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10. 巡回任務、小さな違和感

「今日は巡回任務だ。私達の主な任務の一つだから、ちゃんと説明を聞いといてね」


「はい」


 そんな話をされた後、また魔素濃度危険区域(レッドエリア)までやってきた。

 今回は前回よりももっと北に来てて、目の前はもう山だ。


 だいたいの説明は移動中の車の中で聞いている。

 どこの支部でも学生のマギ隊員で構成された補助隊が魔素濃度危険区域(レッドエリア)を巡回し、居住区に近付く魔生体を駆除しているみたい。

 定期的に巡回してるから、魔素濃度危険区域(レッドエリア)は一般の人が思ってるよりも全然安全なんだって。


 それ以上の高魔素濃度エリアは一般部隊が巡回してるらしい。

 焔(ほむら)隊長が前に言っていたとおり、埼玉支部はそれに加えて水源の魔素汚染を防ぐのもやってるとか。


「高濃度の魔素に触れると、耐性のない者は最悪死んでしまう。中途半端に耐性があっても魔生体化してしまったりするんだ」


 焔隊長が山に向かって歩きながら説明してくれる。

 後ろには他の隊員とドローンがついてきていた。キワコはいつものポーチ以外にリュックを背負っている。


「人が魔生体になるんですか?」


「そうだ。過去にそういった例がある。今は医療とか予防が進んで症例はないけどね」


 そうだったのか。

 怪しい雑誌とかに人の魔生体の話が載ってたけど、オカルトだと思ってたよ。


「巡回任務は魔生体がいないか、そして魔生体化しそうな変異初期個体(なりかけ)がいないかを確認すること。魔生体や変異初期個体(なりかけ)を見つけたら、駆除できそうなら駆除。無理ならGPS発信器を撃ち込んで上に報告」


「はい」


「アレを見てみろ」


「はい?」


 焔隊長が指差す方を見ると、タヌキみたいな動物がいる。アライグマかもしれない。詳しくないから種類はよく分からないな。


「変異初期個体(なりかけ)だと思うか?」


「いえ、普通の動物に見えます。……変異初期個体(なりかけ)なんですか?」


「いいや、普通の野生動物だ。変異が始まると大型化して狂暴化する。アレは普通の大きさだし、それにこの距離で変異初期個体(なりかけ)に遭遇した場合、向こうから襲ってくるからな」


「なるほど」


「判断できない場合は~、特徴をスケッチして発見場所とかをメモって上に報告ね。唯ちゃんはスケッチとか難しいと思うからそれはキワがやってくれるよ」


 そう言って風香先輩がキワコが持ってるバインダーを指差した。

 その場で支部とかに連絡しないのは、魔素が通信を妨害するからだろうな。


「ふん」


 キワコは不満そうだ。

 本来記録役は最も下の人間がやるそうなんだけど、私は腕がないから代わりにやってもらってるからね。


「別に良いわよ。スケッチって言ってもドローン映像があるからそんな細かく描いてないしね。魔素濃度危険二種区域(パープルエリア)に入らなきゃ、ドローンなんて滅多に壊れないわ」


「報告を上げればしばらく巡回時の確認対象になる。魔生体化が進行していそうなら駆除だ。魔生体化進行度を確認できる計測器もあるが、持ち運べるほど小型なのは補助隊にまわってこないからな」


「計測器って、雫(しずく)先輩が持ってる奴じゃないんですか?」


 前回熊の魔生体を倒したとき、雫先輩が何かを測っていた。後で報告書を書くときに教えてもらったんだけど、アレは魔素濃度を測ってたらしい。


「ああ、これ? これは魔素濃度を測れても魔生体化進行度は測れないんだよ。変異初期個体(なりかけ)は魔素を集積したりしないからね」


 雫先輩が右手でガスガスと槍を地面に打ち付けながら、左手に持った魔素計測器だという小箱を見せてくれる。

 そう言えば山に入った辺りからたまに槍をガスガスしてるけど、何してるんだろう?


