02. 想定外、戦力外、規格外
目が覚めたら病院だった。
どうやら六人部屋の入院室らしい。六つのベッド全てに私も含め女子ばかりが寝てる。たぶん私と同じ実地訓練参加者達なんだろうな。なんとなく顔に見覚えがある。
みんな変身は解除されて表情が虚ろだ。
私のベッドは窓際だった。窓の外、遠くに実地訓練場所だった山が見える。外はヘリが飛ぶ音がバラバラと鳴っていた。
左手には点滴がニ本も繋がれてて、右手は……、なくなったまま。肘から先に包帯が巻かれてる。
夢じゃなかったか……。
「えーと、あの」
あの後どうなったのか状況を知りたい。気持ちを切り替えて、年上だろう隣のベッドの子に声を掛ける。
「……? ああ、起きたのね。お互い災難だったわね。アンタは腕、私は両足」
思わず相手の足を見た。掛布団に隠れてるけど、言われてみれば不自然に凹んでいるように見える。もしかして、足がなくなってしまった?
「ふん、別に気を使わなくて良いわ。年下に気なんて使われたくないし」
その子は私から視線を外して自分の足を見つめながら、力なくそう言った。
「変身中の怪我って治りが早いそうよ。それにね、これで特務魔力戦闘部隊から外れられる。戦わなくて済むわ。死ぬよりマシよ」
――辞める?
魔力のある女子は国とか人類のために貢献しなきゃなのに? 戦えなくても後方支援とか色々できることはあるハズじゃ。
「アンタも辞めたきゃ辞められるわよ。だって腕がなくなっちゃったんだもの。誰も文句なんて言う資格ない」
どうして?
そりゃ私だって怖い思いをして戦いたくなんてない。発現する魔法もできれば支援系か、前線に出るにしても遠距離攻撃系だったら良いなとか最初は思ってたし。
いや、いいや。とりあえず今はあの後のことを訊かないと。
「それで、訊きたいことがあるんですけど、あのとき、魔生体が暴れたあとのこと。私はなんか、気を失ってた? みたいで……、結局、実地訓練はどうなっちゃったんですか?」
隣の子は少し目を見開いて、それから表情をちょっと険しくした。切れ長の目だから少し怖い。
「……動けるならロビーに行ってみれば? ロビーのTVでじゃんじゃんやってたわよ、ニュースとかワイドナショーとか。あ、ここで観ないでね。思い出したら皆パニックになっちゃうかもだし」
そう言われた私は礼を言って病室を出ようとした。
「分かってると思うけど、守秘義務だから」
振り返ると目が合う。守秘義務があるから関係者以外には何も話すなってことを言ってるんだろう。
そんなの分かり切ってるし改めて言われなくてもって思ったけど、私は一応ハイと返事して病室を出た。点滴の棒を押しながら。
◆
無断で出歩いて良いのか分からなかったけど、お医者さんも看護師さんもみんな忙しそうで結局何も声を掛けれないまま一階のロビーまで下りてきてしまった。
三十人くらいのマギ隊が半壊したんだ。ニュースでやってるとしたらどれほど暗いニュースなんだろう。そう思ってた。
だけど、ロビーに設置されてるTVから流れる雰囲気は思ったより淡々としてる。まぁ、そんなもんか。魔力隊の殉職ニュースなんて珍しくないもんね。周りの人もほとんどニュースを気にしてない。
「それでですね、どうしてこれ程の被害が出てしまったのでしょうか?」
「それはですねぇ、魔素濃度の問題でしょうな。魔素濃度警告区域ですし、魔素濃度が低いと強い魔法は使えませんから」
あ、日付が翌日になってる。まる一日寝てたのか。
「それは、新隊員への安全考慮が裏目に出たということですか?」
「そうそう、つまりですな……」
画面の中で司会のお姉さんと専門家っぽいオジサンがしゃべってる。その画面端には、魔法少女新人研修で大被害! 負傷者多数!? のテロップが。
……負傷者多数?
どれだけ無事で、何人怪我したのかなんて分からないけど、少なくともニ人は死んでた。ノルデナウ先輩と陽子。
どういうこと?
TVの映像が切り替わった。山を凄い太い光の線が貫いてる。
有名なホワイトシューターの極太レーザー魔法だ。私も動画サイトで観たことある。
やっぱりあの時の光はホワイトシューターだったんだ……。
でも、どうしてあんな大魔法使えたんだろ。あの場所は低魔素濃度エリアだった。魔素が少ないと魔法は弱くなるって。
なのに……。
「流石ホワイトシューター、と言ったところですかな。この魔法はですね……」
話題は被害規模や原因究明からホワイトシューターの凄さに移っていった。でもTVの人達も、低魔素濃度エリアであんな極太レーザーを撃てた理由は分からないみたい。
「やっぴ~♪ パワーの出る美味しさ! これでキミも魔法少女~!」
TVから明るい声が流れる。
CMに入ったタイミングで私はロビーを離れた。
◆
病室に戻った私を待っていたのは精密検査だった。腕が無くなっただけなんだから、別に頭とかまで検査しなくて良いのにね。
起きてそのまま病室を離れたことには少し小言を言われてしまったよ。
その日の夕方、スーツを着た女の人が一人やってきた。マギ隊を纏めてる機関の職員さんだ。負傷したからって、なんかお金がもらえるんだって。
「それでですね、お金はかかるけど、義手を用意できますよ」
「インカムは変身後につけろって習いました。つけてから変身すると服とかと一緒に消えちゃうからって。」
マギ隊は任務中、インカムを付けて補佐してくれるオペレーターや周りの仲間と連絡するんだ。
まぁ、通信できなくなることも多いらしいけど。
「……? ええ、そうですね」
「義手をつけても変身したら消えちゃうんでしょ? ならいらないです。変身後に義手つけなおす時間もないかもですし」
「……でも、日常生活には便利ですよ」
「いい。いらないです」
日常生活で右手がある生活になれちゃうと、絶対戦闘中に戸惑うじゃん。だったらずっと無い方が良い。
職員さんはなんだかずっと悲しそうな顔をしている。
私への同情?
……いや、せっかく教育した新人が何人も戦力外になったんだから、そりゃ悲しいか。
私だってこの様だ。せっかく剣を振るう練習とかもしてたのに。
さて、どうすれば片手で上手く戦えるかな……。




