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S0-00-02 紫の悪魔と灰かぶり

一年以上前に投稿した番外編の続きです。




無機質な機械音が響き、白の部屋にいた二人の少年が動いた。

青みがかった黒髪紫眼の少年――紫の悪魔。

対するのは、緑がかった黒髪灰眼の少年――灰かぶり。

ともに、暗殺ギルド黒騎士のメンバーであった。


合図と共に動きだしたムラサキは、素早く灰かぶりの懐に潜り込む。

灰かぶりは後ろに下がろうとするが、そんなことはさせない。

脚を強打し、さらに腹に一撃加える。

「っ……!!」

上手い具合に態勢を崩した灰かぶりは、最後の一撃で落ちかけるが、喰らいつくようにふんばる。

ようやく後ろに下がると、不思議な形をした片手剣を振るう。

鱗が重なったような剣で、どう見てもムラサキに届かないであろう場所で灰かぶりは振るうが、鱗のような刃が一枚一枚離れて、ばらばらになりそうでならない。

細い糸のようなものでつながり、蛇のようにうねる。

鞭のようだが、鋭い刃が光る。

ムラサキは無言で避ける。

鞘に納めたままの剣を、見当違いの方向へつきだすと、遅れて灰かぶりの剣がそこへ向かい、止める暇なく剣に巻き付いてその動きを止める。

剣が巻き付いたそれを放りなげると、灰かぶりの元へ殴りこむ。

「っ!」

倒れた灰かぶりに、袖に忍ばせてあった短剣を突きだした。





「またムラサキに負けたあっ!!」

戦っている間の剣呑な雰囲気は消え去り、無邪気な声が響く。

床に倒れ伏した灰かぶりが、大の字になって叫んだのだ。

そんな灰かぶりを特に気にせず、ムラサキは放りだした剣を回収している。

「なんで!」

現在、灰かぶりは零勝十九敗。

ムラサキの完全圧勝だ。

ムラサキと灰かぶりが組んで数日。灰かぶりの提案で模擬戦をなんどとなく行っていたのだが、灰かぶりは負け越していた。

灰かぶり的に、一応交流目的で模擬戦をやろうと提案したのだが、勝てないので当初の目的を忘れて繰り返し戦っていた。特にこれと言った会話もなく、交流と言う目的はあまり達成していなかった。

ムラサキは気にせず剣の状態を確認する。

「あら、荒れているわね」

「え? ……?」

外から、緋色の髪の女性――紅破が微笑して入ってくるところだった。

「く、紅破さん。どうしてここにっ?!」

その途端、灰かぶりは勢いよく立ちあがる。

「ちょっと用事があってね」

「そ、そうなんですね!」

灰かぶりと紅破は微妙な関係である。

紅破はムラサキの上司であり、黒騎士の革命派を牛耳る人物である。

対する灰かぶりは、黒騎士保守派である竜胆の下で働いている。

革命派と保守派の中は現在すこぶる悪い。紅破と竜胆の父、以前の黒騎士の頭が行方不明になってからそれは顕著になっていた。

紅破はゆっくりとムラサキの前に行くと、小さな紙片を手に握らせた。

「お願いね」

「……」

こくりとムラサキは頷く。

普段ほとんど反応のない彼が頷くのを、灰かぶりは複雑そうに見ていた。




黒騎士ではいくつか決めごとがある。




「まさっか、紅破様と逢っちゃうなんてね……」

灰かぶりはどこかから持ってきたお茶を飲みながら、何故かムラサキの部屋でくつろいでいた。

それを無視して、ムラサキは机の上に剣を置く。

「あ、そういえばムラサキの剣ってどこのなの」

返事は聞かずに置いた剣をその横からかっさらう灰かぶりは、鞘から引き抜き刃を見つめる。特にこれと言った特徴のない剣だ。大量生産品だと言われても納得してしまう。

「……なんて言うか、意外と質素と言うか。よくその剣で魔法を防いだりしていたね」

眉をひそめて剣を見つめる。

そのままベッドに座ってまた剣を眺める。

灰かぶりはあまり公平ではないからとムラサキと戦う時魔法を使わない。時々使ったとしても簡単に避けられるかこの剣で防がれてしまう。

魔法を受け止めるほどの剣なら、どこぞの名剣かと思っていたのだが、こうして改めて見せてもらうと名剣どころか普通の店で売っている品よりまし程度のものでしかないように見える。

