06. 連携、サポート、思いつき
「アレだ」
焔隊長が熊っぽいでかいヤツを指さして立ち止まった。
体の所々から角みたいなのが生えてて、普通の熊じゃないことは一目瞭然。
まわりには二階建から三階建の廃墟がちらほら建ってるゴーストタウン。道路も昔は舗装されてたっぽいけど草がボウボウだ。
南側以外の北と東、西は少し遠くに山が見える。
だいぶ北まで来たなぁ。
「巡回ルートはもっと山奥まで行くんだけど、今日はアレを倒すのが目的だから山までは行かないよ」
「まっすぐここまで走ってきましたよね? どうして魔生体の居場所が分かったんですか?」
「ん、前の巡回で見つけたときにGPS発信機を撃ち込んでおいたからね」
「なるほど」
魔素濃度危険区域でもGPSが使えるんだ。
「巡回任務についてはまた今度教えよう。じゃぁ、唯はその辺の建物の上で待機ね。よく観察して私達の能力と戦い方を把握すること」
「分かりました」
「よし。私と雫が前衛、風香が後衛、キワが中衛でサポートね。じゃぁ皆、行くよ!」
「はい!」
「はい」
「はーい」
焔隊長と雫先輩が駆けだした。
焔隊長がすごく速い。ここまで走ってきたけど、全然本気じゃなかったんだ。
その後を少し離れてキワコ先輩が前、風香先輩が後ろで前の二人についていく。私はそれがよく見える三階建ての建物の屋上にジャンプで上った。
私は待機だけど、念のため剣を出しておくかな。
何があるか分からないもんね。
物陰から一気に焔隊長が魔生体に近付く。
でも攻撃を入れる前に魔生体が気付いて焔隊長を見た。焔隊長は気付かれたのが分かったのか、無理に攻撃を入れようとしないで魔生体の周りを飛び回り始めた。まるで赤い猫が暴れてるみたいだ。
焔隊長の鉤爪からなんか炎の帯が三本伸びてる。アレが隊長の魔法かな。
鉤爪から出た炎が魔生体の動きを牽制してるみたい。
攻撃のときは敵を斬りつけると同時に焼いちゃうんだろうね。
焔隊長が翻弄してる隙に、追いついた雫先輩が魔生体の後ろから槍で刺そうとしてる。でも相手の攻撃でなかなか攻撃を当てられないみたい。
って言うか魔生体の腕が長い!
さっきまであんなに長くなかったよね?
よく見ると腕を振り回すとき、明らかに腕が伸びてる。
魔生体は動物っぽい形をしてても見た目から想像できない動きをするから惑わされるなって習ったけど、こういう意味か。
雫先輩は少し距離をとって遠距離魔法を放った。
アレは……、水の弾?
当たってるけど威力は低いのかな、全然効いてない。それに雫先輩は弾を撃つとき立ち止まる必要があるっぽい。動いては立ち止まって魔法を撃って、また動いてを繰り返してる。
ここからじゃ遠くて細かい動きが分からないな。
もう少し近付くか。
「撃つよー!」
風香先輩の掛け声で焔隊長と雫先輩が離れたところ、いきなり魔生体が血飛沫を散らしてよろついた。
風香先輩の魔法? 能力は風って言ってたから風の刃かな?
目に見えない攻撃って強い。相手からすればいきなり攻撃が当たるんでしょ? 最強では?
よろけた魔生体に焔隊長が猛攻をかける。
でも相手が最後の足掻きみたいに無茶苦茶に暴れ出した。危ない!
そう思ったとき、魔生体の頭全体が突然光った。
すると私が持ってた剣が魔生体に向かって飛んでいく。
「は?」
近くにあった物もいくつか魔生体に飛んでいったみたいだ。
……物を磁石みたいに引き付ける? アレが磁力魔法?
「ちょっとバカ! ――ザザッ――アンタの剣て鉄製な――ザザッ――そういうことは先に言っと――ザザザッ――いよね!」
インカムからノイズ混じりのキワコ先輩の声が響く。
「すみません、私も初めて知りました」
自分が何気なく出してる剣が、そんな珍しい金属だったなんて普通思わないよ。鉄なんて衰退期前のゴミ発掘くらいでしか手に入らないんだから。
「キワ! 後に――ザッ――ろ!」
「はい!」
「風香!」
「あい、二発目~!」
こちらの隙を風香先輩の魔法が埋める。また魔生体の血飛沫が飛んだ。
発動時に風香先輩の手元は光るけど、飛んでく風は光らない。
そうか、風香先輩の魔法は見えないから味方が敵の近くにいたら使えないんだ。
「ちょっとアンタ! 良いこと思いついたわ! 剣をもう一本出してこっちによこしなさい!」
……?
キワコ先輩がこっちに駆け寄ってきてそう要求してくる。
「はい」
言われたとおり新しく出した剣をキワコ先輩に向かって投げた。
「っちょ、危ないわね! まぁ良いわ……。焔先輩! 私の魔法で剣を撃ち出します! 魔生体の動きを少しで良いので止めてください!」
「分かった! 風香!」
「はいよ~!」
焔隊長の掛け声で風香先輩の魔法が放たれる。だけど魔生体も学習したのか長い腕で防御してきた。
「雫! 足を狙え!」
魔生体の腕から血飛沫が飛んだ直後、焔隊長と雫先輩が左右の足をそれぞれ攻撃、魔生体の動きが完全に止まる。
「キワ!」
「よぉぉぉし、行きますよ! マグネティック、レールガぁンッ!!」
――パシュン!
光と共に軽い音が響いて、次の瞬間には魔生体の体に穴が開いていた。
――ズゥゥウン
少しして、まるで思い出したかのように魔生体の体が倒れ込んだ。
……倒した?
「お、おお! 私、すごい!」
キワコ先輩が満面の笑みで喜んでる。
ずっと機嫌悪そうだったけど、機嫌直ったのなら良かった。
「キワ! 油断しない!」
「は、はい!」
雫先輩が警戒しながら何かの機械を魔生体に向け始めた。何かを測ってるっぽい?
しばらく待ってると、皆が警戒を解いたのが分かった。どうやら本当に倒したみたいだね。
「お疲れ様です」
近付くと魔生体がより大きく見える。倒れてるのにお腹が私より高いよ。
こんなのと間近で戦うのか……。やっぱり単純に剣を振ってるだけじゃ役に立ちそうにないね。どうしたものか。
「どうだった?」
「はい。えーと、焔隊長が前衛、雫先輩が補助的な前衛で遠距離魔法で相手の気を引く感じですか? それから風香先輩が遠距離攻撃、キワコ先輩が……、嫌がらせ?」
「嫌がらせって何よ! サポートよ、サポート! それに私は他にも色々できるんだから! 魔法妨害とかね!」
「魔法妨害?」
「キワの得意技だよ。詳しいことは帰ってから聞くと言い。それより唯、だいたいその認識で合ってるよ。それに君の剣も良い使い道ができたみたいだね。キワと良いコンビになれる。確信してるよ」
「はい、ありがとうございます」
確かに。私が前衛で剣を振るわなくても良いんだ。
結果が出れば誰が活躍したかなんてどうでも良い。足を引っ張らずに少しでも結果に貢献できるのなら、キワコ先輩の弾補充要員としてやってくのもアリなのかな。
「キワも、よく思いついたね。さっきの攻撃はマギ隊の中でもなかなか威力が高い方なんじゃないかな。素晴らしいよ」
「ふふん、ありがとうございます!」
うん。私達は同じ部隊なんだ。
サポートに徹するのも良いのかもしれないね。




