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令和最初で最後のスケバン、タイムリープだか憑依だかして昭和の極妻になって全国を制覇する‥‥とかしないとか  作者: 真夜航洋


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第12話 利権


尾藤商事。その別館。


相変わらずのんきな三郎を連れてきた。

初対面では、やはり組長本人を引き合わせた方がいいからだ。

帰蝶は付き添いという体だ。


「こんなとこで話すの?商社マンとの密談ってさあ、料亭とかでやるんじゃないの?」

「質実剛健。瀬川さんの希望なんです」

「ええ?終わったら、芸者呼んでどんちゃん騒ぐんじゃないのお?」


(こいつ。珍しく男気を見せたと思ったら、それが目当てか。やっぱ、クソだ)

 

Annexという単語で身構えたが、商事会社の別館はプレハブという建物だった。

戦後復興用に開発された軽量鉄骨建築だ。

 

常務室という札が提げられた部屋の中にいたのは、白いワイシャツに黒ネクタイの武骨な男だった。

歳は40半ばと聞いている。


「失礼します。瀬川さん」


タイプライターで文書を作成していた瀬川に佐久間が声をかける。


「おや。もうそんな時間ですか。どうぞ、お掛けになってください」


部屋の主は立ち上がって、自らお茶の用意をする。


(大会社の常務なんだろ。秘書くらいいないの?)

 

それに、こんな極道者にまで丁寧な言葉遣いだ。


(軍隊は知らないけど、こういう連中が集まってる所なのかな?)


佇まい、物腰、姿勢のすべてにおいてピシっと筋が通っている。

特に背筋の伸びた凛然とした姿勢は、令和の人間には新鮮だ。

 

「織田さんはおいくつですか?」

「25です」


しばらく三郎をじっと見る。


「あなたが、あの九七式を蘇らせてくれたそうですね。私も見てみたかった。いや、乗りたかった。はは」

「あ、いや。自分は……」


まさか同席している女房がやったことだ、とは言えなかった。


「失礼。では、仕事の話を」


 


近々埼玉県に、戸田競艇というボートレース場ができる。

荒川を挟んで赤羽の対岸にある田舎町だ。

そこの建設現場を、裏から仕切る団体を探しているという。


大規模な建設現場には大量の人員が必要だ。

その中には荒くれ者やサボり癖のある者、厄介者も少なからずいる。

この連中に労働を強いることがひとつ。


また長期にわたる現場では飯場という宿泊施設と食堂が設けられ、そこでは博打遊びや喧嘩が横行する。

この諍いを収めることがひとつ。


これらがヤクザの出番となる。


「GHQが撤収したとはいえ、アメリカが我が国に押し付けるデモクラシーという名の資本主義は、ことあるごとに公平さを求めます。織田さん以外にも入札に参加する団体がいます。例えば、足利会とか」


(足利会?系列の稲葉組が、あたしらを入れたがってたよな。令和のニ三代前の組織かな?)


もしかすると上総リタを撃ったのも、稲葉組もしくは足利会が送り込んだヒットマンかもしれない。


「ただ、この入札はただのセレモニーです。織田組が足利会と話をつけて入札参加できないようにできれば、あとは尾藤商事が入札額を裏でお教えします」


「願ってもないお話です。是非ともわが社も入札に参加を…」


佐久間は組ではなく、織田興業としてこの件に関わりたいようだ。

帰蝶が口を挟む。


「現場と飯場の仕切りだけでしょうか?中佐殿」


あえて常務と呼ばなかった。

相手は眉ひとつ動かさない。

いや、最初からずっと、この男は一切の感情を見せていない。


「戸田競艇は紛れもない博打場です。開場したあとも、治安や秩序が乱れるおそれがあります。その点ウチは博徒集団です。収め方はよくわかってます。そこも仕切らせていただきたいです」


はっきりと希望を伝えた。

軍隊なら、懲罰ものなのだろう。

隣で佐久間がヒヤヒヤしている。

 

戸田競艇は建設完了後も、織田組に大きな利権をもたらす。

府中の競馬場は遠過ぎるが、戸田の場外なら飲食店を兼ねたノミ屋ができる。

ボートレースで高揚した客を、別の賭博に引き込むこともできるだろう。

丁半博打の盆、賭け麻雀、駐留軍相手にカジノもできるかもしれない。


「私の業務は、建設会社と施工管理団体を埼玉県や戸田町の自治体に仲介することです。その後について尾藤商事は関与しません」


どうぞご自由に、ということだ。

だが、そのためには抗争が必須になる。


(ウチの愚連隊どもでは、勝てない)


帰蝶に、ためらいの間があった。


「……懸案がおありなら、伺いますが?」


肚の探り合いのようになっている。

理由はわからないが、どうやら瀬川は好意的のようだ。

正直に話す。


「こちらの組織体制に不安があります。できれば、援軍がほしいですね」


率直に投げかけたことが、また好意を生んだ。


「なるほど。よろしければ、明王会の松家さんをご紹介しますよ」


瀬川は明王会と何度も仕事をしている。

若頭補佐の松家康平まつやこうへいと昵懇だそうだ。

 

若頭補佐は組長、若頭に次ぐ大幹部だ。

松家と繋がれば、抗争だけでなく賭博の仕事もやりやすくなる。

それに後見人になるのとは違う。

一時的な業務提携だ。


(だが隙を見せたら、明王会に飲まれるかもな)




つづく



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