「……壊れても、同じ物がある。から」

「へぇ……」

珍しく彼が口を開いた事に驚きつつも、灰かぶりはなるほどと剣を見た。

少しいいぐらいの剣では、むちゃな使い方をするのですぐ折れてしまうからもったいない。という事もあるかもしれない。

「ボクのはね、竜胆さんと灰かぶりさんっと、ちがう、サリアさんに選んで買ってもらったんだ」

サリアというのは、灰かぶりがコードネームを受け継ぐ以前の灰かぶりだった女性だ。

そのあとも、灰かぶりは聞かれていない事を楽しそうに話し始めた。

「サリアさん、寿退社でねぇ……あ、ボクの剣も見る?」

「……」

無言だが、静かに近づくムラサキに笑いつつ、彼は自分の剣を抜いた。

無表情ではあるが、なんだかんだ気になったりしていたらしい。

「どうぞどうぞ」

まるで、鱗が重なったような剣。中の金属質の糸が鱗のような刃を一つ一つ繋げ、持ち主の意志に呼応して伸び縮みするのだという。

一つ一つ別れた刃は、手入れが行きとどいている。恩人である竜胆とサリアに選んで貰った物であるため、ことさら大切にしているのだ。

「面白いでしょ」

「……」

ムラサキは無言で頷く。

「ボクもこの剣をもらうまで実はムラサキと同じような感じで安い剣使ってたんだ。でも……壊れてもいいような剣が君の戦い方にあってるのかもしれないけど、なかなか壊れないいい剣もあった方がいいんじゃない? ってことで見に行こう?! どうせ今日はもう用事もないしさ!!」

