第24話 直属部隊オーディション
「ええ加減、肚ん中見せんかい!」
鬼の形相だ。
だが帰蝶は、クールな眼差しで返す。
「そりゃあ…おめえら、だろ?」
「……なんやと?」
「大和田組の東京進出のことだよ。来る気あんのか?イモ引くのか?田母神さんの名前まで出した、てめえが答えろよ」
山縣が赤鬼。
帰蝶はクールな青鬼の顔を向ける。
「…‥あかん。酔うてもた。帰るわ。ごっそさん」
湧き上がるものを抑えるように立ち上がる。
これ以上いたらケンカになり、抗争のきっかけになりかねない。
ディナーショーの反省点だ。
「織田帰蝶。これだけは覚えとけ。田母神雄一は、田母神雄一ひとりだけや」
その目を見て理解した。
(ふうん。要するに、ヤキモチってわけね。男に惚れた男の嫉妬は女よりタチが悪い、ってか?)
数日後、同盟相手の松家康平に呼び出された。
「カシラは藤城明会長の甥っ子なんだよ。喧嘩の仕方も上手いし金儲けもできる。だがお坊ちゃま気質が抜けねえんだ」
最近明王会の若頭に就任した、稲村裕次郎の話だ。
「純粋ってのかな。右翼思想家の玉木にハマっちまっててな。会を妙な道に引きずり込まねえように、って俺がオヤジからお目付を命じられてるのさ」
悪い兆しがあるらしい。
最近の稲村は組員を国家神道に勧誘して、煙たがられているようだ。
国家神道は戦時中の軍部が国民に強要した宗教で、アレルギー反応を持つ者も多い。
(早い話、新興宗教にハマってるお坊っちゃま、か。チョー危険な臭いがすんね)
令和でも、新興宗教がらみのいざこざは絶えない。
時代が変わっても、そこは変わらないようだ。
「で、その玉木が最近大和田組にも近づいててな。大和田と明王をくっつけようとしているんだ。明王会を思想的に染め上げて、あわよくば大和田組も意のままに操りてえ、ってとこだろうな」
「はあ。漁夫の利ってやつね。玉木ってのは、フィクサーなんでしょ?」
「いや。気取りだよ。フィクサー気取り」
(ふうん。虎の威を借りて大物ぶりたい性格は、玉木玲央と似てるのかも)
俺にはバックがいる、と強がっていた令和の半グレを思い出す。
「そうだ。今日はもうひとつ話があってな。先日ほかの幹部と話したんだが……」
関東天武会総裁、兼、浦和会名誉会長の吉野。
同舎弟頭、兼、明王会若頭補佐の松家。
同若頭、兼、大吉連合幹部の宮本。
3団体の代表が顔をそろえた。
今後の関東天武会の方針を決めるためだ。
関東の地図を拡げて話し合う。
「こないだみてえに、神戸は西から攻めるだけとは限らねえ。北の備えも必要だ」
埼玉の吉野総裁にとっては、切実な問題だ。
「そこで天武会では、久喜にデカい支部を置く。ここにトラックや武器を常備する」
大吉連合の宮本が、地図を指して補足する。
「そして南の備えとして、蒲田にも同様の支部を置く」
大吉連合は、東京南部を縄張りにしているからだ。
今度は明王会の松家だ。
「だがそれでも安心できねえ。同時侵攻もあり得るからな」
一同は、同じ結論に辿り着いた。
「そこで関東天武会の司令部は、久喜と蒲田の中間点にある赤羽、つまり織田組に置くことに決まった!」
「はあ?」
帰蝶が気色ばむ。
「各団体から即戦力を出して織田組に預ける。好きに使っていい。日光街道で会津を撃退したのは、織田帰蝶なんだからな。頼んだぜ」
(荷が重い。いや、めんどくせえ)
心の中でため息をついた。
数日後。
関東天武会司令部直属部隊のオーディションが開かれた。
東京は闇の人材も豊富だった。
もと足利会の浦和会から派遣されてきた白井博之という男は、相撲部屋上がりの巨漢だ。
「しこ名は何だったんだ?」
帰蝶とともに面接する惟任が訊く。
「津軽ノ熊っす。生まれは青森の山の中っすが、育ちはブクロ(池袋)っす。部屋では白クマって呼ばれてました」
服を脱がせると、肚にでかい傷がある。
「酔ったヤー公にドスで刺されたっす。けど腹の脂肪で止まって、内臓はかすり傷もなかったっす」
「そのヤクザが浦和会の者で、スカウトされたわけか」
いい弾除けになる。
銃弾を食らっても、しばらくは動けるだろう。
歩くマットレスだ。
事務所の壁で相撲の基本、鉄砲を張らせてみる。
部屋全体が揺れた。
怪力だ。
(安土会の柴田勝家・権俵六花を思い出すなぁ)
武器が使えない場面でも、この男なら片手一本で相手を撲殺するだろう。
「採用だ。おまえはあたしのボディガードをやってくれ」
大吉連合から来た矢島猛は、満州陸軍の狙撃手だった。
草野球で使うバットケースを持参している。
「M1Cガーランドというライフルが、俺の相棒です」
バットケースを開く。
そのM1C狙撃ライフルが出てきた。
「いま、撃てるか?」
「ご用命とあらば。標的は?」
「そうだな。こいつ」
そう言って、帰蝶が惟任を指す。
「姐さん!」
「冗談だ。窓の外に看板が見えるだろう。天武会の『天』の字の真ん中を撃ってみろ」
矢島が素早く8本の銃弾をクリップに装填し、ライフルを構える。
「親分。ここは街中ですよ」
「ご心配には及びません。M1Cはロングストロークピストン式なので、大きな音はしません」
8弾クリップ(弾倉)を挿す。
遊底を引く。
スコープを覗く。
照準を定める。
引き金を絞る。
ものの10秒とかからなかった。
パン。
天武会の天の字の真ん中に亀裂ができた。
「天をも切り裂くスナイパーか。合格だ」
つづく
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