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令和最初で最後のスケバン、タイムリープだか憑依だかして昭和の極妻になって全国を制覇する‥‥とかしないとか  作者: 真夜航洋


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第23話 フィクサー 


一瞬のブラックアウト。


だがすぐに、鏡の中に自分を見る。

ドレスが留袖に変わっている。

頭も日本髪に結ってある。


(ん?ホントに、はしょってくれたんだ。トイレから始まる昭和35年、1960年か)


化粧室を出ると、思った通り織田三郎が待っていた。


「もう。帰蝶、長いよ。俺、こんな所にあんまりいたくないからさ」


あたりを見回す。

ホテルのロビーは、さっき以上にヤクザ者たちで溢れかえっている。


「旦那。ここで何が始まるのか、教えてくれる?」

「はぁ?おまえが連れて来たんだろ?」

「いいから、教えて」

「いま日本中で話題になってる、60年安保闘争だよ!」

「?」




着いたのは、昭和35年5月の東京だった。

翌6月に60年新安保条約批准のため、アメリカからアイゼンハワー大統領が来日する。

その際想定されるのが、国会周辺での反対デモだ。


この安保反対デモを阻止するデモ潰しのために、東京中の暴力団と右翼系政治結社の代表がこのホテルに招集された。

その責任者となったのが日本のフィクサー・玉木富士夫であり、会合を仕切るのが瀬川隆介だった。

 

広いロビー内には、大吉連合・明王会以外の団体代表も集まっている。

織田三郎と帰蝶は、関東天武会の代表で出席している。


(60年安保闘争、か。何のこっちゃ?)


帰蝶は右翼でも左翼でもない。

そもそも、何のことかわからない。

ただ今回のデモは、想像を超える規模となるだろうと言われている。


「しかるに警察力が弱い今の日本においては、右翼団体や任侠の皆様の手をお借りするしかないのです。ですので、是非とも皆様のお力をお貸しください」

 

壇上で瀬川が説明している。


「それでは、今回の主催者・玉木富士夫氏より、ひとこと賜りたいと存じます。総帥、どうぞ」


(玉木?)


瀬川と入れ替わって、玉木が壇上に立つ。


「うほん。このたびはお忙しい中、お集まりいただきたいへん恐縮であります……」


日本のフィクサーとやらの顔を見る。


(玉木富士夫と玉木玲央。心なしか、顔が似てる気がするな。ふたりに血縁関係でもあるのなら、今回の相手はこいつなのかもしれないな)


玉木玲央は、令和で関わった半グレのクズ野郎だ。


「特に大和田組の諸君には、神戸市から遠路はるばる足を運んでいただき、恐悦至極であります」


「大和田組?」

「ほら。あっちにいるのが、大和田組若頭の下地道夫と田母神の番犬・山縣賢三だってさ」


見ると、一段とイカツい初老の男と体中から闘気を発している男がいる。


「玉木さんはこの際、日本中の裏社会の人間が一つにまとまるべき、大同団結するべきと考えているんですよ」


背中からの声。

いつの間にか瀬川が背後にいた。


「今回のデモ潰しは、その前段階、地ならしなんです」


帰蝶が首をかしげる。


「いや、瀬川さん。お言葉だけど。ヤクザってのは型に嵌まらない、嵌まりたくないからヤクザやってんでしょ?そんなことできんの?」

「……ふ。さすがは帰蝶さん。鋭いですね」


それだけ言うと、瀬川は別の団体の許に行ってしまった。


(あのひと、あいかわらず何考えてるかわからんわ)





翌月までに準備すべきことを周知徹底され、二時間ほどで解散となった。

帰りかけた三郎と帰蝶を、誰かが呼びかける。


「関東天武会本部長」


振り返ると、山縣賢三だった。


「大和田組の山縣言います。喧嘩に戦車持ち出した織田はんやんなあ?一度じっくり話してみたかったんや。このあと、どないだす?」


酒を飲むジェスチャー。

正直面倒だし、嫌な予感しかしない。

だが、肚を探る必要はあった。


 


銀座にある大吉連合直営のクラブ。

そのVIPルーム。

しばらくホステスを付けていたが、頃合いで席を外させた。


「どない思います?今回のデモ潰し」

「どうって言われても……」


三郎は極道社会に詳しくない。

帰蝶が代わって答える。


「デモ潰しの間だけ仲良くしろよ。そう受け取ってますが」

「ほう。さすが、本部長の姐さんや。けど、ちゃいまんな。ずっと一緒に仲良くやってくれ、いうことですわ。俺は平和主義者やから大賛成やけど」


(大吉連合の幹部に拳銃を突きつけた奴が、よく言うよ)

(織田組の親分は女房の方、いう嘘みたいな話はホンマみたいやな)


三郎ではなく、帰蝶に対して話し始めた。


「そういや、関西じゃ、織田帰蝶はんは実質関東のトップ。清水次郎長の再来か、いや女次郎長や言うてますで。ほんまのとこはどうですのん?」

「買いかぶりですよ。昭和の次郎長は、田母神さんでしょう」

「その田母神雄一が言いまんねん」



 

会津大和田組の組長から、日光街道の詳細な報告を受けた時だった。

田母神が呟いた。


「返り討ちとはこのこっちゃな。奇襲を甘う考えて、兵隊や道具をケチりよるからこうなるんや」

 

語調は穏やかだったが、会津の福島組長は震えていた。


「わしは普段から言うてるはずやで。喧嘩する時は必ず圧勝せい。若いモンに傷ひとつ負わすな」

「すんません。私が指揮を執るべきでした」

 

福島組長は責任を若頭に押し付けたい。

だが、それを見透かした本部の若頭・下地道夫が怒鳴りつける。


「若頭は引退させえ。ほんでおどれも、本家に戻って雑巾がけからやり直せ。あほんだら!」


会津には別の幹部を送り込み、体制を刷新することになった。

信賞必罰。


「しやけど、東京もおもろいな。織田の女房いうベッピンが、明王の補佐をさしおいて指揮を執った、てか。はは。女にしとくのはもったいない。わしの若い頃みたいやな」


田母神も先代をさしおいて、力で周囲を圧倒し今の地位にある。 

山縣は複雑な思いで、その言葉を聞いた。





「恐れ多いですね。でもこういう話は、尾ひれがついて…」


番犬の眼の色が変わる。


「謙遜とかええねん。こっちゃは本音が聞きたいんや。明王も大和田も踏み台にして天下とったる、そう言えや!」


テーブルを割る勢いで、両のこぶしで叩いた。




つづく



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