途中から一人盛り上がる灰かぶりから、少しずつムラサキは離れていく。

「そうと決まれば、私服に着替えて! そう言えば、ムラサキの私服って初めてじゃん?! なっ……これは……」

問答無用でかってにクローゼットを開けた灰かぶりは、傍目からもわかるほどに落胆する。

「制服しかないやん!!」

黒騎士で支給されている黒の制服と略装、正装しかない。

「そうだよね。そうですよね。ムラサキ君ですもん。何を期待したんだか……よし、ここで待っていなさい」

ムラサキはなにも言っていない。言って無いのだが、一人話を進めてなにやら自分だけ納得して、灰かぶりは部屋を出て行ってしまった。

嵐のようだった。静かになった部屋の中でムラサキは数分無言で固まっていた。




「よし、行こう」

「……」

ぶかぶかのコートを着させられたムラサキは、テルテル坊主のような格好で灰かぶりに引きずられていた。

「スワーグなんてどうかな。結構近いしね~」

何故こんな事に。

もちろん、灰かぶりが外出しようと言って来たぐらいなら、丁重に気絶させてやったのだが。

「あっ、紅破様からちゃんとお墨付き出たから、逃げちゃダメだぞ!」

「……」

どんな手を使ったのか、紅破からの直筆サイン付きの命令書がコートと共に灰かぶりによって部屋に持ち込まれた。

紅破には、後で抗議をしておこうとムラサキは心に刻む。

どこへ向かうのか、廊下を進むと外に出て、厩まで行く。

「おっちゃん、馬貸してー」

外からの灰かぶりの声に、薄汚れた男が厩から出てくる。

「またぼうずか。別にいいが、こんどこそ許可は取ってんだろうな」

今度こそという事は、許可も無く馬を借りていたのだろう。

「今度はね、なんと紅破様からのお墨付きつき」

「……紅破様ね」

その声に、どこか棘があるのは含む所があるからだ。

たぶん、彼は保守派の人間。

「で、このがきは?」

「ボクの相棒」

「ほう」

保守派と革命派の試みの事を知っているのか知らないのか、ムラサキの事をどこか面白そうに見ている。

「んじゃ、借りるからね」

「あぁ、とっとと借りてけ。お前さんの事だから大丈夫だとは思うけど、丁寧に扱えよー」

灰かぶりに捕まったまま、厩の中に入ると、一斉に視線を感じた。

馬達がこちらを見ているのだ。

すぐに興味を失って、餌を食べ始めるが、いくつかの視線が灰かぶりとムラサキを追いかける。

その中で、灰かぶりは奥へと進んでいく。

「まーちゃん借りてくね」

「おぅ」

外で作業始めた男が返事をする。

「まーちゃん、スワーグいこー」

馬の嘶き。

周りにいる馬達の一周りも二回りも大きい美しい銀色の馬が現れる。

そして、何より特徴的なのは、翼があるという事。そう――天馬だ。

空かける幻獣の一つである。なにかと国外での仕事が多いため、その時の移動手段として時々使う。

ムラサキは何度か遠目で見た事はあったが、こうしてすぐ目の前で見るのは初めてだった。

「じゃ、行こっか」

慣れた様子で鞍をつけて天馬を外に歩かせると、すぐに飛び乗りムラサキを見た。



「はい、到着! そんなこんなでスワーグ王国の王都です!」

「……」

そから数時間後。元気に今にも走りだしそうな勢いで王都の事を話す灰かぶりと、口元を手で押さえてしゃがみこむムラサキがいた。

天馬は灰かぶりがよく利用する宿屋に頼んで預かってもらっている。

「いやー、まさか酔いやすい人だとは思わなかった……」

「……」

「えっと、立てる?」

「……」

意地で無言で立ちあがるムラサキに、灰かぶりは無言で支えながらとりあえずすぐ近くの喫茶店へと足を向けた。

買い物をするまえに、体調を整えないといけなそうだ。

「そういえば、ムラサキは苦いのと甘いのどっちが好き?」

それはそれで、なにも知らない相棒の事を知る機会ができたから悪くない。そんなことを思いながら、灰かぶりは笑った。











なぜ、彼はあそこまで自分を構うのだろうか。


灰かぶりの見立てでとりあえず少しは私服を持ってようよと説得されてかわされた服を見て、ムラサキは考えた。

服の他にも、いろいろと小物や本が部屋に増えている。

酔いが治ってから町を見回った結果だ。

今まで、部屋になかったものだ。

「……」

服を衣装収納室にしまうと、小物も隅に片付ける。

そして、いつもの制服に腕を通した。

机には一枚の紙。

訓練中に紅破から渡された物は、今夜の指令だった。

保守派には知られたくないのだろう、灰かぶりではない者が同行する事になっている。

扉が叩かれる。

「入るわ」

そう言って、女が返事も聞かずに入って来た。

現れたのは、革命派の紅破に従う暗殺者。

そう、今回の同行者、そして、真紅の二つ名を持つ血狂いの暗殺者――川蝉。

翡翠の瞳が印象的な、女だ。

「これ、指令の変更」

ざっと読んでそのままその紙をもらう。

「……了解した」

「じゃあ。今回はよろしくね」

「……」

どこか、歪な笑みを見せる川蝉に、ムラサキは目を逸らして準備を整える。

さっさと終わらそう。

指令の書かれた紙を握りつぶす。


――対象以外、彼と関わった者すべても暗殺せよ



ほとんど虐殺と変わらない指令に、ムラサキはなにも言わなかった。









「あ、はいかぶりのおにーさん」

「お、はいかぶりのおにーさん」

良く似た双子が、ソファの背の後ろで背伸びをして顔を出して、そう言った。

場所は、黒の騎士団本部の中でも保守派の集まる休憩室。

彼等が笑っていると、扉が開かれて灰かぶりが現れる。

「萌葱、浅葱、ただいまー」

浅葱と萌葱は保護されている少女だ。

二人は珍しい地の愛し児と樹の愛し児と呼ばれる体質な為、いろいろあって黒の騎士団にいるのだという。

保護される前の環境が極悪だったためか二人とも年の割に言葉が拙い。

「おかえりー」

灰かぶりに走りよって抱きつこうとした二人は、灰かぶりの顔を見て止まる。

「あれ、二人ともどうしたの?」

「なにか、いいことあった?」

「たのしそう」

「まあ、いろいろとね」

そう言いながら、灰かぶりは二人にお土産のお菓子を渡す。

黒の騎士団の中でも最も幼い二人はなんだかんだでいろいろな人達に可愛がられている。そして、なにかあるとみな二人にお土産を買ってくるのだ。

「あっ、チョコ!」

「ありがとう、灰かぶり!」

「いえいえ」

早速包みを開ける双子をほほえましそうに見つめながら彼はソファに座る。

すると、すぐにその傍に灰かぶりと変わらない年頃の少年が来た。

「あんまりあまやかすなよー」

「わかってるよー」

灰かぶりと大体同じ時期に黒の騎士に入った橙矢(とうや)だ。

「でもさ……こうやって二人を甘やかしてると……妹を甘やかしてる気分になるからさぁ」

「……」

どこか切なげに二人を見る灰かぶりの頭を橙矢はこづついた。

「ちょ、なにするのさ?!」

「それで、世話焼きの灰かぶりは今度は革命派の新人と買い物に行ったとかまじか」

「今、帰ってきたとこ。情報まわるの早くない?」

「まあ、みんなピリピリしてるからな」

そう言うと、休憩室を見る。いつもなら談話したり遊戯をしている人々がいるのだが、最近は少ない。みな、どこかこそこそと話し合っている。

革命派と保守派との軋轢が酷くなっているのだ。

「おまえはなんやかんやうまくやっていけるが、その相棒のほうは大丈夫なのか?」

「もしかして心配してくれてるのー? やっぱり橙矢はやっさしいな」

「お前の事はサリアさんからいろいろ頼まれてるからな」

「まあ、もしもの時はボクがどうにかするよ」

「……そうか。無茶はすんなよ」

「だいじょうぶだいじょうぶ」

真剣そうに話し始めた橙矢を、灰かぶりは苦笑しながらお返しとばかりにこづついた。

「心配しなくても、大丈夫だよ……」





忙しすぎて文を書く暇がありません……正確には、パソコンを開けない……。

過去編、もう少し続きます。

本当はもっと長めの話を予定してたのですが、時間がなく……。

時間が、欲しいです。

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