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令和最初で最後のスケバン、タイムリープだか憑依だかして昭和の極妻になって全国を制覇する‥‥とかしないとか  作者: 真夜航洋


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第5話 敵情視察


(ああ。この男、夢の中で浮気してたんだなあ。なんて間の悪い)


ため息をつく着流しの男に、帰蝶が向き直る。


「えっと。あんたの名前は?」

「……ああ。記憶喪失でしたね。あっしは、若頭やらせてもらってる佐久間信男です」

(惜しい。信盛だったら織田家の家老、だけど)


「えっと。何か?」

「佐久間。くわしく、説明をしてくれない?織田組と、そのカイドウグループの関係」

「え。いってえ、どうなさるんで?」


「そりゃあもちろん、反撃だ。ナメられて黙ってられるか」

「……」


「それに、組長を撃っておいて無事で済む、なんてふざけた前例をつくるわけにいかないだろ?えっと。なんだその。と、と……」

「確かに。渡世の義理が立ちませんね」

「それだ!」




織田組の事務所兼織田家は、赤羽にあった。

古い家屋をリフォームしたのか、あちこちにつぎはぎの修復跡が見える。

当時の言葉で言うバラック小屋だ。


見た目からして強力な団体ではなさそうだ。

居間という和室で、東京の暴力組織の現状と今回のいきさつを佐久間から聞く。


ブルル、ブルン。

ブオン、ブオン。


周りが騒がしい。

バイクの音だ。


「愚連隊です。海道グループも愚連隊でさあ」


昭和24年(1949年)は、太平洋戦争終結から4年後。

東京はまだ戦後の混乱が続いていた時期だ。

直後の焼け野原からはだいぶ復興していたが、建物も人心も荒廃していた。


終戦直後の反社会的勢力には三種類ある。


①織田組のような博徒集団 

②全国の露店を仕切る的屋テキヤ組織 

③愚連隊


この時点で戦前からある博徒集団と的屋組織は、戦争によって弱体化していた。

今は愚連隊が幅を利かせている。


博徒集団の主なシノギ(収入を得る手段)は、肉体労働の人材あっせん・スポーツや演芸興行・非公認ギャンブルなどである。

対してテキヤは、祭りやイベントの出店を取り仕切って利益を得る。

この二組織は棲み分けもできている。


だが、愚連隊は自らの行動を律しない。


人材派遣や博打にも絡むし、出店からショバ代をたかることもある。

さらには窃盗・脅迫・暴行・詐欺・人身売買・麻薬、必要とあれば、委託殺人も請け負う。

彼らに「仁義」などという縛りはない。


ここ東京北部では、海道グループが幅を利かせているらしい。

最初のうちは、略奪や女たちを暴行し続ける不良米兵に対する自警団として発足し、しばらくは英雄として市民の喝采を浴びていた。

だがやがて、海道グループ自体が窃盗や暴行を犯す愚連隊化した。


「そいつらのシノギは何なんだ?」

「大半はゆすりたかりですね。飲食店にショバ代をたかったり、通行人や車に当たりに行って因縁つけたり」

「その場シノギってか?ただのチンピラじゃないか」


「ただ幹部の連中は、賭博に手を染め始めています。そこで奴らは、俺たち織田組のシマに目を付けたんです。ウチは戦前からある博徒集団ですからね」

(つまり、縄張りを乗っ取ろうとしているわけか)





博打は麻薬だ。

胴元になれば安定した金脈になる。

博徒集団が弱体化している今のうちに、この金づるを奪うつもりだろう。


「海道グループの幹部連中がどの程度のことをやっているのか、この目で見てみたいな。佐久間。案内してくれない?まずは、敵のことを知りたいからね」


敵情視察というわけだ。


(できれば、幹部の顔を確認したいとこだけど)


「そ、そりゃまあ。あっしはかまいませんが。ただ、女がそんな場所に出入りするのは……」

「大丈夫だ。男装する」


ハンチングという帽子に短パンとシャツを着たら、少年のように見える。


(なんか、映画で見た靴磨きの子みたいだな)


まず、駅前の路地裏にあるパチンコ屋を覗いてみた。

バラック小屋の中に、数十台のパチンコ台が並んでいた。

平日なのに満員だ。

客は立ったまま、咥え煙草でレバーを弾いている。

ひと玉ひと玉穴に注ぎ込んで、一発ずつ打っていく。

なんとも気の長い、のんびりした博打に見える。


「これで、いくら儲かるんだ?」

「いや、金にはなりません。出玉をチョコレートや洗剤なんかと交換するだけです。博打というより、暇つぶしの遊戯ですね」

(令和とは較べものにならない。パチンコ産業は一兆円市場らしいからな)

「次は府中に行きます」


東京競馬場は盛況だった。

ゲートが開いた瞬間に、ウオオオという歓声が飛ぶ。

誰もが数枚の馬券を握りしめている。


戦時中一時中断されていた日本の競馬は、この三年前(1946年)畜産業の復興とインフレ対策のために再開された。


競馬開催は、浮動貨幣を吸収して新紙幣に切り替える国策の一つだった。

そのため戦中はひとり一枚しか買えなかった馬券制限もなく、配当金も百倍まで許可されていた。


(当たれば百倍か。そりゃ熱くもなるよね)


すごい熱気だ。

博打というのは陶酔感だ。

行き詰っているとき、沈み込んでいるときほど利く麻薬だ。

肉親との別離、復興の苦労、将来に希望を見出せない空虚感を埋めてくれる。

だから、いくらでも金を払う。


(人間は、貧しくてもつらくても博打だけはする、とは聞いていたけど)


帰蝶は、人間の弱さ悲しさを感じた。





つづく



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