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令和最初で最後のスケバン、タイムリープだか憑依だかして昭和の極妻になって全国を制覇する‥‥とかしないとか  作者: 真夜航洋


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第15話 祝勝会


稲葉組は、佐久間が仕切る丁半博打の盆にも現れた。

 

イカサマだ、と難癖をつけて盆をひっくり返した。


「お客さん。断じてイカサマじゃありません。ただお気に触ったのでしたら、どうか私の頭でご勘弁ください」


衆人環視の中。その場で土下座して詫びた。

肩透かしを食った新井組組員は、下げた佐久間の頭を踏みつけた。

それでも佐久間は我慢した。

さすがに賭場に警察は呼べないからだ。

見かねた他の組のヤクザがとりなした。


「おい。盆はあんただけの遊び場じゃねえんだ。他の客に迷惑だぜ」

 

その男が大吉連合の筋ものだったため、事無く収まった。


これも松家に言われたことだ。


「佐久間。若頭とか舎弟頭とかカシラと呼ばれるやつは、下のモンに恨まれ憎まれてナンボなんだ。組のためには自ら率先して悪役を演じろ。情けねえ、って役もだ」

 

ノミ屋や賭け麻雀屋、織田興業仕切りの建築現場も荒らされた。

その状態がしばらく続いた。

それでも半数は手出しをしなかった。

しかし、半数は破門された。


「姐さん。これじゃいざ決戦って時に、兵隊が足りなくなんじゃねえんスか?」


決戦は自分の見せ場だ。

親衛隊隊長の前田利夫が心配気に尋ねる。


「稲葉んとこは構成員入れて70人位らしいから、数じゃ不利だな。だがウチには、信男と利夫がいるから問題ないよ」と笑う。


帰蝶が名前で呼ぶのは、このふたりだけだ。

ふたりはこの笑顔のためにどんな恥をかいてもいい、命を落としてもいいと思う。


(不利、か。決戦なんてものが起きるのならな)

 

決戦はおろか、抗争すら起きなかった。


嫌がらせが始まって、二か月が経った頃。

稲葉組の上部組織・足利会会長から手打ち(和解)の申し立てがあったのだ。




祝宴が開かれた。

稲葉組の圧力と挑発から守り勝った者たちは、その場で組長からの謝辞を受けた。


「みんな。喧嘩するよりよっぽど辛かったろうが、よく我慢してくれた。礼を言う。おめえらは織田組の誇りだぜ」


歓声が上がる。

滅多に話さない親分からお褒めの言葉をもらい、その場にいる者は感激しきりだ。

惟任が三郎を窺う。


(なるほど。こういう時のために、ふだん組員と話をさせないんだな)


三郎の周りには誰もいない。

対して帰蝶の周りには、戦前からの子分・佐久間と前田、明王会の松家までいる。


(やはり真の織田組組長は、姐さんなんだ)




宴もたけなわになると、自然と生え抜きグループと愚連隊グループに分かれて行った。

当初20人以上いた愚連隊も、破門されたりやられっぱなしに嫌気がさしたりで、今や数名しか残っていない。

彼らは惟任とキムを中心に、隅でひっそりと飲み始めた。

山内豊が小声で言う。


「兄貴。姐さんは俺らを追い出したいんスかね?」

 

危惧していたことだ。

その予兆は痛感している。


例えば今も、松家の子分たちが次々と現れては帰蝶を囲んでいる。

おそらくは目減りした頭数を補充するつもりだろう。


愚連隊はいよいよ行き場がなくなる。

姐さんのことだ。

今回の抗争を、使える者使えない者の炙り出しに利用したのかもしれない。




宴の一次会が終わり、各々が二次会へと四散していく。

惟任とキム、山内が仲間と行きかけた時だった。


「明光。イスン。豊。乗れ。話がある」


姐さんがハイヤーの後部座席から声をかけた。


(初めて名前で呼ばれた)

(何かあるな)

(もしかして、やっと俺を若頭にしてくれんのかな?)


「悪かったな。おまえらとゆっくり話したかったんだが、次から次と客人が出入りしててな」

「いえ。姐さんのお話なら、明日にでも自分たちの方から…」

「今後はシノギも太くなる。だが親分もあたしも、もっともっと組をでかくしたいと思ってる。そこでだ。おまえを親分の下に就けて、一緒に金庫番をやってもらいたいんだよ。明光」


太腿をさすってくる。

まるで、おねだりするホステスのようだ。


(この男を瀬川とのつなぎ役に使いたい。向こうはどうせ今回限りの付き合いにしたいと思っているだろうが、あんなウマい人脈を手放すつもりなど毛頭ないよ)


参謀上がりのあの男は、どうやら敗戦に引け目を感じている。

特攻上がりの惟任は、無言の圧力になる。

「あんたの立てた馬鹿げた作戦のせいで、俺は命を落としかけたんだぞ」と。


「それと、キム・イスンと山内豊。おまえらは分家させる」

「分家、ですか?」

「ああ。織田組系金森組だ。確かキムの日本名は、金森だったろ?」

「ええ。そう‥ですが」


「姐さん。俺は?俺はどう‥」

「豊は金森組の若頭だ。約束通り、な」

「‥‥は、はい!」

「金森組は、織田組の別働隊として働いてもらう」

「……わかりました。なんでも言いつけて下さい!」


組を追われるかもしれない、と危惧していただけに喜びは大きかった。


「それにしても、今回のケンカはお見事でしたね。姐さんは、いったいどんな手を使ったんですか?」


昇進して有頂天の山内が、お世辞を交えて訊く。


「教えてやるよ。今回あたしが描いた画はね‥‥」




金美蘭が帰蝶に小声で話したこと。


「私たち朝鮮人女子の間で、噂になっていることなんですけど。『埼玉には18歳以下の外国人女子を誘拐して、風俗産業で働かせるコワい組織がある』って」

「……それが、稲葉組だ、って言うの?」


もしそれが事実だとしたら、警察当局はなぜ動かないのだろうか?


「姉さん。知らないんですか?売春って、別に犯罪じゃないんですよ」

「え!?」


戦時中、そして戦後の倫理観は狂っていた。

売春防止法が成立するのは、これより先の1956年である。

それまでは、裁判所も警察当局も手を出せなかったのだ。


「それに日本の警察は、女の子の、しかも外国人のことなんて取り合わないみたいです」


法だけでなく、人権意識も狂っている時代だ。

女は男の言うことを聞いていればいい。

まして、外国の女など守る必要などない。


(ふざけんな。クソが!)


帰蝶のはらわたは煮えくり返った。

令和で、女子中学生に売春を強要させていた玉木玲央を知ったときのように。




つづく



挿絵(By みてみん)




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