第21話 埼玉侵攻
[横浜駅です。また途中下車です。今度は約250名。熱海駅と併せてほぼ全員が、品川に辿り着く前に列車を降りました。残っているのは、さきほど名古屋で取材に答えた幹部と数名だけです]
山縣賢三と若衆だけ。
もうわけがわからない。
たった数名で東京に乗り込んで、何をする気だ?
加藤をはじめ、臨戦態勢を整えていた大吉連合本部は混乱した。
その頃、帰蝶と松家は日光街道を走るトラックの中にいた。
「陽動作戦。本命は埼玉侵攻、か」
十数台の大型トラックが、足利会の構成員200名を載せて並走している。
それぞれが日本刀や拳銃を携帯している。
「確かに埼玉の北、福島には会津大和田組という東北の一大拠点がある。で、これまで埼玉はどっち着かずだった。足利会は格好の標的ってわけか。さて、おめえの読みは当たるかな?」
「備えあれば、だよ。来なきゃそれに越したことはない」
「俺は来てほしいぜ。田母神の狙いは、裏社会のディナーショーだ」
「なに、それ?」
「関西音楽のお披露目ディナーショーは大ニュースになった。ラジオや新聞・雑誌も大きく取り上げた。素人衆には華やかなニュースだが、裏社会の人間はみんな知ってる。黒幕は大和田組だ、ってな。今度はウラが表にひっくり返って、明日の新聞の社会面を飾る。『大和田組、東京進出!関東勢は右往左往』とかよ」
「それが、カリスマの狙いか」
「だが、そいつを俺たちがまたひっくり返す。ウラはウラでおとなしくしてろ、ってな」
やはり、この男は切れる。
よく理解している。
このひとと同盟を結んでよかった。
三十分後、松家も帰蝶に対して同じことを痛感する。
品川駅前。
広々としたロータリーには、警察車両がひしめいていた。
それを背景に、加藤が立ち尽くす。
(いいな。どちらもおかしな挙動をすれば、機動隊が全員で取り押さえるからな)
警視庁四課課長が、加藤に言い含める。
加藤一家で同行を許されたのは、ふたりのボディガードだけ。
当然、武器は携帯できない。
「おお。加藤はん。もしかして迎えに来てくれはったんでっか?お忙しいのに、えろうすんません」
山縣と手下3名が、無邪気に手を振っている。
(行け。大丈夫だ。警視庁がついてる。行って話をして来い)
しかたなく、歩み寄る。
「あ、そやそや。これ…」
山縣が、内ポケットに手を伸ばす。
「動くな!おまえは伏せろ!」
刑事課長が、加藤の頭を地面に押し付ける。
同時に警備局のライフルが、山縣らに向けられる。
「ああ。ちゃいますちゃいます。わしら、さっきおまわりはんに身体検査されましたがな。加藤はんにプレゼントがあるんですって」
内ポケットから取り出されたのは、数枚の紙きれ。
「地面に置け!」
刑事課長はあくまで慎重だ。
「風で飛んでまいますよ。あ、十円玉乗せときますね」
「よし。加藤、取ってこい」
加藤が歩み寄り、重しに置かれたコインごと紙切れを手に取る。
「美雲やよいワンマンコンサート?チケット?」
「へえ。オヤジからですわ。こないだはやよいの喉の具合が悪うて、一曲しかお聴かせできなんだ。加藤はんは筋金入りのやよいファンやと思うので、来月のコンサートにご招待します。今後ともやよいをよろしゅうに、やそうです」
「え?これを渡しに来たってのか?」
「はい」
ほっと脱力する加藤の隣で、四課長がかみつく。
「ふざけるな。ではなぜ500名も連れてきた。他の構成員たちはどうした」
「あれらは別件ですわ。慰安旅行。半分は温泉、半分は横浜で女遊び。コースが分かれてもうて」
こんな肩透かしは初めてだ。
課長の身体がわなわな震える。
加藤は長い緊張から解放されて、今や涙目になっている。
「よかったあぁ」
「あ、加藤はん」
「うん。何?」
「十円玉は返してな」
日光街道・栗橋宿。
利根川を挟んで福島を望む、埼玉との県境である。
この頃の県道や下道は舗装されていないので、福島からの大型車両はこの利根川橋を通るはずだ。
果たして…。
ご丁寧に「会津大和田組」と車体に書かれた大型トラックの集団が、こちらに向かって来るのが見えた。
帰蝶が呟く。
「ビンゴ!」
「なんだい、そりゃ?」
「そのうち流行る言葉だよ。さてと。戦力はどの程度だ?」
双眼鏡を覗く。
まずは名刺代わりのカチコミを計画していたのか、トラックはわずか3台だ。
乗っているのは50人ほどか。
帰蝶が立ち上がって、命令を下す。
「橋の上に5台残して、あとはやつらの前に横付けにしろ」
轟音と砂煙が上がる。
橋向こうの一団が急停止した。
こちらを認めたのだ。
「チャカを抜け。当たらなくていい。撃ちまくれ!」
つづく
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