第18話 ディナーショー
今回帰蝶と松家は足利会の吉野彬を傀儡に使って、新たな勢力を作り上げようとしている。
(信長は室町幕府の第15代将軍・足利義昭を傀儡にして京都に拠点を置いた。あのゲームでは、それがステージ3だった。ということは、ここでも足利会がキイになるのかな?)
ここに送り込んだヒットマンも、そう名乗っていた。
「さて、会の名前は何にする?」
「あたしが決めていいの?」
「ああ。いずれ帰蝶ちゃんの会になるんだ。ただ、上に関東を付けてくれよ。足利会は埼玉だからな」
「……じゃあさ。関東天武会……天下布武を縮めて、天武」
「はは。天下布武って織田信長かよ」
稲葉山城攻略後、信長が宣言したのが「天下布武」である。
当時の極道の世界では、三〜四十代は青二才扱いだ。
まずは、六十代半ばの吉野彬を総裁に戴く。
現在36歳の松家は、近々吉野と兄弟盃を交わす予定だ。
そうなれば、新しい団体の舎弟頭となる。
吉野のあとは、松家が相談役としてつなぐ。
そののちに、織田三郎が総裁の座に収まる。
そういう計画だ。
前のステージで、思い知ったことがある。
この時代の日本では、女性は表に立つことはできない。
(それまでに、あのボンクラをその気にさせないとなあ)
その年の4月上旬。
関西音楽事務所の「オールスター・ディナーショー」が赤坂の某ホテルで開かれた。
ニ日間の日程で、一日目は看板歌手の美雲やよいが大ヒット曲5曲を熱唱した。
他にも演劇やコミックショー、ビンゴ大会などがあり大いに盛り上がった。
二日目にやよいが喉の痛みを訴えた。
舞台監督は、三代目大和田組組長の田母神雄一にお伺いを立てる。
関西音楽事務所は、大和田組のフロント企業なのだ。
「ファンの大半は、やよいの歌唱目当てで来ております。いかが致しましょう?」
「一曲だけや。ここでやよいの喉を潰しでもしたら、それこそファンに申し訳ないやないか」
美雲やよいが天才少女と呼ばれた頃から、田母神は孫のように溺愛している。
やよいの健康第一を命じた。
ディナーショーが始まり、やよいの減らしたレパートリー分を三谷波夫や畑田義男らが補ってビンゴ大会につないだ。
「おい。やよいはなんで一曲しか歌わねえんだ?なんだ、この茶番は」
大吉連合幹部の加藤正英というヤクザが、不満を漏らす。
運悪くビンゴが当たらないことも拍車をかけた。
さらに運悪く、観客と同じホールに演者たちがいる。
ディナーショーが高額なのは、スターたちと同じ空間にいられるという特典が付くためだ。
加藤が演者席を睨む。
「バカ高え料金とって、これかよ。興行がどういうもんか、西の田舎モンに教えてやらあ」
加藤はやよいのつくテーブルに、千鳥足で向かった。
酒に酔っていたため、やよいの隣に座る田母神や周りをガードする屈強な男たちの姿はおぼろげだった。
「よお。やよいちゃんよお。もう一曲ぐれえ歌ってくれよ。えっと、アンコールっつーやつよ」
即座に、大和田組の若衆に囲まれた。
「な、なんだよ。俺は客だぞ。ふざけた真似すっと泣き見るぞ、こら!俺は大吉連合の…」
名乗る前に、加藤は連行されていった。
外の駐車場。
加藤は車のボンネットに体を押し付けられ、こめかみに拳銃を突き付けられた。
「おう、ワレ。大吉連合とかほざいとったのう。スジモンが大オヤジに近寄ったら、そら宣戦布告やで。そう解釈してええんやな?」
超のつく武闘派・山縣賢三が耳元でささやく。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。大オヤジってなんのことだよ?」
「やよいお嬢の隣にいはった人や。おどれ、スジモンのくせに田母神雄一の顔も知らんのかい!」
忘れていた。
大吉連合の先代総長は、田母神とは兄弟分だった。
だからこそ、シマ内の赤坂でお披露目を許された。
神戸から田母神雄一が来るかもしれない。
くれぐれも粗相のないように。
顔写真付きの廻状が回っていたはずだ。
「まず、組と名前を言え。大吉連合の何組や?」
「…品川加藤一家、加藤正英だ」
「なんや。連合の幹部はんか。こら、失礼しましたな。おい」
押さえつける若衆の腕が緩んだ。
「しやけど、あんたが悪いんでっせ。わしら大和田組にとって、田母神はホンマの神なんや。そら、手荒な真似もしますわ。けどまあ、ご無礼堪忍したってや」
事務的に頭を下げられてから、解放された。
「加藤はん。お互い、ええ酒飲みまひょな」
山縣は拳銃で投げキッスをして、去って行った。
(くっそう。たこ焼き野郎が。このまま帰すと思うなよ)
誰であろうがメンツを潰した奴は殺し、恥をかかせた奴は半殺しーヤクザの行動原理だ。
翌朝。
やよいたち歌手連は、レコーディングのために東京に残った。
田母神と山縣ら幹部はハイヤーで品川駅まで向かい、東海道本線の指定急行で神戸に戻る予定だった。
そのハイヤーに乗ろうとしたとき。
大和田組の吉村という幹部が、血相を変えて追いかけてきた。
「オヤジさん。このままこの車で、神戸まで向かってください」
「吉村。なに眠たいこと言うとんね。オヤジはお疲れで…」
口を挟む山縣を遮り、吉村がさらに頭を下げて頼む。
「品川駅に、関東のスジモンがたむろしとります。なんや、加藤なんたら一家言うとるみたいです」
山縣が舌打ちをした。
(あの天ぷら野郎。わしはきっちり謝ったやろがい)
つづく
ブクマや☆付けて欲しいです!




