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09. 片腕の卒業式

 翌々日、私は引っ越し先の埼玉からわざわざ朝早くから電車に乗ってはるばる通ってた小学校までやってきた。卒業式に出るために。

 別に出なくていいと思ってたんだけど、先輩達が出た方が良いって言うから出ることにした。


 埼玉支部は東京からだいぶ遠く、埼玉県の中心街を越えた北の方、本庄という場所にある。そこまでは辛うじて電車が通ってるんだ。

 それ以上北は車じゃないと行くのが難しいけどね。

 移動中に観た車内TVでは、またホワイトシューターがどこかで魔生体を倒したって明るく報道してたね。


 卒業式に着るような服なんて持ってなかったけど、マギ隊の式典用の服をもらってたので、ちょうど良いやと思ってそれを着てきた。

 長袖だから右袖がプラプラしてちょっと鬱陶しい。


 久しぶりに会うクラスメイト達は、全然話しかけてこなかった。

 まぁ、もともと友達は少ない方だったけど、それでも全く誰とも話さないなんてこと、なかったんだけどなぁ。


 皆一度は無くなった右腕を見て微妙な顔をする。

 最初は、せっかくマギ隊に選出されたのに正式配属前に腕を無くすなんて駄目な奴、って思われてるのかと思った。

 私ならそう思うだろうから。


 でもどうやら違うっぽい。

 腕を見て泣かれたときはホントに意味が分からなかった。悲しんでくれてるのかと思ったけど、どうもそれも違うっぽいんだよね。

 どっちかって言うと、怖がられてる?


 別に自分の腕がなくなるワケでもないし、人不足のマギ隊が負傷したって言っても、たかが新人一人の腕一本だ。

 すぐに魔生体被害が一般人まで広がるなんて影響、出るワケないのに。


 極めつけは、前に魔法少女になりたいって騒いでた子だ。

 年一回ある適性検査で私が適性ありって結果になったとき、散々ずるいずるいと騒がれた記憶がある。魔法少女にもなれて学校も休めるなんてって。

 なのに、今日は顔を青くして一切話しかけてこない。あれだけ魔法少女になりたがってたのにさ。


 卒業式の間もだいぶ困ったことになった。

 どうやら皆、私が休んでた間に式の練習をしてたらしい。歩くところや順番、座る位置やタイミング、何を誰が話すかまで。

 見様見真似で合わせてみたけど、こんなのどうやったって悪目立ちしちゃうじゃん。卒業証書も片手で受け取ったら変な顔されるしさ。

 そんなに腕がないのが悪いワケ?


 まぁ、どうでも良いか。

 どうせもう誰とも会わない。

 だって違う中学に行くんだから。


  ◆


 せっかくこっちまで来たんだからってことで、私が育った施設にも寄ってみた。

 施設職員さんに挨拶した後、施設内を少しまわってみる。

 すると、なんだか雰囲気が変わったように思えた。

 何が変わったのかはよく分からない。


 相変わらずここの子達は静かだ。学校やマギ隊寮の子達みたいに騒がしく絡んでこないで、適度な距離感を保ってくれる。

 私の無くなった腕を見ても誰も変な顔なんてしない。


 自分の部屋も少しだけ見てみた。当然、別の子に割り振られてて無くなってる。

 まぁ、そりゃそうか。


 ちょっとだけショックだったのは、共用エリアの本棚の本が入れ替えられてたことだ。私が好きだった、魔法少女が大きな魔生体を倒して皆を守るって話の絵本が無くなってた。

 まぁ、結構ボロボロだったからな。仕方ない。


 自分がいた頃からのちょっとした違いを見つける度に、もうここは自分の居場所じゃなくなったんだなって実感させられてしまうね。

 私が好きだった絵本の代わりに入ってた、魔法少女が治癒魔法で人助けしていくっていう絵本のページをパラパラめくりながら、そんなことを思った。


  ◆


 帰ってきた私は支部横の訓練場で一人剣を振るう。

 出した剣をスムーズに左手で掴む練習と、剣の素振りが毎日の日課だ。


 魔素濃度危険区域(レッドエリア)の訓練場を使うには予約が必要で、いつでも使えるワケじゃないらしい。

 使えたとしても魔素濃度危険区域(レッドエリア)は遠いから、滅多に使うことはないんだろうな。


 学生で構成されてる補助隊は埼玉支部に四隊あって、平日はその四隊のどれかが任務に当たる。私達はそのうちの一つの第三補助隊だ。

 だいたい週に一回任務の日があることになるけど、四隊しかないから月曜日が任務日になると金曜日も任務日になる。

 焔隊長が任務日は週に一回か二回って言ってたのは、こういう意味だったんだね。


 毎年、春休みは学生の新人マギ隊員が生活とかに慣れる期間らしい。

 だいたい春休み前半に正式配属されるように新人研修期間が決められてるって聞いた。


 私の場合は実地訓練で被害が出て研修が途中で終わったから変なタイミングになったけど、普通に新人研修を最後まで受けてて埼玉支部配属になる子は、来週くらい来るらしい。


 新人研修の実地訓練は七グループに分けられて実施されてた。被害が出たのはその内の一グループだけ。

 今度来るのも被害にあってないグループの子達だって。


 それで、全員揃ったら着任式をするらしい。

 卒業式で嫌な思いをしたばっかりだから、あんまりやりたくないなと思ってしまうけどね。


 うーん。

 剣を振ってるだけだと、どうしてもいろんなことを考えてしまう。

 そう言えば、職員さんに魔法に詳しい人を紹介してくれって頼んでおいたけど、どうなったんだろう。

 魔法とイメージについて詳しい人が見つかると良いな。そうすれば私の魔法も新しい使い方が見つかるかもしれない。


 普段使ってる形の剣で素振りをした後、剣の形を色々と変えて振ってみる。

 かなり大きな剣も出せるけど、大き過ぎると振り回せない。上からの振り下ろしは強いけど、一度振り下ろしたらもう一度持ち上げるのに時間がかかるんだよね。


 横向きに振るのは体全身を使ってハンマー投げみたいにまわす必要があるし、地上でならなんとか使えるかもだけど、魔生体に飛び掛かりながら大きな剣を振るったりしたら、剣の重さとか遠心力とかで体が変な方向にすっとんでくんじゃ……。


 やっぱり、大きな剣は使い捨てながら戦った方が良さそうだ。

 振りきった後、そのまま手放していつもの剣を出しなおせば隙がなくなるハズ。

 練習してみよう。


 もう何日かすれば先輩達も春休みだ。

 そうすれば毎日色々教えてもらえるハズ。

 春休みの間に色々やってみないとね。



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