「これね、内側に電波発信器と受信器が付いてるんだよ。それで、発信器から出した電波を受信器がどれだけ正確に受信できたかを計測してるんだ。魔素は通信を妨害するからね。魔素濃度が高い場所だと、それだけ受信器側の電波が劣化するから、それで魔素濃度を測ってるの」


 計測器は金属製みたいだ。

 金属製なら、きっと値段も高いんだろうな。


「なるほど」


「起動時の調整操作(キャリブレーション)さえ覚えれば、後は表示される数値を見るだけだから簡単だよ。でもね、電波で測ってるからキワが磁力魔法を使うと誤動作しちゃうんだよね」


「むぅ」


 キワコの表情が歪む。

 キワコの魔法は思ったよりも制約が多いのかもしれない。

 雫先輩の話では、魔素濃度の計測ログを提出するとき、キワコの影響で異常値になったタイミングにいちいち注釈を入れてるらしい。計測ログの値が変になってる時間を洗い出して、ドローン映像からそのタイミングでキワコが魔法を使ってたかどうかを確認するんだって。

 大変過ぎる。


「水源汚染の方は?」


「水の中に魔生体や変異初期個体(なりかけ)が居なければだいたい大丈夫なんだ。少量の魔素なら浄水処理場で除去されるからね。後は魔素がこびりついた魔生体の組織片とかが水の中にあれば回収」


「測定器の値が局所的に変わったりしなきゃ、基本通り過ぎるだけかな~。値が変なら確認しに行く感じ」


「なるほどです」


「マギ隊は高魔素濃度エリアに設置された機材のメンテナンス任務とかもあるからね~。だから電気工学とか物理化学とかめっちゃやらされるんだよ。唯ちゃんも来月後半から放課後、支部で特別授業あるからね!」


「う、分かりました。頑張ります」


 新人研修のとき、マギ隊は一般の人より高校進学しやすいって聞いたけど、もしかすると受験が優遇されるからじゃなくて、めちゃくちゃ勉強させられるからなのかもしれない。

 マギ隊、思ったより大変だな。魔生体を駆除してるだけかと思ってた。


「唯、今度はあそこを見てみろ」


「はい。……?」


 焔隊長が指差した場所を見ても、特に何もない。ただの山道(やまみち)だ。いったい何を見れば良いんだろう?


「分からんか? 枝が折れてるだろう?」


「え? ああ、はい」


 確かに枝が折れてる。

 よく見るとその少し先の木の枝も折れてるみたいだ。

 変身すると身体能力が上がるけど、どうやら視力も上がってる気がするね。


「魔生体が通った跡かもしれない。ああいった所を見つけたら異常に大きな足跡がないかなどを調べて、それもスケッチと場所や補足事項のメモを残す。キワ」


「はいはい、メモってますよ」


「ん。他には土が抉れてないかとか、とにかく魔生体の痕跡がないか探すんだ」


「魔素濃度危険区域(レッドエリア)全体をですか? 広過ぎます。いくら時間があっても足りないのでは?」


「今日一日で全部まわる訳じゃない。日毎に場所を絞って確認するんだ」


「痕跡を見逃してしまうと?」


「大抵は次の巡回部隊が見つけてくれる。最悪は居住区に被害が出るけどね」


「なるほど……」


 魔生体と戦って一般人を守るより、魔生体が一般人に近付く可能性を先に潰しておくことが重要なんだ。

 だから最初、焔隊長は戦えなくても魔素濃度危険区域(レッドエリア)に入れるだけで有難いって言ってたんだ。


「じゃぁ、雫先輩がたまに槍で地面を突いてるのは?」


「ん、よく気付いたね。地中に変異初期個体(なりかけ)がいないか探ってるのさ。魔生体化してれば振動に反応して、こちらを襲うために地中から出てくるからね」


「そうそう、百年前くらいにモグラが地面の下で魔生体化しててね~。誰にも気付かれずにめっちゃ魔生体化が進行して、めっちゃくちゃ強い魔生体になって出てきたことがあったんだよ~」


「ああ、学校で習いました。魔素濃度警告区域(イエローエリア)どころか魔素濃度安全区域(グリーンエリア)まですごく大きな被害を出したって」


「うんうん、それそれ~」


 色々と観察しながらしばらく進んでいると、ガサガサという音が鳴った。

 野生動物かもしれない。

 魔生体化してないか確認しないとと思ってそっちに目を向けると、人が三人ほど離れていくのが見えた。

 あのフリフリ衣装……、他のマギ隊員?


「あの……」


「気にするな」


 焔隊長は硬い表情でそう短く答えた。

 他の人も向こうを見ようとしない。キワコはあからさまに不機嫌度が増したような気がする。


「え? でも」


「良いか、巡回任務中に他の魔法少女を見ても気にするな。私達の管轄じゃない」


「……? はい」


 もしかすると極秘任務中の別部隊なのかもしれない。

 新人の私が知っちゃいけない情報とかもあるのかもね。


 でも、若干違和感が残った。

 焔隊長が魔法少女って言うの珍しいなって。普段、マギ隊員としか言わないのに。



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