どういう事なのか聞こうとしている内に、突然絶えず鳴り響いていた駆動音が途絶えた。そして、鞄に赤い光が灯る。

「あの、抜いていいんですか?」

返事が無い。

なにがなんだかわからないが、とりあえず黒い紐を引っ張ると、簡単に鞄から抜けた。

なにか、変な音がその鞄から鳴り響くと……。

『ありがとうございます。では、脱出しましょうか』

「え」

なぜかあの声が鞄から聞こえてきた。

『さあ、時間がありません。あと五分でここは爆破されます』

「え?」

『緊急避難警報、緊急避難警報、ホームにてコードGが発令されました。これより、当施設は放棄されます。全ての研究内容を破棄します』

彼女の声ではない、感情のない様な声が遺跡の中に鳴り響いた。

言っている事の意味が半分も分からないが、とりあえず、やばいのだけはなんとなく理解した。

『先ほど貴方が通ってきた道では間にあわないので、裏道を使いましょう。水槽の裏を見てください。脱出用の避難口を開けておきましたので、そこから逃げましょう』

「あの、え?」

一体全体どうしてこうなったのか。

彼女に促されるままにオレは走りだした。

『もうしわけありません、このままだとセレスティンに悪用される可能性があったので……とりあえず詳しい話しは脱出した後でしましょう。あぁ、そうでした。自己紹介がまだでしたね』

赤い光が点滅する道を走りぬける。正直、生きた心地がしなかった。彼女の話を半分聞きながら全速力でその場から遠ざかる。

『私は――リターン・プロジェクトの残滓。……パンドラの箱。』

鳴り響く爆発音。崩れていく遺跡。息も絶え絶え、どうにか地上に出て振り返ったオレが見たのは、跡形も無く壊れ落ちた遺跡の残骸だけだった。




かつて、サカキバライトコという殺人者がいたと言う。

彼女は、この世界で大罪を犯した。

例えば、兵器の創造。彼女の創った完全自立型自動戦闘機兵は数える事などできないほどの人間を殺した。

例えば、神の創造。人工神を作りあげ、結果その神を廻り多くの人々が争い死んだ。

例えば、生きた人間の改造。人ならざる者を作りあげ、戦争の道具とした。

彼女は魔科学の創設者にして、科学をこの世界に伝えてしまった人間。

許されない罪人。

彼女が直接手を下した人はいない、しかし、彼女が間接的に殺した人は何千となる。

だからだろう、彼女は殺された。

悲惨な最期だったという。

追い詰められ、貶められ、体の一部を失って、ぼろぼろになって死んだ。

そんな彼女が最期に残したのは……。




『サカキバライトコの最期の作品。彼女の記録をすべて保持し、全ての技術を後世に残す、最悪の機械です。どうぞ、イトコとお呼びください』







これが、レガート=レントとイトコ嬢の出逢いだった。

イトコを探すセレスティンと敵対するのは、また別の話……。




書きたいなぁと思っていたレガート=レントさんとイトコ嬢の出会いの話でした。

とりあえずこの二人、この後いろいろあってジャック・オ・ランタンと出逢ったり、まことくんと会ったりします。

次回こそは黒騎士の過去編を投稿したいなぁ……


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