第7話 堕ちた勇者
「は?」
知らせを聞いた瞬間、アスノは思わず、伝達官に掴みかかった。
服を掴まれた伝達官は驚き、すぐに怒り顔へと変わり、アスノを掴んで叩きつけるように投げ飛ばした。
「う……っ!」
「申し訳ございません! うちの村の若い者が! 後できつく言い聞かせておきますので、なにとぞお慈悲を」
「木にロープで縛りつけておけ」
すぐに村長が、伝達官の目の前に平伏する。
伝達官は不愉快そうな顔をしながら服を直し、アスノを指差して言った。
「ありがとございます。おい!」
村長は頭を上げた後、顔を動かして中年男へと指示を出した。
中年男はすぐにロープを持って来て、地面に蹲るアスノを担ぎ上げ、近くの木へと縛り付けた。
「何すんだよ、おっちゃん! 離せ!」
「馬鹿! この程度で済んで良かったと思え! 勇者様のことが聞きてえなら、大人しくしてろ!」
勇者のことと訊いて、アスノは暴れるのを止めて、素直に木に貼りつけられた。
しかし、遠くの方から、睨むように伝達官を見た。
伝達官はアスノを睨みつけた後、本来の職務を思い出して、村長の方へと向き直った。
「それで、勇者様が国外追放とのことですが」
立ち上がった村長が伝達官に促すと、伝達官は小さく頷き、続きを話し出した。
「勇者……いや、元勇者セーラは、我が国の禁忌である死者蘇生の法に手を出した」
「なんと。勇者様が」
「神の定めた節理を踏みにじる行いだ。本来であれば、死罪が相応しい」
「死罪だって!?」
アスノの叫びに、伝達官と村長がアスノの方を見るが、すぐに首を戻した。
「口も塞いでおけ」
「承知しました。それで、勇者様は……」
「本来であれば死罪だが、魔王を倒し、国を救った功績もある。よって、国王様の温情により、王家からの追放と国外への強制退去となった」
「おお、それは」
村の人間にとって、セーラは村を救ってくれた恩人だ。
そんな恩人が極刑に処されるなど、あまりにも情がない。
村長は、そして村人たちは、セーラが罪を犯したことに驚きつつも、ひとまず胸をなでおろした。
「むー! むー!」
納得できていないのは、アスノ唯一人だ。
布に邪魔されながらも叫び、ロープに遮られながらも手足を動かす。
セーラが罪など犯すはずがないという感情と、国外追放されたセーラに二度と会えなくなるだろう悲しみ。
幼い頃の感謝が悔しさへと変わり、自然と目から涙がこぼれていた。
「アスノ。気持ちは分かるが、少し落ち着け」
「んー! んー!」
「とりあえず、死ぬわけじゃあねんだ。良かったじゃねえか」
中年男の言葉に、アスノは暴れるのを止め、目を見開いて中年男を見る。
お前は何を言っているんだと、視線一つで訴えかける。
中年男とて、セーラに救われた一人のはずだ。
だからこそ、良かったという一言が理解できなかった。
「ああ、いや。すまん。良かったは失言だった。取り消そう」
中年男は取り繕うように言ったが、アスノはその謝罪を受け入れることはできなかった。
それほどの、アスノにとってセーラへの言葉は重かった。
気持ちは皆自分と同じはずだと、アスノは他の村人の方を見た。
村人たちは、声を落とし、近くにいる者と口々に感想を伝え合っていた。
「禁忌だって」
「なんでそんなことを」
「誰か、蘇らせたい人がいたんだろうか?」
「親か?」
「友か?」
「だからって、ねえ」
「まあでも、追放で済んで良かった」
「村の恩人ですしね」
アスノは、頭を金槌でぶん殴られた衝撃を受けた。
アスノの意見は少数派。
皆が中年男と同じ感情を抱いていることを、セーラの行動を否定していることを、受け入れることができなかった。
「それに」
「なあ」
「あの強さだし」
「万が一、暴れられたらやばいし」
「もう魔王もいないなら」
「国外にいたほうが、安心かも」
皆がセーラを恐れていることも、受け入れることができなかった。
「……なんだよ、それ」
伝達官が立ち去り、村人たちも仕事に戻っていく。
中年男がアスノを介抱するも、アスノは暗い表情で立ち尽くしたままだ。
「あのー、なんだ」
中年男は気まずそうな顔でアスノを見た後、何も言わずに立ち去っていった。
残されたのは、アスノ唯一人。
(皆、そうだったのか)
静かになった場所で、アスノは一人考えた。
(誰も、セーラに感謝なんてしていなかったんだ)
自分の独りよがりを。
(助けられたのに。命を救われたのに)
村人たちの非情を。
「悪魔は、どっちだよ!」
血の悪魔。
セーラにつけられた名前の意味が、アスノの中で逆転した。
悪魔のような強さも、血を浴びながら戦う姿も、アスノにとっては美しい物だった。
しかし、他の人々からすれば恐怖の対象でしかなかったのだろうと思うと、はらわたが煮えくり返った。
「……助けなきゃ。セーラを」
その夜、アスノは一人村を出た。
目指す場所は、アスノが監禁されているだろう、王都の王城。




