08. 魔法とイメージ、剣と弾
「どうしたの? 早く出しなさいよ」
「うん、うーん? ちょっと待って、キワコ」
「だからどうして呼び捨てなのよ。キワ先輩って呼びなさい」
キワコ先輩って言いにくいんだよね。それにワチャワチャしてて、どうしても先輩って感じがしないんだ。
キワコは「極子」という字だから能力が磁力なんだろうな。親が望んだ力を手に入れたってことだね。少し羨ましい。
それで今は、先日の魔生体駆除に使った魔法をもう一度試そうとしているんだ。
キワコが私の剣を撃ち出したあの魔法。マグネティックレールガンって名前を付けたらしい。
あの熊の魔生体を倒した後も色々大変だった。
魔生体って倒したら終わりじゃなくて、毎回死体を回収するんだって。死体を魔素濃度危険区域の端まで運んだら、防護服を着た自衛隊の人達が回収していった。
魔生体対策の研究に使ったりとか、特殊なタンパク質を回収して色々なことに使うって言ってた。
ちゃんと理解してなくても良いって言われたから詳しくは訊いてないけど。
それが終わってもすぐ帰れるワケじゃない。
体に付いた魔素を除染しないと魔素濃度警告区域に戻れないんだって。
新人研修の実地訓練のときは魔素濃度警告区域でやったから必要なかったんだ。
魔素除染は、魔素濃度危険区域と魔素濃度警告区域の間に建てられた小さい建物の中にある大きな箱に入ってやる。
箱の中でなんか専用の液体のシャワーを浴びるんだけど、勢いが凄くて痛いくらいだった。上からも下からも液体が噴き出るから揉みくちゃにされちゃったよ。
インカムが凹凸のない流線形で防水なのって、戦闘でも壊れないようにって思ってたけど、魔素除染で揉みくちゃにされるからなのかも。
その後水で洗われて、最後に熱風を凄い勢いで受けて乾燥。これを変身衣装のまま受ける。服を着たままのシャワーは思った以上に気持ち悪かった。
それに、髪がボサボサになるって皆も嫌がってたね。
魔素除染が終わって支部に帰ってきたら、今度は報告書作成だ。
新人研修のときに書類の書き方は習ってたから、どう書くかは問題ない、と思う。だけど利き手じゃない手で、長い文章を書くのはやっぱり辛いね。
報告書はただ覚えてることを書くだけじゃなくて、ドローンの映像を確認したり雫先輩が計ってた魔素濃度の値を書いたり、とにかく確認することが多かった。
動画が良く撮れてたってキワコが喜んでたな。
おっと、考えがどんどん横道にそれちゃってってるな。
今は、大きな魔法を使えるように支部横の訓練場じゃなくて魔素濃度危険区域内にある魔法訓練用の場所にわざわざ来てる。
だけど剣が出せないんだよね。
今までこんなことなかったのに、腕だけじゃなく魔法までなくなると、いよいよマギ隊員としてやってけなくなってしまう。
「あー、唯ちゃん。一旦レールガンのことは措いといて、あっちの的を剣で斬ってみようか」
風香先輩がそう提案してくる。
この場にいるのは焔隊長以外の隊メンバーだ。雫先輩もいる。でも雫先輩はあんまり喋らないんだよね。
「と言っても、剣が出せなくて……。あれ?」
剣が出た。
さっきまでどうやっても出せなかったのに。
どうして?
とりあえず魔法が使えなくなったワケじゃないのは良かったんだけど……。
「あー、なるほどね? 魔法ってヤツはさ、イメージが重要なんだよ」
「はい? 知ってますけど」
魔法はイメージだ。しかも表面的な考えじゃなくて、心の奥でどう思ってるかが影響するらしい。えーと、深層心理だっけ?
深層心理でどう思ってるかが人それぞれ違うから、同じ系統の魔法でも使える魔法の効果や威力が人によって違うらしい。
「はい、キワ。レールガンっての、撃ってみて」
「オッケーです! よぉし、マグネティック、レールガンッ!」
――パシュン!
私が出した剣を風香先輩から受け取ったキワコは、先日のように高速で撃ち出した。
訓練場の端に設置していた丸い的が跡形もなく消える。やっぱり凄い威力だ。
「うんうん、唯ちゃんの魔法は剣を出すこと。だから剣だってイメージが発動に重要なんじゃない?」
「はい」
「さっき剣を出せなかったのって、レールガンの弾を出そうってイメージになってたんじゃないの?」
「ああ、なるほどです」
私の魔法は、それが剣だと思ってないと出せないってことか。
思ってた以上に魔法はイメージに左右されるみたいだ。まさか同じモノでも使用用途が違うと思ってるだけで出せなくなるなんて。
陽子やキワコが変な変身呪文を唱えるのも、もしかするとそうしないと変身できないからなのかもしれない。
あとは、呪文を唱えて魔法を使えば威力が上がると本気で信じられれば、本当に呪文で威力が上がったりするのかも。
ダメだ。考えられることを一つ一つ確認していくだけじゃ、時間がいくらあっても足りないよ。
自分の魔法を使いこなすためにも、誰かもっと魔法に詳しい人から習い直した方が良い気がする。
「えー!? じゃぁ、レールガン用に剣を出せないってこと? せっかく高威力魔法を連発できるって思ったのに」
確かに、この魔法が連発できればかなり便利だ。
魔生体の平均的な強さをまだ分かってないけど、だいたいの魔生体ならレールガンの連射であっという間に倒せちゃえる気がする。
「まぁまぁ、キワ。キワの魔法は色んなことができるじゃん」
「うん、いつも助かってるよ」
わ、びっくりした。
雫先輩、ずっと黙ってたのに突然喋られると驚いちゃうよ。
「それに剣がなくてもキワにはその弾があるじゃん」
「弾?」
風香先輩がキワコの後付けポシェットを指差す。変身衣装に合ってない無骨で実用性重視のヤツだ。
何が入ってるんだろうと思ってたけど、レールガン用の弾を入れてるんだろうか。
「キワはね、遠距離攻撃用に撃ち出すための鉄屑を持ち歩いてるんだよ」
「これは最終手段なんですって。重いから十発くらいしか持ち歩けないですし、鉄は貴重だから魔素濃度危険区域で探してもなかなか良いのが見つからないし。数無限の鉄剣があったら弾数気にせず撃ちまくれたのになぁ」
そう言ってキワコは口を尖らせる。
世の中そんなに上手い話はないってことなのかもしれない。
しばらく魔法の練習をしてから支部に戻ることになった。
戻るときは当然、魔素除染だ。
皆、髪をボサボサにして帰還するのだった。




