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令和最初で最後のスケバン、タイムリープだか憑依だかして昭和の極妻になって全国を制覇する‥‥とかしないとか  作者: 真夜航洋


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第16話 勝利の裏側 

 

(稲葉組はあたしがぶっ潰してやってもいい。でも今回は、クソ警察どもにやらせる!)


そうしなければならない。

そうしなければ、この国は戦時中と変わらないまま未来へ向かう。


(あたしが知ってる令和のダークネス(暗部)は、この時代から始まってたんだ)


根っこを引っこ抜かなければ、大樹となって惡の華は未来に咲き誇るようになる。


いま、やらなければならない。


(あたしがこの時代に極妻に生まれ変わった理由は、これなのかもしれない)




冷静に策を練ってみたが、行き詰った。

少女売春では、警察当局は動かない。

松家に相談してみた。


「ああ。確かに『売春は売る方も悪い』と言ってるサツは多いな」

「未成年の女の子なんだよ。売るんじゃなくて、売らされてるんだって!」


「まあ、落ち着けよ。だが稲葉組がアッチだと判断すれば、やつらも重い腰を上げるんじゃねえか?」

「アッチ?」

「共産主義だ」

「きょ、きょ、きょうさん?」

「ああ、そうか。わかんねえわな。この時代、『女は政治に口を出すな』だからな」

(いや。そのへんの歴史の勉強は苦手だっただけ、だけど)


1940~60年にかけて、アメリカをはじめとする西側諸国は台頭してきたソ連や東ヨーロッパという共産主義国家を恐れた。

資本主義という現体制を、根本から覆す存在だからだ。

戦後のアメリカでは、レッドパージという共産主義者排斥運動が始まっていた。


「アメさんの言いなりになっている日本でも、共産主義アカは絶対悪だ。国も最重点課題にしてる。警視庁に公安部っていう反共専門の部署を作ったほどだ」

「つまり、その公安部を動かせば?」

「さすが帰蝶ちゃん。察しがいいな。今の警視庁は、アカのアの字を聞いただけで動くさ」


冤罪になっても構わないから逮捕しろ!

それほど過剰反応を起こしているそうだ。


「具体的にはだ。稲葉組は北朝鮮の出先機関だ‥‥そういう噂を流すだけでいい」


いま起きている朝鮮戦争の共産主義側、北朝鮮。

当時からその出先機関が、雨後のタケノコのように発生していた。




三郎を使う。

瀬川隆三に、このガセネタを話させた。


「……てなわけで、稲葉組はどうやら少女売春に手をつけてるようで。その儲けを北朝鮮に送金している、なんて噂もあるみたいです」

「ほう。北朝鮮の出先機関ですか。売春やヤクザの抗争では弱いですが、防共ということなら警視庁を動かせますね。いいでしょう。私から公安部長に話しておきましょう」


戦前戦時中最も強力な官僚組織は、内務省だった。

警察や地方自治を担うため選挙にも強く、政治家さえも言いなりだった。

戦時中は軍部と癒着していたため、真っ先にGHQに解体された組織でもある。


瀬川隆介は、陸軍参謀本部の数少ない生き残りだ。

そのため、内務省OBの警視庁幹部と太い人脈があった。


「警視庁には、稲葉組および足利会に対するデモクラティックな行政を希望します」


その言葉だけで、公安部長は忖度した。


直ちに、稲葉組に対する警視庁の一斉検挙が始まった。

現場が都内だ。

埼玉県警には何の通達もなしに、稲葉組が所属する足利会にまで捜査が及んだ。


「東京のデコスケが土足で上がり込んでんのに、埼玉の腐れマッポは指くわえて見てるだけか?」

 

稲葉は激怒した。


この頃の暴力組織と地方警察は持ちつ持たれつの関係だった。

埼玉県警が手心を加える代わりに組織側が容疑者を差し出したり、対立組織の情報を共有したりした。


だが、今回は県警ではなく東京の警視庁だ。

手心も遠慮もなく、稲葉組は引っ掻き回された。


銃刀法違反、薬事法違反、賭博法違反、恐喝、傷害、殺人…ありとあらゆる容疑で、稲葉組の上部組織・足利会幹部までが連行されていった。

当然戸田競艇場への足利会の入札権も、当局により取り消し処分となった。


「稲葉のボンクラは何してくれてんだ。ああ?」

 

激怒はおさまらず、稲葉龍興には足利会への出入り禁止と謹慎が言い渡された。

事実上の破門である。


入札には他の団体もいくつか参入したが、尾藤商事から情報を得ている織田興業が現場工事の監督団体に正式に選ばれた。


こうして、織田組は大きな利権を手に入れたのだった。


「稲葉組のことをよく調べもせずに入会させていたから、足利会は大慌てだよ。吉野会長の方からあたしら織田組と松家の兄貴に泣きついてきた」




赤坂の料亭の個室に招待された。

三郎は大喜びだ。


「織田の。あんたは桜田門(警視庁)に顔が利くんだろ?なんとか取り繕ってくれねえか。足利会はアカ(共産主義者)とは無関係だ、ってよ」


埼玉のドン・吉野彬が下座に回って頭を下げた。


「あ。そんなことでいいんすか?朝飯前っすよ」


三郎は高い酒と料理を頬張りながら、安請け合いをした。 

帰蝶と松家は顔を見合わせて、ほくそ笑んだ。

 



ハイヤーの中で、それぞれが思いを巡らす


(すげえ。じゃあもう、あの足利会は織田組の言いなりじゃないか?)

(やはり、恐ろしい人だ)

(このひとについて行くしかないな)


だが帰蝶には、懸案事項があった。


(何もかもうまくいった。ただ、引っかかるのは……)


稲葉龍興組長までが逮捕され、稲葉組が消滅したことだ。


(令和の四代目細川高広まで続くはずなのに。歴史が変わった。変えてしま…)


「ウォッ!」

「危ない!」


惟任とキムが叫ぶ。

対向車のダンプカーが急ハンドルを切って、こっちに向かっている。


キキッ!

ズドン!

グシャ!



帰蝶の視界がブラックアウトした。




つづく



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