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13. お宅訪問、唯の理解

「雫(しずく)先輩、ここです」


 そう言って唯ちゃんがオートロックを解除してマンションに入っていく。

 中学生で格安物件で一人暮らしを始めたと聞いたときは心配したけど、思ったよりまともなマンションで安心した。

 唯ちゃんなら寝られるなら何でも良いと言いそうなんだもの。

 学生の一人暮らしは珍しくないとは言え、流石に中学一年からはちょっと珍しい。心配だわ。


「なかなか良いところだね。駅からも近いし」


「はい。でもあんまり人住んでないんですよね、このマンション。安いのに」


 部屋は二階のようで、エレベーターを使わず喋りながら階段を上がる。共用スペースもちゃんと掃除されてるし、これなら変な犯罪に巻き込まれたりといったことは大丈夫じゃないかな。

 女の子だから油断はできないけどね。


「どうぞ。何もないですけど」


「おじゃまします。わ、本当に何もないね。……えーと」


 部屋の真ん中にテーブルと椅子、それからパソコン。そしてテーブルに並べられている服や下着……。

 洗濯物かな? 片腕だと干せないのね……。


「あはは、すぐどけます」


 唯ちゃんはサッとテーブルの上の洗濯物をかき集めてカバンに詰め込んだ。タンスもない。洗濯機はあるようだけど、冷蔵庫すらないみたいね。

 洗濯物以外に生活感が全くない。引っ越ししたばかりと言っても、いくらなんでもこうはならないんじゃないかしら。

 ベッドや布団もないって、いったいどこで寝てるのよ。


「座ってください」


 そう言って器用に片手で水の入ったコップを二つ持ってきてくれた。

 紙コップだ。


 焔先輩の話だと、唯ちゃんが育った施設は少しおかしいらしい。

 支部長から気になることを言われたみたいで、少し調べてみたそうだ。

 焔先輩が行ってみると、そこには女の子しかいなくて全員が唯ちゃんみたいな達観した性格に育ってたらしい。

 想像するとちょっと不気味だね、唯ちゃんには悪いけど。


 この人間味のない部屋も色々と指摘したいんだけど、でも今はキワの話を優先しなきゃね。

 キワが唯ちゃんに反発してるのは、こういう不気味さが原因だと思うんだよ。

 私は頭を振って気持ちを切り替える。



「唯ちゃん、今日はごめんね。それで、ちょっとキワの話をしたいんだ」


「はい」


 唯ちゃんはこちらの目をじっと見つめて短く返事してくれる。

 こんなにもまっすぐ目を見つめられると、やましいことなんてないのに内心を見透かされてるようで少し居心地が悪い。


「キワはね、新人だった頃すごく怖がりだったの」


 今ですら魔生体駆除任務のときは移動中顔が青いけど、最初の頃はそんなもんじゃなかったのだ。初めて魔生体駆除へ向かうときなんて、足がガクガクでまともに歩けなかったものね。


「それでね、キワはある日、どこかの魔法少女の動画ライブ配信でコメントをして、その返答で勇気づけられたんだって。だからキワは魔法少女としてのSNS活動とかにすごく憧れをもってる」


「そうなんですね」


「……新人教育係に任命されたときキワは、怖がるだろうから自分が支えになってあげなきゃって言ってたんだよ。だけど、やってきた新人は全く怖がらない子だった。悪い言い方になっちゃうけど……、腕を失くしても淡々と任務をこなせることが、キワには理解できなかったみたい」


「はぁ」


 やっぱり反応が薄いわね。

 自分の腕が失くなったことを、便利だった道具を紛失した程度にとらえてる気がする。


「キワが怒ったのは、何て言うか、色々と重なっちゃった結果だったと思うのよね。支えになろうと思ってた新人が理解できず戸惑ってて、強い魔生体を自分達だけで倒してネットで目立てそうだったのに横取りされて、最後に夢だった憧れのSNS活動を全否定されたんだ。許してあげてとは言わないけど、理解はしてあげて欲しいな」


「……、なるほど」


 唯ちゃんは初めて視線を外してテーブルを見つめている。

 淡々としてるけど、感情がないわけじゃないのよね。だいぶ分かりづらいけど。


 キワはSNS活動をするために頻繁にコンプラ研修を受けているし、情報漏洩対策とか色々ちゃんと勉強してる。だけど感情コントロール(アンガーマネジメント)に難ありと判断されて許可されていない。


 二人が本当の意味で仲直りするには、唯ちゃんは人の機微とかを理解する必要があるし、キワは大人になる必要がある。

 どっちもなかなかすぐには変われないことだ。


 しかも唯ちゃんは、明らかに施設での教育が関わってる。幼い頃からおかしな教育を受けてたのだとしたら、変わるのは相当難しいんじゃないかな。


  ◆


 キワコを怒らせて雫先輩と話し合った翌日も、私はいつもどおり支部に来た。

 謝りたいけど任務日以外はキワコは学校に行っている。

 こういうのって時間が経てば経つほど拗れそうだから、早めに謝っときたいんだけどな。


 その日の午後、鳥の魔生体との戦闘動画はネットに公開された。

 被害を出さずに上手く駆除できた場合、マギ隊のイメージアップや魔法少女ファンの人達を満足させるためとかが理由で、その戦闘動画が公開されることがあるんだって。

 事前に公開して良いかって訊かれたときは少しびっくりした。


 夜、自宅に帰ってから私はパソコンでその動画を観た。

 自分の戦い方を動画で観れば改善点とか見えるかもだし、それになにより、ネットの反応を見ればキワが何を考えてるのか分かる気がしたんだ。


 公開されたばかりなのに、動画にはもういくつかコメントが付いていた。

 マギ隊の戦闘動画はそんなに頻繁に公開されるもんじゃないからね。公開されたらだいたいすぐに再生数が伸びるっぽい。


 ほとんどはラストのホワイトシューターがすごいってコメントだった。

 ホワイトシューターが一撃で倒せるんだから、その前に戦ってた私達は要らなかったんじゃって意見もある。

 まぁ、確かにそのとおりだったかも。


 でも、あの速さで飛んでた鳥だ。あそこで足止めできてなかったら市街地まで行かれた可能性だってある。

 そうなったら魔生体警報が鳴って一般人はみんな避難しなきゃだし、ホワイトシューターだって市街地であの極太魔法(レーザー)を撃てなかったかもしれない。

 私達がやったことは無駄じゃなかったハズ。


 キワコは、自分がやった貢献が無駄だったって言われたくなかったのかな。

 だから横取りされて不満だったのかもしれない。


 今回は誰も死ななかったけど、もし死んでた場合、足止めして討伐に貢献した意味ある死だったか、ただの犬死だったか変わってくる。

 犬死なんてごめんだ。


 ああ、なるほど。

 そりゃキワコも怒(キレ)るって。



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ホワイトシューターさん何者
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